第18話
「どうして? どうして、尚輝さんを? 小鳥遊さん、あなたには同情しますけど……。ご両親のことは、尚輝さんには直接関係ないんじゃありませんか?」
と、森高さんが、涙を流しながら聞いた。
「ああ、確かにな。俺も、最初はそう思っていたよ。真実を、知るまではな!」
「真実?」
「ああ、俺の父親が自殺をしたのは、今から15年前。俺が、中学3年生のときだった。突然、新庄の父親の会社から捨てられた俺の父親は、なんとか必死で会社を立て直そうとした。しかし、立て直すことはできず、自殺をした――母親も、病気になり、数ヶ月後に亡くなった。俺は、親戚の家に引き取られて、高校にも行かせてもらった。その親戚も、今年の春に亡くなったんだが、亡くなる前に、俺に話してくれたんだ。俺の両親の会社を切った理由をな」
「どんな、理由ですか?」
と、森高さんが聞いた。
「新庄だよ。新庄が、父親に言ったんだ――あんな奴の会社とは、付き合うなってな!」
「当時の新庄さんって、中学生ですよね? 中学生が、そんなことを言うんですか?」
と、僕は聞いた。
「あいつは、そういう奴なんだよ。高校時代も素知らぬふりして、俺と仲良くしたり。新庄が、俺の両親の会社を切った奴の息子だということは、俺も知っていたが、新庄自身には関係ないことだと思っていた。その頃から真実を知っていれば――」
「いったい、何が?」
「新庄が中学3年の頃に、建設現場にやって来たことがあったそうだ。そのときに、新庄はヘルメットを被らずに現場の中に入ってきたらしい。そこで、俺の父親が新庄を怒ったそうだ。危険だからって。新庄は、怒られたことに腹をたて、新庄の父親に俺の両親の会社を切るように言ったそうだ」
「えっ? そんなことで? そんなことで、息子の言うことを聞いて、切ったりするんですか?」
「ああ、新庄は、両親に溺愛されていたからな。かわいい息子のことなら、平気で何でも聞いただろう。そんなことが原因で、俺の両親は亡くなったんだ! 俺は、その事実を知ったときに、復讐してやろうと誓ったんだ。新庄の父親は、もう亡くなっていたから、新庄を殺してやろう――ってな!」
小鳥遊さんは、そう叫ぶように言うと、テーブルを両手で叩きつけた。
「小鳥遊さん。たとえ、どんな理由があろうと、殺人の理由にはなりません」
と、明日香さんが静かに言った。
「ああ、そうだな……。俺も、自分のやったことの責任は取るつもりだ」
「責任?」
小鳥遊さんは、突然、食堂の外に向かって駆け出した。
突然の出来事に、みんな呆気に取られていた。
「明宏君! 追いかけて!」
明日香さんの言葉に、僕は慌てて走り出した。
食堂を出ると、小鳥遊さんがエレベーターに乗るところが見えた。僕もエレベーターに乗ろうと思ったが、既にエレベーターの扉は閉まって、上に上がっていった。
「くそっ!」
僕は、エレベーターのボタンを連打したが、なかなか下りてこない。どうやら小鳥遊さんは、一階でエレベーターから降りたみたいだ。
僕は、ようやく下りてきたエレベーターに、遅れてやってきた本多さんと森高さんと一緒に乗り込んだ。
エレベーターが一階で止まり、扉が開くと同時に、僕は駆け出した――
玄関で小鳥遊さんが、誰か数人に取り押さえられていた。
「あ、明日香さん――」
「明宏君、遅かったわね」
どうやら、明日香さんは、階段からやって来たようだ。高田さんも、一緒にいる。
そして、小鳥遊さんを取り押さえていたのは――
「さ、鞘師警部!」
小鳥遊さんを取り押さえていたのは、鞘師警部だった。
「皆さんは、何人かは残って、この男を連れて、一度署の方に戻ってください」
と、鞘師警部は、取り押さえている他の人たちに言った。
「分かりました」
小鳥遊さんは、数人の人たちに連れられていった。その場面を、明日菜ちゃんが撮影していた。
「明日香ちゃん、明宏君、待たせたね」
「どうして、鞘師警部がここに?」
僕には、訳が分からなかった。
「例の東京の殺人事件の捜査で、こっちまで来ていてね。まあ、私が着く前に、毒島は東京で逮捕されたんだが。そんなとき、明日香ちゃんから小鳥遊のことを調べてほしいと連絡をもらってね。そこで、地元の県警に協力してもらって、小鳥遊のことを調べていたんだ。幸いにも、小鳥遊のことは、すぐに分かったよ」
「そうですか。土砂崩れは、どうなったんですか? もう、通れるようになったんですか?」
「復旧には、まだ数日かかるらしい。天気が回復してきたので、ヘリコプターで来たんだ。小鳥遊を連れていったヘリコプターが戻ってきたら、君たちもそれに乗って帰ろう。もちろん、自宅までは送れないがな。それまで、県警の方たちに、何があったのか説明してあげてくれ」
「分かりました」
と、明日香さんは頷いた。
その後、ヘリコプターが戻ってくるまで、僕たちは地元の県警の署員に事件のことを説明した。
そして、鞘師警部も一緒に、僕たちはヘリコプターで別荘から脱出したのであった――
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