第15話
僕たちは、エレベーターの前にやって来た。エレベーターは、地下に下りているみたいだ。
僕は、左手を伸ばして、エレベーターのボタンを押した。
「――ねえ、明宏君。今、左手でボタンを押したわよね?」
と、明日香さんが聞いてきた。
「えっ? そうですか?」
特に意識していなかったけど、左手で押したかな?
「私も見ていたけど、明宏さん左手で押したよ」
と、明日菜ちゃんが言った。
「明宏君、どうして左手で押したの?」
「どうしてって――ボタンが、左側にあるからですかね」
それ以外に、理由なんてないだろう。
「明宏君って、右利きよね?」
「はい、そうですけど」
僕たちは、エレベーターに乗り込んだ。そして、僕は再び左手でボタンを押した。
エレベーターは、ゆっくりと降下し始めた。
「――バードエレベーター」
と、明日香さんが呟いた。
「このエレベーターを、設置した会社ですよね。聞いたことがない会社ですけど」
「明宏さん。バードって、鳥っていう意味だよね?」
「そうだよ」
「鳥のように、どこまでも飛んで行くエレベーターっていう意味かな?」
と、明日菜ちゃんが、真面目な顔で言った。
「――そうかもね」
そんなエレベーター、僕は恐ろしくて乗りたくない。
エレベーターが地下で止まり、僕たちはエレベーターから降りた。
食堂に入ると、すでに高田さんと森高さんが席に着いていた。高梨さんの姿は、やはりなかった。
そして、すでに料理がテーブルに並んでいた。
「わぁ! パスタだ!」
と、明日菜ちゃんが、喜びの声を上げた。
「お約束の、パスタです」
と、本多さんが言った。
「冷めないうちに、いただきましょう」
と、高田さんが言った。
「美味しい!」
明日菜ちゃんは、美味しいパスタにご満悦のようだ。
「森高さん、高梨さんは?」
と、僕は聞いた。
「一応、内線電話で声は掛けたんですけど、いらないということでした」
と、森高さんは言った。
「そうだ、本多さん。バードエレベーターって、ご存じですか?」
と、僕は聞いた。
「バードエレベーターですか?」
「はい。なんか、聞いたことない会社だなと思って」
「なんでも、この辺りに昔あった会社みたいですけど。私は、この辺りの出身ではないので、詳しくは知りません」
「バードって、鳥っていう意味ですよね?」
と、今度は、高田さんが言い出した。
まさか、高田さんも明日菜ちゃんみたいに、突拍子もないことを言い出さないよな。
「鳥といえば、子供の頃に小鳥を飼っていたんですよ」
と、高田さんは笑顔で言った。
「小鳥ですか?」
「ええ」
「それで?」
「いや、それだけです」
なんだそれ。何かオチがあるのかと思ったら、何もないのか。
「まあ、しいていえば、小鳥と遊ぶのが楽しかったということですね」
と、高田さんは笑った。
「パスタ、美味しかったね」
と、明日菜ちゃんが言った。
僕たちは昼食を終えて、明日香さんたちの部屋に戻ってきた。
「明日香さん、さっきどこに電話をしていたんですか?」
と、僕は聞いた。
明日香さんは、高田さんの小鳥の話が終わったとたんに、携帯電話を取り出して、どこかに電話を掛けていた。
「鞘師警部によ」
「鞘師警部に?」
まさか、パスタが美味しいという報告などという電話ではないだろうが――
「ちょっと、調べてほしいことがあったの」
「何ですか?」
「ねえ、明宏君。槙野さんの名刺って、まだ持ってる?」
僕の質問には、答えてくれないんだ。
「電車で会った、漫画家の槙野さんのですか? 持っていますけど」
「ちょっと、貸して」
いったい、何をするんだろう?
「僕の部屋にあるんで、取ってきます」
「これです」
僕は、明日香さんに槙野さんの名刺を渡した。
「ありがとう」
明日香さんは名刺を受け取ると、メールを打ち始めた。
「槙野さんに、メールを送るんですか?」
いったい、何のために?
「ええ。事件解決のためにね」
「そうですか」
なんだ、そんなことか。てっきり、何か重大なことかと――
「えっ!? 事件解決!? 明日香さん、犯人が分かったんですか?」
明日香さんの、携帯電話が鳴った。どうやら、メールのようだ。
「槙野さん、早いわね」
と、明日香さんが言った。
「――やっぱりね」
と、明日香さんは、メールを読みながら呟いた。
「後は、鞘師警部からの連絡待ちね」
「鞘師警部、ありがとうございました」
明日香さんは、電話を切った。
「明宏君、本多さんに連絡をして、全員を食堂に集めてもらって」
「はい、分かりました」
僕は、受話器を取った。
「皆さん、お揃いですね」
と、食堂に揃った全員の顔を見渡しながら、明日香さんが言った。みんな、朝食のときと同じ席に座っている。
「探偵さん、いったいなんの用ですか? 全員を、呼びつけたりして」
と、高梨さんが、不機嫌そうに言った。
「まだ、夕食には早いですよね?」
と、高田さんが言った。
「今から、新庄さんを殺害した犯人を、明らかにしたいと思います」
と、明日香さんが、静かに言った。
「犯人って、毒島とかいう殺人犯じゃないんですか?」
と、高梨さんが言った。
「いいえ、違います」
と、明日香さんは、首を横に振った。
「それでは、今から事件の真相を話します」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます