第16話
「犯人は、深夜に自分の部屋を抜け出すと、新庄さんの部屋に向かいました。しかし新庄さんの部屋には、当然ながら鍵が掛かっています。そこで犯人は、一度地下に下りて、新庄さんの部屋に繋がる階段を使って、新庄さんの部屋に行きました」
と、明日香さんは、全員の顔を見ながら言った。
「あ、あの……。尚輝の部屋に繋がる階段って、なんですか?」
と、高田さんが、困惑しながら言った。
「実は調理場に、新庄さんの部屋に繋がる階段があったんです」
「そんなものが!?」
と、高梨さんが、驚きの声を上げた。
「そして犯人は、調理場から持ってきた包丁を使って、新庄さんを殺害した。そして階段を使って、一度二階に上がりました。そこで犯人は、204号室に誰かが隠れていたように細工をしました」
「細工ですか?」
と、本多さんが聞いた。
「毒島さんを、犯人にということですか?」
と、森高さんが聞いた。
「犯人が細工をしたときに、毒島太郎という存在を意識していたのかは、分かりません。あの時点では、殺人犯の毒島が新庄さんの知り合いだとは知らなかったと思いますし、そもそも毒島のことを言い出したのは、明日菜ですから」
そういえば明日菜ちゃんが、毒島がここに逃げて来るんじゃないかと言い出したんだっけ。
「それで、その犯人は誰なんですか?」
と、高田さんが聞いた。
「確か、犯人は左利きだったよな? この中に、左利きのやつがいるっていうことだな」
と、高梨さんが言った。
「そうです。おそらく、一人だけ左利きの人物がいます」
と、明日香さんが言った。
「ちょっと、待ってくれ。俺も、一人だけ左利きのやつに、心当たりがある」
と、高梨さんが言うと、立ち上がって一人の人物を指差した。
「あんただよ――高田弘幸さん」
高梨さんは、高田さんを睨み付けた。
「えっ!? ぼ、僕ですか?」
名指しされた高田さんは、驚いて高梨さんを見つめた。
「ちょっと、待ってください。僕は、右利きです」
高田さんは、慌てて左利きであることを否定した。
高梨さんは、いったい何の根拠があってそんなことを?
「アスナちゃん。君は、昨日の夕食のとき、ビデオカメラで撮影をしていたよね?」
と、高梨さんは、明日菜ちゃんに聞いた。
「していたけど」
と、明日菜ちゃんは頷いた。
「それに、高田さんが左利きである証拠が映っているはずです」
「そんなの、撮ったかなぁ?」
「貸してください。昨日の、夕食の時間です」
「この映像です。見てください」
それは、夕食の直前に、高田さんにメールが届いたときの映像だった。
「高田さんにメールがきて、彼は左手でメールを打っています。これが、左利きであることの証拠です」
と、高梨さんは言った。
「い、いや……。確かに左手でメールを打っていますけど、僕は右利きですよ」
と、高田さんは、必死に否定した。
「ええ、高田さんは、右利きです」
と、明日香さんが言った。
「どうして?」
「確かに高田さんは、このとき左手でメールを打っていますが、この続きの映像を見てください」
「続き?」
明日香さんは、再生ボタンを押した。
高田さんがメールを送信した後に、今度は電話が掛かってきた。高田さんは、左手で電話に出た。
「左手で電話を持っているじゃないか、やっぱり左利きだろう」
「この後です」
高田さんはペンを受け取ると、右手で文字を書き始めた。
「高梨さん、お分かりでしょうか? 高田さんは、右手で書いています。右利きと考えるのが、妥当でしょう。あなたは、高田さんが左手でメールを打っているのを見て、高田さんは左利きだと勘違いしたんです」
「…………」
高梨さんは、無言で高田さんを見つめた。
「高田さん、ちょっと携帯電話をお借りできますか?」
「はい」
明日香さんは、高田さんの携帯電話を受け取ると、二つ折りの携帯電話を開いて、「右利きの人でも、左手で携帯電話のボタンくらい簡単に押せますからね」
と、ボタンを押して、携帯電話の画面を見せた。
確かに、スマホではない古いタイプの携帯電話だから、利き手じゃなくても簡単に操作できる。
「うん?」
僕も、携帯電話の画面が見えたけど、明日香さんが今押したのは、僕の携帯電話の番号だ。
明日香さん、僕の番号を覚えているのか。やっぱり記憶力も、素晴らしいな。
「高田さんが右利きなのに、どうして左手でメールを打っていたのかですが。高田さん、あなたは右耳が悪いんじゃないですか?」
「はい。右耳は、ほとんど聞こえていないですけど。でも、どうして知っているんですか? 話していないですよね?」
「高田さんが、人と話しているときに少し右側を見ているのは、左耳しか聞こえていないので、その左耳でよく聞こうとして、意識的か無意識かは分かりませんけど、そうやっているんじゃないでしょうか?」
と、明日香さんは説明した。
「えっ? 僕、そんなことをしていましたか? 完全に、無意識です」
「右耳が聞こえないから、左手で電話を取る。そして、そのまま左手でメールを打っていただけですね」
「そうでしたか。高田さん、すみません」
と、高梨さんは謝った。
「それじゃあ、犯人はいったい誰なんですか?」
と、高田さんが聞いた。
「新庄さんを、殺害した犯人は――」
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