第三章:お兄ちゃんと璃桜

 テレビの中で、最近人気のイケメン俳優がクイズに挑戦している。

 テーブルでは、ついさっき帰ってきたお兄ちゃんが夕飯を食べている。ちょっと前までは、同じタイミングで食べていたけど……最近は、今日みたいに私が先に食べることが多い。

 やっぱり、大学って忙しそう。……でも、お兄ちゃん、そろそろ前髪切ったほうがいいと思う。


「今日のパスタ、沙羅が茹でたの?」


「うん。ソースはお母さんが買っといてくれたレトルトだけど」


「おお……」


「……今日のは硬くないでしょ?」


「大丈夫だよ、上手く出来てる」


 この前私が茹でたパスタは、一部はデロデロに柔らかいのに、一部はバキバキに硬く仕上がってしまった。ふふん、二度はやらないもんね。私だって学習するんだぞ!



 不意に、テレビから流れてきた正解音に重なるように、スマホの通知音が鳴った。


「……あっ、『いいね』付いた!」


 開いた画面は、最近始めたSNSの通知リスト。一緒に始めた璃桜以外からの『いいね』はあまり来ないけど、写真を投稿するのが楽しいだけだから、私はこれで満足。


「何? この前言ってたSNS?」


「そうそう。ほら、璃桜と飲みに行った限定ドリンクの写真ー!」


 写真を開いてお兄ちゃんに見せる。

 なぜか、お兄ちゃんの表情が、少し強張った。


「……そっか。まだ……璃桜ちゃんと、仲良いんだね」


 なんだか、妙にぎこちない言い方。まるで、璃桜と仲良くしないでほしいみたいな、そんな雰囲気すらある。


「もちろん。だって、私の一番の親友だよ?」


「うん……そうだよな」


 何、急に。どうしたんだろう。

 お兄ちゃんは視線を落として、右手の指先を擦り合わせている。何か考えているときの癖だ。

 テレビは音声だけ聞きながら、お兄ちゃんを見つめ続けていたら、ふと指先の動きが止まった。


「……あのさ、沙羅」


「何?」


「沙羅は、その……覚えてないのかもしれないけど……璃桜ちゃんは」



 ——中途半端なところで、お兄ちゃんの声が止まった。急に声が詰まったような止まり方だった。そのまま、数秒間沈黙が続く。

 やがて、お兄ちゃんは、諦めるように軽く首を振った。


「いや……やっぱり、何でもない」


「……璃桜がどうかしたの?」


 あんな切られ方したら、気になる。自然といつもより低めになった声で問いかけると、お兄ちゃんはまた首を振った。今度は、はっきり。


「ううん、何でもないよ。心配しなくても、大した話じゃないから」



 ……なんか、変なの。

 お兄ちゃんって、璃桜のこと、嫌いだったりしたっけ? 確かに二人はあまり会ってないけど、何かあったわけでもないと思うのに……。

 もう一度、テレビに目を向ける。

 でも、流れてくるざわめきよりも、頭の中のほうがざわざわしていた。

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