第62話 勝利?

「何もしないのか?」


 アメグラが歩き始めた。

 歩いたところには火が付き始め、やがて溶けていった。


「マグマみたいな悪魔だな」

「俺は怒りが強さになる。そして俺は人になめられるのが嫌いだ」

「案外子供だな」

「なめているのは戦いに集中していないことだ」

「そうか、なら俺たちも真面目にいく」

「今更遅いわ!!」


 俺の足元から円ができるとそこから火の柱が出てきた。

 避けたけどあっつ!

 触れても近くもないのにこの熱さ。

 本物のマグマだろ。


「シロ気を付けて。近くてもやけどするから」

「わかった!」

「それと、何か新しく覚えた魔法はない?」

「ジルと同じ魔法を覚えようと頑張ったよ!」


 俺と同じだとすると水か。

 相性はいいけどそこまで届くかな。


「ん?頑張ったってどういうこと?」

「まだできない!」

「……そっか」


 だめだったー!

 合わせたら届くかなあって思ったけど無理だった。


「話し合いはもういいか?」

「ああ、もう大丈夫。いくぞ!水竜ウォータードラゴン!!」

「むっ!」


 リーシュちゃんが使っていた魔法を見様見真似で練習した。

 威力までは届いていないかもしれないけど相当強いはず。


「いっ……てぇ」


 アメグラは両手で抑えるも、片手がなくなっていた。

 強く打ったのにそれで防がれるのか。


「ちっ、俺の炎でも消せない水を出すとはな。侮っていた」

「そりゃどうも、そっちもこの魔法を防ぎきれるとは思わなかったよ」

「よく見ろ。俺の腕が片方ないんだ。人の子がここまでやるなど勇者でもできないほどだぞ」


 と言っても参ったな。

 これでもダメならまたあれを使うしかないのか。


「次はシロが!うがあああああ!!」

「炎か。口からとは珍しいな」


 シロは口から炎を吐き出した。

 人でやるとギャップがすごすぎるから。


「つっ!俺に炎が効く?まさか!」

「えっ?」

「ドラゴンの……子供か」


 先ほどとは違う目になり、悪魔から人の姿へと戻った。

 あ、手も戻っている。

 それはずるい。どうなっているんだよ。


獄炎ノ檻プリズン・オブ・ブレイズ


 俺とシロの足元から棒状の炎が出てくると俺たちを囲った。


「くそ!水竜ウォータードラゴン!」


 抜け出すために魔法を使った。

 通り抜けるための穴は出来るものの、すぐ再生してしまう。

 これでは抜け出せない。


「気が変わった。お前たちとはここまでだ」

「どういうことだ?」

「……楽しみだったが、次がないことを願う」


 どういうことなんだよ。

 次がないことを願うって、戦いたくないってことか?

 さっきまであんなに好戦的にだったのに?


「アメグラ様」

「アララリンか。1人だというと失敗したか」

「申し訳ございません。子供たちが戻ってきますので引いてきました」

「そうか。では戻るぞ」

「いいのですか?何か一つでも成果がないと――」

「ここの子供たちの情報だけでも十分だ」


「いくぞ」

「クロによろしく」

「クロ?」


 アメグラは移動用のゲートを開くとアララリンと共に姿を消した。

 それと同時に俺たちを囲っていた炎の檻も消えた。


「なんでクロ?狙いはクロだったのか?」

「ジルくんたち大丈夫ー!」


 廊下の先からリーシュちゃんとペイル、それにクロが走ってきた。


「クロこそ大丈夫?」

「よく知っているね。誰かから聞いた?」

「アララリンがさっき来たから」

「へぇー、アララリンがねぇ」


 その言い方にするに知っているのか?


「戦ったの?」

「戦ったわよ。でも途中で逃げたわ」


 知り合いなのか聞きたいけど、シロたちがいるから聞けないな。


「だからクロによろしくーって言ってたんだ!」

「そうだよ、強かったわ」


 それにしては余裕そうだな。


「みんな大丈夫―!」

「あっ、ユリ先生とシルヴィ先生だー!」


 廊下の向こうから走って先生二人が走ってきた。

 全速力で走っていたみたいで俺たちの前で息切れをしていた。


「もう!勝手に行動しないこと!」

「「「「「すみませーん……」」」」」

「まあまあ、ともかく無事でよかったわ」

「みんなは無事だった?」

「みんな大丈夫だよ。君たち以外はしっかり確認済み」


 よかった、みんなは無事だったのか。


「一応念のために原因と対策のために私たち先生は集まるわ」

「だから生徒たちは真っすぐ部屋に戻って今日は出ないこと!」

「「「「「はーい!」」」」」

「……少し心配だわ」


 俺たちは言われた通り真っすぐに部屋に戻った。

 ご飯も今日は部屋で食べることになった。


 食後、シロとペイルが寝た後のこと。

 空気を入れ替えるために窓を開けた。


「やっほー」

「!? びっくりしたー。急に来ないでよ」

「急にってことは来るとは思っていたんだ」

「まあ、何となくだけど」


 あの場では離せないことがあった。

 けどみんなは部屋に戻らないといけない。

 そうなるとみんな寝た後になる。


「私が狙われた理由を聞きたいんだよね」

「うん」

「それより、嫌だと思うけどまずはこれを見て」

「えっ……」


 その姿を見るとシロとリーシュちゃんが悲しんでいたことを思い出す。


「解除、したの?」

「少し違うよ。ジルくんに付き従う代わりに戻れるの。まあ裏切ると死んじゃうんだけど」

「俺?なんで俺なの?」

「……それを聞くのは無粋だよ」


 月の光でかすかに頬が赤かったのが見えた。


「それについては分かった。俺を裏切るとだめってことは」

「もちろんみんなは傷つけないよ。傷つけたくはないし」

「分かった。それでなんで狙われたの?」

「これが原因よ」

「それって……」


 俺と戦ったときに使っていた剣だ。

 確か魔王の剣サタンって言っていたな。


「魔王の剣だから狙われたの?」

「そうなの。この剣は持つ者の強さに比例して威力が上がっていく」

「でもそうなると剣自体が耐えられなくなるんじゃないの?」

「それを無くすのがこの剣なの」


 普通の剣なら魔法を乗せるとそのうち壊れ始める。

 それを無くすっていう事は常に全力を出しても壊れないという事。


「でもそれならクロごとではなく剣だけを回収すればいいのに」

「そこがわからないの。悪魔ならだれでも持てるはずなんだけど」

「ふむ……。それについては今後調べていこう」

「わかった」


 ともかくクロを狙っていることは確定した。

 あのラグドラーグさんでも気を付けるほどの魔王が狙っている。

 そう考えるとまずいな。

 早めに動かないと。


「ありがとうね、私のためにここまでしてくれて」

「当たり前じゃん。大切な友達なんだから」

「ほんと、シロが羨ましい……。これはお礼だよ」


 クロは俺の頬へキスをした。


「ちょ、ちょっと……」

「あはははっ!まんざらでもないみたいだね」

「からかわないでよ……」


 される側もけっこう恥ずかしいんだから!


「わがままなんだけど、お願いがあるの」

「いいよ、俺にできることなら」

「私が危険な目に合ってもジルやシロ、ペイルくんにリーシュちゃん、それにみんなが助かるなら私を――」

「それは聞けないよ。何が何でもそれはさせない!絶対に助ける!!」


 自分を犠牲にする。

 そんなことはさせない。

 俺のわがままだけど一人でもいなくなるのは嫌なんだ。


「ほんと……お人よしなんだから」

「ちょっ!なんで泣いているの!俺、変なこと言っちゃった?」

「嬉しいからだよ」


 クロは涙を拭くと窓へと向かった。


「今日は良く寝られそうだわ。話せてよかった、おやすみ」

「おやすみ、気を付けてね」

「うん」


 クロは部屋へと戻っていった。

 こうして襲撃を見事防ぐことに成功した。

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