第63話 六大悪魔

 場所は遠く、魔王がいる城。


「お疲れ様です。アメグラ様」

「ああ」

「魔王様と六大悪魔セイスデビルがお待ちです」

「アララリン、お前は先に戻っていろ」

「かしこまりました」


 アメグラは以前会議をした部屋へと移動した。


「よう、手ぶらってことは失敗だな」

「申し訳ございません」

「はっ!それなら俺が行けばよかったぜ」

「ターダス、魔王様の前ですよ」

「黙れよ、羽女」


 魔王の前のため、止めに入ったカノンだが、ターダスには届かなかった。


「魔王様、許可を」

「やめておけ。ターダス、今は黙っていてくれ」

「……」

「その沈黙は『はい』ということで受け取る。アメグラ、あったことを話してくれ」

「かしこまりました」


 アメグラは学校であったことを話した。

 ただ、シロのことは伏せて。


「そうか、そこまでだったとは……」


魔王ザルクは考え始めた。

 やがて答えを出した。


「カノン、お前が行ってくれ」

「魔王様よ、今度は俺に行かせてくれ」

「ターダス、魔王様がお決めになったのよ」

「いや、俺がいく」

「……はあ、わかった。ターダス、お前がいけ」


 ザルクは渋々とターダスにした。


「では頼んだぞ」


 会議はいったん終了となった。

 皆、それぞれの部屋へと戻るときのこと。


「待て、アメグラ」

「ターダス。なんだ?」

「てめえ、負けて帰って来たみただな」

「少し違うがな」

「だが負けは負けだ。ついてこい」


 やれやれと言わんばかりのアメグラだった。

 向かった先は城にある中庭。


「なんだ?まさかここで茶でも飲むのか?」

「ふざけるな!俺はただ六大悪魔セイスデビルに弱者はいらないと考えている」

「ほう、だったらどうするんだ?」

「ここでてめえを潰す」


 ターダスは姿を変えた。

 先ほどまでは人間の姿だったが、ライオンの獣人の姿へとなった。


「さすが獣王とまで言われただけはあるな」

「昔の話だ。今はもう悪魔。御託はいいからさっさとてめえも準備しろ」

「そうだな、このままだと俺も死んでしまう」


 アメグラも姿を変えた。

 ただ、アメグラは悪魔の姿だ。


百獣王の威厳ライオンズ・ディグニティ

「ちっ、そこまでやるか」

「殺すつもりで行く。抵抗しないと死ぬぜ?」


 その瞬間、ターダスは姿を消した。


「うぐっ!?」

「まずは一発」


 ものすごい音と共にアメグラは城の壁へと吹っ飛ばされた。


「相変わらずのバカ力に速さだな」

「……てめえこそ相変わらずの炎だ」


 アメグラは咄嗟に反撃をしていた。

 ターダスの手は炎に包まれている。

 だが咄嗟に使ったためそこまで威力はなく、あっけなく消された。


「次はないのか?」

「なめたことを……。死ねぇ!!」


 普通の人間、多くの生物が見ても何が起きたのか分からない速度で戦いは繰り広げられた。

 ただ、お互いに城は壊さない程度で戦っていた。

 城を壊すと第一に魔王の怒りを買う。

 そんなことなんてする意味がないと両者は分かっていた。


「もう終わりか?」

「なんだと?」

「それが全力なのかと言っているんだ」

「……いいだろう、本気を見せてやるよ」


 アメグラの安い挑発に簡単に引っかかったターダス。

 さらに姿を変えた。


「剛腕の悪魔なだけあるな」

「すぐに終わらせてやる」


 多少ライオンの面影はあるものの、体の大きさは倍以上になっている。


「シッ!」

「あぶなっ――」


 アメグラが避けようとしたが、すでに地面に埋まっていた。

 ターダスは体が大きくなったのにかかわらず、強さと速度はさらに上がっていた。


「ふん、あとは潰すだけだ」

「それは、どうだろうな」

「あ?いい加減ふざけた口を――」


 その瞬間、ターダスは倒れた。


「こいつ相手ならやはりこれが一番だな」

「すごいね、見事だったよ」

「魔王様!」


 拍手と共に城の影からザルクが出てきた。

 完全に気配を消していたため、アメグラも気づかなかった。


「どうやったんだ?」

「ターダスはいつも一発目でノックアウトさせるためにみぞおち付近を狙います。ですのでそこに魔法陣で麻痺と催眠の魔法陣を描いておきました。ただ持って10分というところでしょうか」

「すごいな、俺には無理かも」

「御冗談を、それに何をしたのかお気づきになられたでしょうに」


 ザルクはアメグラの言葉に反応はしなかったが、ザルクはわかっていた。

 ターダス、部下の癖は一度戦ったときに全部覚えている。


「アメグラ、悪魔が強くなるために必要なことって何だと思う?」

「唐突ですね。戦闘を繰り返すことでしょうか?」

「それでも強く離れるが、一番は同程度、もしくは自分自身より強い者を吸収することだ。特に純血の悪魔であるお前みたいなのにはな」


 アメグラは他の六大悪魔セイスデビルとは違い、唯一の純血の悪魔だ。


「堕天使のカノン、ドワーフのガジラディア、ダークエルフのシュリア、人魚のメウラ、獣人のターダス。こいつらは元々並外れた力を持ちつつも、悪魔へとなったやつらだ」

「それはもちろんご存知です」

「なら元々から悪魔なのはどうなのか、そう考えた結論は同族殺しだった」


 悪魔は人や動物、いろいろな命を奪ってきた。

 それでも飢えは収まらず、挙句の果てにドラゴンに手を出したら異様な成長を遂げた。

 そこから自分より強いものを倒せば強くなるとわかった。


「中でも同族殺しは一番手っ取り早いからな」

「はあ、それでどうしたら」

「これ以上、強くなる気はないのか?」


 直接は言わないが、ターダスを吸収すればさらに強くなれるということだ。


「強くはなりたいです。ですがその手は使いません。こいつを失うと戦力が大幅に減ってしまうため」

「……まあいいよ。勝ったのはアメグラだからこいつターダスはお前に託す」

「ありがとうございます。少し頭を冷やしてもらうためにここで放置します」

「相変わらず優しい悪魔だな」


 ザルクはそういうと城へと戻っていった。

 姿が見えなくなると、アメグラも戻っていった。


「カノン、いるか?」

「ここに」

「さっきの戦いを見ていただろ?」

「もちろんでございます。まさかアメグラとターダスであそこまでの差があるとは」

「そういうことだ。アメグラは六大悪魔セイスデビルの中でも1位を争うほど強い。それでも失敗したからな」

「それで私が適任かと」

「そうだ、ターダスには悪いが君に頼む」

「かしこまりました。さっそく行ってまいります」


 カノンは命令を受けるとすぐに行動に移った。


「ジークシル・アウラティア、か。ぜひ会ってみたいもんだな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る