第37話 どんな泳ぎ方してるんだ?

「ところでペイルは泳がせていいのか?」


 ペイルにとっては初めての水泳。

 初めから泳げるとは思ってはいない。

 でも泳げることに越したことはないからな。


「初めてだと思うけど、大丈夫じゃないかな?ペイル―!」

「キャウッ!」

「ほら、入ってみ」


 おお!泳いでいる!

 犬の姿だけどしっかり泳いで…いる?

 犬かきをしているわけではないけど、どうやって泳いでいるんだ?


「変な泳ぎ方だなー。まるで滑っているみたい」

「そうだな。よっと!」


 気になって水の中から見てみると本当に滑っていた。

 水の反射でわかりづらかったけど少し光っている。

 もしかしたら何か魔法でもかかっているのかもしれない。


「どうしたんだ?」

「まあ、ちょっと気になったことがあって。別に何でもないよ」

「ふーん、そっか」


 これがペイルの使える魔法。

 どういう魔法か気になるけど分からないものはわからない。

 ドラゴンだからボロが出ると困るから聞くに聞けない。


「ジルー!」

「何をしているの?」

「シロにリーシュちゃん。いや、ちょっとペイルを泳がせてみたんだ」

「すごーい!はじめてなはずなのに泳げてるー!」

「…ずいぶん変わった泳ぎ方ね。ほっ!」


 リーシュちゃんは気になったのか潜ってしまった。

 さすがにリーシュちゃんも分からないだろう。

 ……忘れていた。

 神様だから知っている可能性大だ。

 もう神様の面影が消えかけているのが悪い!

 そうだ!絶対そうだ!


「…ジルくん。ちょっとこっち来て」

「えっ?わかった」

「シロちゃんも」

「あっ、おい!オレは!?」

「ガウ君は待っていて。おねがい」

「あっ…わかりました」


 何その笑顔、怖い。

 何か怒っていないか?

 もしかしてペイルのことばれた?


漏えい防止空間デモフィールド。で?なんで竜王がいるの!?」

「「竜王!?!?」」

「よかったわ、あらかじめ魔法をかけておいて…」


 竜王!?

 どういうことなの!?

 え?まさかペイルが?

 生まれてからずっと一緒にいるんだよ?

 いつの間に竜王になっちゃってるの!?


「ペイルは生まれてからずっといるんだよー?」

「そうだよ?生まれて1ヵ月ぐらいなのに竜王なんて…」

「一か月?ちょうどジルくんたちがあの子ペイルを連れてきた時よね?」

「そうだけど…?」

「ということは生まれてからすぐ魔法を使えたってことよね?」

「そうだよ!」

「……はぁ」


 えー。

 まさかの溜息ですか。

 これって厭きられていないかな?


「わかったわ。この子は竜王ではない。竜王の子供みたいね」

「なんで竜王ってわかるのー?」

「今の竜王は水を操るドラゴンと聞いたことがあるわ。あの子は泳いでいるわけではなく操っているの。そしてあんな風に完璧に水を操れるのは人間だとまずいないわ」

「でも犬だよ?」

「なおさらないわ。犬の魔力は人間と比べて低いわ。多くなるとラウ君みたいに獣人になるのが多いわ」

「狼だけどね…」


 魔法で浮いていたんだろうなあっていうのは思っていた。

 でもそれどころではなかったみたい。

 操っているのは本当にすごいらしい。


「俺の場合は?」

「ごく一部、本当にごく一部はいるわ」

「ジルがそのごく一部なの?すごーい!!」

「へへっ。まあな!」

「何を笑っているのかしら…。それにまだ完璧じゃなかったじゃない」


 まあ俺のおかげというかリーシュちゃんのおかげだけどな!

 でも努力してある程度操れるようになったんだ。

 自慢はしていいでしょ。


「なんで竜王?ドラゴンってドラゴン同士で争うの?」

「元々は一番を決めるために戦ったりしていたけど、大きさもだし使う魔法も尋常じゃないから今は争うことはなくなったわ」

「ち、ちなみに被害はどれぐらい?」

「山なんて一回の戦いで一つは消えたぐらい。地面なんて隕石でも落ちてきたかな?っていうレベル」

「おぅ…」


 それ5回ぐらいでこの世界終わっちゃわないか?

 どんだけやばい戦いしてるんだよ…。

 さすがドラゴン。


「それでどうやって収めたの?」

「リビアルって聞いたことあるでしょ?その人が収めたの」

「え?それっと500年前でしょ?遠いようだけどそんな近くの話だったの?」

「ええ。一般的には悪魔と戦い、人間が住めるところを増やしていった。そう書いてあったでしょ?でも本当は違う」

「???」

「あ、シロ。分からないなら遊んでていいよ」

「わかった!みんなのところ行ってくる!」


 頭からハテナが出てるような表情をしてたし、ここからは俺だけでもいいかも。

 あとでかみ砕いて話せばいいからね。


「それで、本当は?」

「本当は当時、悪魔も手を出せなかった。ドラゴンの争いにね。そこで立ち上がったのは今まで軽視されていた人間のリビアルだったの。いや、リビアルと一頭のドラゴンだったわ」

「ドラゴンがドラゴンを収めたの?」

「ええ。そしてそのドラゴンは今の竜王と言われているわ。ドラゴンの争いを収めたほどのドラゴン。だから竜王とまで言われるようになったわ」


「じゃあ、もしリビアルが生きていたら…」

「恐らく神様って言われてもおかしくはなかったわ。ただ、分からないのはリビアルに手を貸した四頭のドラゴンよ」

「それは五老竜ってこと?」

「そうね。誰かに見られないように姿名前を変えていたみたいだから私でもラグドラーグさんと会ったとき気づかなかったわ」


「魔力とかでも分からなかったの?」

「ええ。どういう風にやっているのか分からないけど、魔力の量が分からないようにされていたの」


 へー。たとえ創った世界でもそこまではできないのか。

 たしか放置していたのは二百年。

 その時は見ていたはずだからね。

 ちゃんと見ていたら、だけど。


「この話はいいわ。歴史ならそのうちだれか発見するかもしれないからね」

「そうか!それなら解散と――」

「逃がさないわ。なんで新しいドラゴンを見つけたのかしら?」

「えっ?てっきりリーシュちゃんのおかげでかと」

「私はシロちゃんしか設定したつもりはなかったわ」

「じゃあ運がよかったんだよ!きっとそう!」

「そんなわけないわ。まさか!…盗んできたわけではないでしょうね?」

「そんなことするわけないでしょ!」


 しかもさっき聞いた話だと竜王の子でしょ?

 そんな無理なことできるわけないでしょ!

 ただ、離席中とかにシロが持ってきちゃったなら分からないけど…。


「と・も・か・く!もし竜王が来たら即刻返すこと!」

「来るのかなぁ…」

「自分の子供がいないのよ?来るでしょ!」

「え?じゃあシロは?」

「…いい話ではないけど、聞きたいの?」

「まあ、一応」


 え、いきなり深刻そうな顔になったんだけど。

 そんなにまずいことでもあったのかな?


「シロちゃんの親は、殺されちゃったの」

「えっ!?」

「今の魔王、ザルクの手によって」

「でもドラゴンの争いで悪魔も手を出せなかったって」

「魔王は違ったの。今の魔王は尚更ね。前代の魔王を赤子の手をひねるように倒した。600年も魔王の座についていた魔王を、ね」


 それって、ドラゴンが争っていた時期からってことだろ?

 それはつまり…。


「ドラゴンも今の魔王を恐れている、ってこと?」

「そうよ。今は魔王が上に立っているの」


 なんてこった…。

 まさか争っていたドラゴンの上に立つ存在がいるとは…。


「と言っても、魔王が動かないおかげで平和にはなっているけどね」


 そうみたいだな。

 そうだけど、許せない。

 シロの親を殺した、魔王のことは…。

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