第36話 暑いから水の中へ!

 あれから何度も何度もダンジョンに行っていた。

 やっぱり俺たちは早いらしくて1ヵ月で8層まで突破した。

 1ヵ月で進んだのは6階層だけ?って思うだろ?

 これがまた広すぎるんだ。

 広すぎて本一冊だけでおさまるのか疑問に思ってユリ先生に聞いてみたら、


「ん~、終わってからのお楽しみ!」


 あ、これは一冊だけじゃないな。

 そんな気がした。というかそうでしょ。

 少し増えていく感じかなあと思ったらそんなことはない。

 上がり幅はバラバラだけど2倍になったときは驚いた…。

 というかマルはそれを全部覚えてるって…。


 とまあこの一か月でいろいろ進んだ。

 季節は夏に近づき始めたころ。

 朝から暑い日が増えてきた。


「あついー…ペイルだいじょうぶー?」

「きゅぅ…」

「二人とも―。そろそろいくぞー」

「「ううぅー」」


 暑い日が続いたせいで二人がぐったりしている。

 そう、二人。

 ペイルは変身が上手でとうとう人間にまで変身できるようになった。

 シロの時とは違い、契約もなしで出来たけど、念のために一応しておいた。

 一度やって覚えておいてよかった。

 容姿は驚いたことに男の子だった。

髪は鮮やかな青色。

 そして驚くほどの女顔。

 この子女の子です!って言っても信じちゃうぐらい。

 将来美形になりそう…。羨ましい。


「ほら行くよ。ペイルはいつもの恰好で」

「はーい。ポンポポ…ポン!」

「…シロのせいで変な口癖覚えちゃったじゃないか」

「いいじゃん!変身だー!っていう感じするじゃん!!」

「もう…。じゃあ行くよ」

「あっ、まってー!」


 朝から暑くて嫌だなあ。

 でも日本の時みたいに地面はアスファルトで詰まっているわけじゃない。

 日陰に行けば結構涼しいからいい。

 風が吹いていたら暑いなんてなくなって涼しく感じる。

 下手したら家にいるより外に行って日陰で寝っ転がるほうがいいかもしれない。


「おはよー!」

「おはよう」

「おはよう、シロ。ジルも」

「何話していたの?」

「最近暑いじゃない?どこか湖を見つけて泳がないかなあって」

「いいねー!」

「俺もいいと思うけど、いつ行くんだ?休みの日とか?」

「今日」

「今日!?さすがに無理じゃない?」

「がんばって説得すればいいんだよ。だからジル、手伝ってくれ!」

「ガウまで…」


 自由な生徒なこった。

 自由な先生の生徒も自由なのか?

 フウちゃんたちはどういうんだ?


「あら?いいでありんすね」

「そうね。暑い日ばっかり続いていたからたまには涼しいところに行きたいわ」

「フウちゃん…それにリーシュちゃんまで…。ラウ君!ラウ君は!?」

「ぼ、僕も賛成…」

「?何かようでもあるんでありんす?」


 あ、見てる先が物語ってる。

 フウちゃんの水着姿見たいっていう顔してる。

 大人しいのにむっつりだな。


「頼り薄いけど、シャルちゃんとネルちゃんは?」

「もちろん!」

「さんせー!」

「だめだこりゃ」


 みんな暑くて涼しむことしか考えていない。

 ……俺もみんなと一緒に乗っかろう!


「おはよーみんなー。今日も暑いわねー」

「おはようございます先生。ちょっとお願いが」

「珍しいわねクロちゃん。何かな?」

「湖へ――」

「行こう!今すぐ行きましょう!みんな用意してきて!」

「「「「「早い!!」」」」」

「ちょっとユリ先生!勝手に決めては」

「シルヴィ先生は私が説得するからみんな準備してきて!」

「「「「「はーい!!」」」」」


 というわけで即決。

 準備しにみんな戻っていった。

 俺たちも、説得するって言っていたけど。

 ちょっと聞いてみよう。


「ユリ先生、どうするつもりなんですか?」

「まあまあ。あんな早くダンジョンも進んでいるんだし、息抜きもいいんじゃない?」

「そ、それなら…。では私は監視をやります」

「んー?あれ?もしかして、水着が恥ずかしいの?」

「そんなこと言っていないわ!!ちょっと、恥ずかしい…かもしれないけど」

「大丈夫だよ!気にすることないわ!私たちも行きましょう!」

「わ、わかったわよ…!」


 やべっ!こっちに来ちゃう。

 音をたてないようにダッシュで戻っていった。


*


「みんな集まったね!」

「どこまでいくのー?」

「そこまで遠くないから安心して!場合によっては午後もだけど…」

「それなら大丈夫!マルは今日、デラデラを案内するって言ってたし!」

「で、デラデラ…?」


 デラデラはあの灰色のスライム。

 ただの灰色スライムだと呼びづらかったから名前を付けた。

 命名はマル。理由は何となく付けたって言っていた。


「じゃあ今日一日行きましょうか!それじゃあ…」

「「「「「れっつごー!!」」」」」


「というかみんな水着持っていたんだね」

「そりゃあ持っているよ。暑さから逃げるためにみんな持ってると思うから」

「へぇー。ってことはガウも?」

「もちろん。毎年入っているよ」


*


「着いたわ!ここが目的地よ!」

「どこで着替えればいいのー?」

「こうやって、布を結んでー、はい!これで着替える場所完成!」

「おー!すごーい!」

「じゃあ女の子はこっち、男の子は向こうね」

「「「「「はーい!!」」」」」

「物陰…」

「何言ってんだよ?おいてくぞー」

「待てって!」


 俺たち男どもは岩の物陰。

 ガウとラウ君は慣れてるみたいにさっさと動いていた。

 ちなみにペイルも回収済み。

 一人だけいい思いはさせない!


「どうする?先に入っちゃうか?」

「そうだな。歩いてまさ暑くなったし先に入っちゃおう!」


 待つことを知らない俺たち。

 さっさと入りました。

 おっと?ラウ君がずっと同じところを見つめているけど。


「ラウく~ん?」

「えっ!?なに!?」

「楽しみはわかるけどそんなにまじまじ見ないほうがいいよー」

「そんなことは!…ない、よ」


 ありゃりゃ顔真っ赤に染めちゃって。

 そんなにフウちゃんが楽しみなのか?


「あー!もう入ってる!」

「いいじゃんか、先に着替え終わったんだし」

「えーい!」

「こら!シロちゃん!!」


 時すでに遅し。

 ユリ先生が注意するときにはもう俺の目の前でドッパーンしてた。

 水が俺の方へ一直線に。

 冷たくて気持ちいい反面、勢いがあっていたい。

 みんな、準備運動をしてから入ること。

 飛び込みはしないように。


「こらー!しっかり準備運動してから!」

「はーい…」

「もう。じゃあみんな。フライングはしないように!こっちに集まって!」

「シルヴィ先生は?」

「あー、もうちょっと待ってあげて」


 いやー眼福眼福。

 もう写真集出してもいいんじゃないのかって思うぐらいのシルヴィ先生。

 売られていたら速攻で買っちゃいそう。


「ジル」

「いたたた、シロ。首はそうやって曲げちゃだめ」

「ジル」

「怖い!怖いから!悪かったって!」

「シロちゃん!?だめよ、そんな危ない準備運動をしては」


 ああ、死ぬにはいい光景かもしれない…。

 死にたくはないけど。

 注意してくれたおかげで解放された。

 最近シロが容赦なくて本当に怖いときがある。

 これも成長なんだか…。


「連れてきたでありんす」

「お、おまたせー…」

「「「おー!!」」」

「キャウッ!」


 男たちからの喜びの声。

 ユリ先生より豊かな部分。

 目を外そうとしてもどうしてもそっちの方へ目が行ってしまう。

 何せあのラウくんも…って見てる方向が違った。

 フウちゃんのほうへ行っていた。


「リーシュちゃん」

「分かってるわ。ただの布ダークネス・ブラインドフォールド!」

「「何も見えねー!」」

「フ、フウちゃん?」

「そちもお灸をすえさせねば。ほれ」

「あっつい!!」


 自分の本能のままの動きしてはだめ。

 結果はこの通り、地獄と化す。

 ただ俺、俺たちは忘れない。

 そこには確かに楽園があったことを。

 ただ、これ元の世界だったら犯罪っぽ――いや、そんなことはない。

 何せ俺も同じ年だからな!!

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