トッピングは星砂糖
きし あきら
トッピングは星砂糖
――きょうも
センタ・ニール通りにある<
え、メニューはどう、ですって? もちろん、おすすめできますとも。食べものも飲みものも、季節によった楽しいものが
夏のさかりのいまならば、やはり
え、ご存じない? ふわふわに
――そもそも、わたしがここに来たのだって、よく冷えた氷に目をつけたからなのです。――
フローラでは、さらに数種類のなかから、お好みの
ええ、
ほら、いまも目のまえには少女がふたり。向かい合わせで
「次の観測会はどうするの、ベクル」
片方の少女がたずねました。――たしか、この子はトッピングに
「行かない。夜は
ベクルと呼ばれた少女は答えながら、まだ半分ほど中身の残っているグラスを
わたしはそれをじっと見ながら、だまっています。
「アクル姉さんだけでも参加したらいいよ。それか、ガクルかデクルを
この言葉に、アクル姉さん、というらしき少女は、おおげさな、困った声を出しました。
「あのふたり、まだ
「わお。なんという妹たち」
ベクルの
「……だから、ねえ、行きましょうよ。夏期休暇なんだし、みんなも来るんだし」
「みんなって?」
「新聞部とか、天文部のひとたち」
「ふうん。……でも、この前の月食だって、けっきょく
わたしは、だまって聞いています。観測に月食ですって。
「そうね、ひどく
「でしょう。アクル姉さんはいいよ、早起きも夜更かしもつらくないんだから」
「あら、そんなわけないじゃない。私だって……」
言いかけて、……おや、アクル姉さんは、なんだか恥ずかしそうですね。こういうのって気になります。
「……あのね、ベクル。だれにも言わないでくれる?」
「なあに……。もちろん、言わない」
ベクルのスプーンがとまったので、わたしも身じろぎをやめました。
「あのね、私、……
「ああ。観測会に、ってことね?」
「それもだけど、もっと別の……もう、わかってるって顔してるわ」
まあまあ、なんとも甘酸っぱい。ベクルは面白そうに笑って――姉さんのデリケートな話をからかうなんて、困った妹ですね。――すぐに、ささやきをつくります。
「いつの間に会ったの? 休暇中なのに」
「ちがうわ、手紙でよ。今朝、
あわてたらしい姉さんは、すぐに
「そっちの大きいのは?」
おや、まあ。ええと。よく見えませんが、ベクルが口にしたのは、ほかのもののことですね。
「学生新聞ね。特別号なんですって。この辺りの生徒たちに配っているんですって」
「ふうん。休暇中でも書いちゃうなんて、新聞部ってやっぱり変だよね。読んでもいい?」
「いいけど……。
やさしい姉さんの言う通りです。ふわふわに盛られていた
「そのほうが好きなの。沈んだ
ロマンチストでもあるようです! 美味しく食べるだけではなくて、宝さがしだなんて。ちょっぴり見直しました。
「どれどれ。……“長期休暇中にも関わらず、お目通し感謝。”……」
読みあげているのは新聞でしょう。学生がつくったものですから、美味しいものや、でかけた場所や、そうそう、終わらない補講の対策なんかも書いてあるかもしれません。
わたしは、すっかり冷えたからだで、あくびをひとつして、ベクルの声に聞き入りました。
「“
ええ…………なんですって?
「なあに、これ。……“昼夜問わず街を
ええ、ええ。だれが書いたのでしょう?
「休暇中はね、ぜんぶ
「そう、ふふふ。星だって煮えすぎたらこぼれるのねえ」
愛らしいベクルの笑い声を聞きながら、ある考えが浮かびました。とても素敵なことですよ。ああ、わたしってやっぱり、根っからの<星>ですね!
ふたりに聞こえないように、そっと息を飲みました。胸がことこと鳴りました。
「そうよね。私でも、夏は涼しいところにいきたいもの。こんなふうに、
ええ、ええ。姉さん、いいですね。ほかにも
「私なら、いっそ、製氷機のなかでもいいな」
まったく同感ですよ、ベクル! 思わず声をあげそうになりました。さあ、もう、すぐにでも、ここから出なければなりません。
「“この記事は取材中のものであり、思いあたることがありましたら、どんな
わたしは身を浮かせて、シャーベットになった
「見てよ、姉さん。変わった
そう言って、少女が
「これ、
ベクルもようやく気がつきます。わたしがちょっと光ってみせると、ふたりの
「ええと、姉さん、……連絡、
これでいいでしょう。わたしは飛ぶために、とまったままの銀のスプーンを
ごきげんよう。可愛いベクル。やさしい姉さん。あなたたちの夢と恋とに、幸あらんことを!
――<フローラ>の水のカーテンをくぐったわたしは、ひとつ教えそびれたことに気がつきました。特にベクル。製氷機でのんびりしてしまうと、
トッピングは星砂糖 きし あきら @hypast
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