05.イノチの壁

株式会社 明星プロダクション 御中


「調 芳夜に関する身辺調査報告書」※1


日向野探偵事務所(調査員 日向野 影)



 戸籍および通称で同年代の少女を検索したが、該当する人物に当たらず、地域を限定して調査を行った結果、下記結論が得られた。また、裏付けについては検証1〜3と補足1〜3を参照されたい。


結 論

調 芳夜は、人間ではなく、天地 翔によって作られた擬似人格と、星野 瞳から採取された人体データを光学物体再構成装置によって造り出された擬似人体とを融合させたAI。なお、調 芳夜には、現実世界と電脳世界を自由に行き来することができる能力がある。



調査概観


 戸籍ならびに住民登録台帳の記録中、同年齢および同一名では「芳夜」なる人物は、3年ほど前に起きた「中学生心中事件」※2で死亡しており現在実在しない事が判明した。このため、調査の方法を変更し、荒城氏が彼女を発見した当該地域の半径10キロ範囲で聞き込みを行ったところ、別名であるが年齢および身体的ならびに顔の特徴が同一である「星野 瞳」が発見された。しかしながら特徴的に該当する人物「星野 瞳」は、過去現在の通称や別名の呼び名において「かぐや」と呼ばれていたことはなかったものの、「星野 瞳」と事件で死亡した「望月 芳夜」は事件当時、同じ中学校に通学する親友であった。

 そして「星野 瞳」の周囲を調査した結果、同じ高校に通学する「星野 瞳」の友人「みちる」※3なる女性から、別人の「調 芳夜」なる人物に突き当たり、荒城氏が発見した人物「芳夜」と特定した。

 しかしながら、「みちる」から聞き取りの情報によると、「調 芳夜」は実在する人間ではなく、「みちる」の彼氏「天地 翔」が作成したプログラムの呼称であることが判明した。「天地 翔」は、××株式会社(工業用ソフトウェアー作成会社)他数社と契約し、フリーで活動するプログラマーで、コンピューターソフトウェアについて現在数百ともいわれる特許を保有している。また「天地 翔」は、上記「中学生心中事件」のもう一人の当事者で、事件後当初において偽装殺人の嫌疑があったが否定されたという経歴の持ち主である。

 また、「調 芳夜」は「天地 翔」のホームページ上に光学物体再生装置(物体を光学情報として読み取り、光学的に物体を再構成する装置)の宣伝およびスポンサー募集の広告として「調 芳夜」の再生映像や「調 芳夜」とのチャットのコーナーを設けていたが、データ改ざん・破壊・窃盗のための不正アクセス※4が跡を絶たず、人格を備えた「芳夜」ではなく、別のモデルがホームページに掲載された※5。なお、この機器については現在のところスポンサーはついていない※6。



検証1:擬似人格(AI)


 プログラマー天地 翔は、事件で亡くなった従姉妹・望月 芳夜の人格をモデルに約3年の歳月をかけ「人格自律思考システム」を作成した。「人格自律思考システム」、通称「人格プログラム」は、彼のオリジナルと推定される。他者がこれに関与した確たる証拠はない。その裏付けとして、ある人工知能研究者のコメントによると、「人格を作り出すことは現在の技術ではほぼ不可能で、可能性があるとすれば、個人の思考パターンと膨大な判断基準データを備えた大規模超高速コンピューターをそなえるか、各国に点在する研究機関のスーパーコンピューターを並列につないで機能させる方法が考えられる。ゆえに個人レベルでの開発は不可能だ」との見解を得た。また、天地 翔の背後に何らかの組織が動いている様子は、今のところ認められない。


 システムの基幹は、「ブラックボックス」と呼称される。ブラックボックスは、3年前の事件で亡くなった望月 芳夜が使用していたデスクトップパソコンのハードディスク内にある不可触領域で、天地 翔は此処に彼女の人格の素となる人格素子を見い出した。この「ブラックボックス」を人格的価値判断の基礎とし、「自律思考プログラム」と、「忘却プログラム」を組み合わせたものが、システムの根幹をなしている。

 「自律思考プログラム」は、人格が覚醒している間、人格的判断を常に行ない続け、人格価値判断の記録ともいうべき「記憶」を作り続ける。人格は、こうして作られた「記憶」と、「ブラックボックス」の人格素子を積み重ねる。

 「自律思考プログラム」により作成された膨大な価値判断結果保存と、「自律思考プログラム」の価値判断基準選別に過度の負担を回避するため、「忘却プログラム」が作成された。「忘却プログラム」は、人格が覚醒していない時間(仮に人に当てはめるとすれば、「睡眠」だろう)に価値判断結果を、価値判断結果の使用頻度により整理整頓し、使用頻度の低い記憶データが超圧縮され、「自律思考プログラム」からすると『忘却された』ようにする。しかし、データは消去されることはなく、キーワードや感覚的類似などの検索項目の度重なる接触により、「思い出される」※7。

 疑似人格には、これらのシステムにより感情や肉体感覚が備わっており、後述の疑似人体により物理的接触が可能であり、逆説的に疑似人体が必要である。


 ところで、「調 芳夜」の人格は、その大半を占めるブラックボックス内の人格素子以外に「望月 芳夜」の記憶を留めているあらゆる物体から、人格素子を回収している。写真やVTRなどの画像ならびに音声のみならず、彼女が身につけていた服飾物の他、彼女の飼い猫「むるる」の脳も採取されている。

 猫「むるる」の脳からは、猫の目から見た「望月 芳夜」の行動特性を採取することに成功したのち、彼の手によって「調 芳夜」の行動面をサポートし、小脳的役割をするコンピューターのハードディスクと姿を変えている。

 したがって現在「天地 翔」が彼女の形見の一つとして飼っている猫は、光学式物体再構成装置の実用化初号機である。製作者「天地 翔」以外この事実を知るものはいない事実は、「光学式物体再構成装置」の完成度を雄弁に物語る。



検証2:擬似人体

 

 疑似人格は、物理的もしくは肉体的感覚を有するため、「こころ」の入れ物となる疑似人体が必要であることが疑似人格の制作過程で判明したため、天地 翔は疑似人格と併せて開発に着手した。

 当初、「望月 芳夜」の画像データをコンピュータに読み込み、成長や経年変化をシュミレーションして「調 芳夜」の創造を試みた。しかし、疑似人格の持つ肉体感覚の繊細さに「試作体」の精度が及ばず、より精度の高い「疑似人体」を疑似人格から求められる結果となった。

 最終的な「完成体」は、調査の手掛かりになった「星野 瞳」から「型」を採る手法が用いられた。「試作体」を基礎にせず、別の手法に切り替えた理由は、時間制約があったからと推測される。日々刻々と精度を増す疑似人格の性質上、身体的感覚を早期に解決しなければならず、その為、心身の融合が急がれたのであろう。また、別の理由として、人格素子の採取を兼ねていた可能性も否定できない。モデルとして採取した「星野 瞳」は、「望月 芳夜」の親友であった。

 単なる「型」のモデルであれば、現在の「天地 翔」に最も親しい人物「みちる」が該当する。そして「みちる」を「型」にする試みがされたことは、確かで、本人からも証言を得ている。「みちる」は、手首から先の部分のみの「型」を作成したときのテストで、適性がなかったと言う※8。

 さて、「完成体」の疑似人体を作成する上で、欠くことのできない装置がリキッド・フォトン・スキャナーと、フォトン・ステージだ。リキッド・フォトン・スキャナー(光学液体式物体読取装置、RFS)は、あらゆる形状、材質を問わず物体を読み取り、情報化する。データ化した物体は理論上、遠隔地への転送も可能で、データ化しているので物体の加工も容易である。またフォトン・ステージ(光学式物体再構成装置、FS)は、RFSで読み込んだデータの再構成装置である。

 「天地 翔」はRFSを献体者にこれを「新しい入浴剤」として使用させ、サンプルの採取に使用した。RFSの見た目は、「入浴剤」と「手のひら大のパルス発生装置」程度にしか見えない。献体者は、目的を知らず「型」を採られていた。また、RSFは「入浴剤」として扱われたため、「星野 瞳」のデータに彼女の妹のデータが混入していたために、最初の心身融合試験の際に人体データから人格データへの侵食があったことが、「みちる」の証言で確認している。

 RFSおよびFSの開発段階では、「天地 翔」の通学する高校の文化祭でモルフォ蝶の発表や、ペットの猫「むるる」の脳採取に伴う身代わりとしてすり替えた「ムルル」、そして地元の博物館で開催された恐竜展のディスプレーがされている。

 なお、恐竜展では「天地 翔」と「星野 瞳」に、フリービデオジャーナリストの葉月陽子が接触している※9。葉月が「調 芳夜」の情報を殆ど認知している可能性は低いが、「調 芳夜」情報が外部に漏れる恐れが多大にある。



検証3:電脳意識体


 検証1および2により成立した「調 芳夜」のキャラクターとして特筆すべき幾つかの点のうち、現実世界とサイバースペースを意識を持ち合わせたまま、自由に移動可能な能力に着目した。今後のタレントとしての行動に、今まで生身の人間に不可能であったパフォーマンスが容易に可能となるほか、「天地 翔」の考案したRFSおよびFSにより、莫大な費用を投じてきたイベントが非常に低いコストで実現できることが予見される。

 また、FSの普及が進むことで、「調 芳夜」のイベントはダウンロード可能な環境にさえあれば、誰もが手軽に実際のステージを直に楽しむことができるようになる。これらハードとソフトの独占ないしは、ライセンス販売は確実な利益を保証することになる。

 しかしながら、冒頭で述べたように、「調 芳夜」自身を標的としたハッキング未遂事故が現実に発生していることを鑑みると、ハッキングによる直接の損害やコントロール下に置かれた「調 芳夜」によって引き起こされるサイバーテロによる間接被害の賠償責任について重大な懸念がある。現況、「天地 翔」の手によって深刻な事態に陥ることだけは回避されており、ハッキングに対応するシステムも「調 芳夜」自身に常備されていることが推測される。

 さらに、著作権および複製、ならびにレンタルの方法については、商品化が決定した時点で、再考の要あり。



補足1:天地 翔のプロフィール


 3年前に起きた「中学生偽装心中殺人事件」の当事者。同じ中学校に通学する従姉妹の望月 芳夜を偽装心中で殺害した容疑者として世間を騒がさせた。事件時、手首を切った心中を計ったため大量失血し、事件の起きた数時間の記憶を失っている。この記憶喪失が、事件について様々な憶測を生んだ。結局、天地 翔は事件の責任をとることがなく、世論の批判を浴びた。

 事件が一応の終息を向かえたころ、父親の海外転勤に伴い、一家は海外での生活を始める。父親は商社勤務で2年ほどの間にアジア、アメリカ大陸、ヨーロッパを転々とし、一家もそれに同行する。そして日本への一時帰国の際、飛行機事故で両親を亡くす。一家が最初に予定していた便に座席が一つしかなかったため、天地 翔を先の便で、次の便で両親が日本に向かい、成田で落ち合うことになっていた。

 両親を亡くした彼は、望月 芳夜の家での生活を始める。「危険な」彼を引き取る先が他に無かったためである。かつて芳夜の使っていた部屋に、彼は暮らしている。一家は銀行支店長の叔父・望月 隆、従兄弟で芳夜の双子の兄・望月 昇、芳夜の飼い猫むるる、と同居している。

 芳夜と翔の出会いは、中学生の時。翔は、芳夜と昇の通学する中学校に転校してきた。それぞれの両親の多忙な仕事柄、彼と芳夜はそれまで一度も会ったことがなかったが、偶然SNSで知り合う。芳夜は彼が転校してくることを知っていた。

 その後も、事件を経て、彼のパソコンのスキルは海外で鍛えられたと推測される。外務省の出向先となっている商社に勤務した父親とともに諜報活動に従事していた形跡があり、東欧のエージェントによって飛行機が墜とされたとのある筋からの情報もある。しかしながら、孤児となった彼に現在後ろ楯はなく、「調 芳夜」に関しては彼が個人で行動している。



補足2:星野 瞳のプロフィール

 「調 芳夜」のボディーサンプル。本人は、未だその事実を知らない※10。天地 翔は幼馴染みの彼女をサンプルにするため、入浴剤と偽り数回にわたりRSFを使用させた。

 「中学生偽装心中殺人事件」の際、特殊な血液型の天地 翔に輸血をし命を救ったと同時に、事件後取り調べの中で、発生時刻に事件の当事者以外で唯一アリバイが無い人物でもあった。しかしながら、世論や報道で大きく取り上げられる「天地 翔」とは対照的に、恐らく事件の核心を知るであろう彼女の身辺は至って静かだった。彼女には、方法もなければ、手段もなく、ましてや動機がなかった。

 親友だった「望月 芳夜」を身近で知る人として、サンプルの適性があった。しかし、彼女の妹のデータが混入しバグが発生した初回の起動試験は例外としても、次回の彼女のデータのみを基にして作られた疑似人体の起動試験で、疑似人体から「調 芳夜」本体へのデータ浸食が発生した現実からは、適性が疑われたものの、再度RFSによるデータ取り込み後行われた起動試験では、異常が認められず、疑似人格と疑似人体の融合が果たされた。原因はいまだ不明※11。

 

 

補足3:望月 芳夜のプロフィール

 「調 芳夜」の疑似人格のモデル。天地 翔の同い年の従姉妹。「中学生偽装心中殺人事件」で死亡した。彼女の死がなければ、「調 芳夜」はこの世に生を受けることはなかった。

 製作者の天地 翔以上に重要な鍵を握る人物であり、調査のなかで、彼女の名を語る複数の人物が発見された。まず、天地 翔の現在の彼女「みちる」が勤務先であるキャバレーで源氏名として使い、また製作者に幾度となくEmailでコンタクトをとっていた人物が使っていたバンドルネーム、さらに制作途上そして現在も恐らく「調 芳夜」に攻撃を仕掛ける有名なクラッカーが使う名前がある。

 事件前の製作者と彼女の関係は、従姉妹であり、親友であり、恋人であった。当時のクラスメイトのなかには、星野 瞳を含めた三角関係だったと振りかえる者もいる。同じ証言をする者は少なく、信憑性に欠けるが、一面事実を突いている。幼馴染み以上の親しさと、従姉妹以上の関係の狭間に天地 翔がいたことは、残された証拠の数々から間違いはない。

 また、彼女の遺品から、彼女は製作者と同等もしくはそれ以上のパソコンスキルがあったことが伺える。疑似人格の核となる「ブラックボックス」は彼女の造り出したもので、製作者はこれを扱う為に彼女の遺品に初めて触れてから1年ほどの歳月を要している。「ブラックボックス」の存在は、疑似人格の中枢であるから、彼女がこの事態を予測し或いは彼女が疑似人格を創り出そうとしていたのかもしれない。


(日向野 影「調 芳夜に関する身辺調査報告書」より)

※(注釈)は作者調査結果と符合する事実


※1

調 芳夜のメジャーデビュー前、株式会社 明星プロダクション社長・明星 希より「商品化のための接触を開始せよ」との指示が、日向野探偵事務所(所長 日向野 影)にあった。

 日向野探偵事務所は、元タブロイド紙の記者だった日向野影が設立した個人経営の探偵事務所で、記者現役時代の人脈を活かした芸能人の素行調査や、スキャンダルの際のマスコミ対策を主業務としていた。当時、荒城廉太郎の専属広報兼ボディーガードをしていた(日向野は、葉月の紹介で荒城の専属広報兼ボディーガードとして雇われた)。芸能スカウトは「調 芳夜」只一人だけである。

 もともと「調 芳夜」を発見したのは、タレント荒城廉太郎(葉月にスキャンダルをすっぱ抜かれたのが元で、ブレイク。経歴詐称だった。殺人と刑務所を経験していないだけで、後のことは一通りやったという、もとは手を付けられないほどのワルだった。)が偶然彼女を見かけたのがきっかけだった。荒城は遊び目的で「芳夜」の居所の調査を日向野に依頼した。

 しかし、日向野は荒城から依頼を受けた時点で、まともな調査をしていない。荒城が愛車のポルシェで擦れ違いざまに聞いた「かぐや」という名前しか手掛かりはなく、荒城のスキャンダルもみ消しに手を焼いていた時期だった。個人事務所ゆえ、それを補う意味合いで導入したパソコンを使い、ホームページの検索をしてたまたま天地 翔が開設したホームページ上で「調 芳夜」を発見したというのが事実のようである。

 そして「芳夜」の調査結果レポートを事務所兼自宅マンションに放置してあったところ、明星プロダクション社長・明星 希が見つけ、またスキャンダルかと血相を変えて日向野に詰め寄るのかと思われたが、日向野に商品化のための調査を依頼した。


※2

「中学生心中事件」は、「調 芳夜」に関わる人物を結び付ける。製作者の天地翔はこの事件で殺人の嫌疑をかけられたいわくつきの人物、「芳夜」は事件で死亡した「望月 芳夜」になぞられた名前で、身体のモデルとなった星野瞳は「望月 芳夜」の生前の親友。また、日向野はこの事件が元で業界を去り、事件当時日向野の部下でカメラマンだった葉月は「中学生”偽装心中殺人”事件」が報道人としてのデビューをした。

なお、事件当日に現場検証をした人物の関係者から、望月 芳夜の遺体は発見されず、本来は行方不明とすべきところを政府関係者からの圧力によって、事件として立件したとの証言があったが、裏付けが取れず、事実認定はできない。


※3

翔の彼女「みちる」は、「調 芳夜」失踪と前後して、翔の前から姿を消している。調査書では、瞳と同じ高校に通学とあるが、「みちる」は学生名簿に存在しない。また、瞳とみちるは犬猿の仲ほどでないにしろ、表だって友人といえる間柄ではなかった。「みちる」は「調 芳夜」と同じか、彼女以上に謎が多い。一説によると、亡くなった「望月 芳夜」に面影が似ていたらしい。アルバイトとして、水商売に従事していた形跡がある。


※4

翔に「調 芳夜」再生のヒントを与えたハッカーは、「芳夜」が再生するや一転、有形無形の攻撃を加えてくるようになった。ハッカーは幾度と無く侵入を試みるが、免疫系障壁によって撃退される。侵入に使われた複数のアドレスの中に、瞳のものがあった。この時期ハッカーはいたずらに侵入を試みて、ことごとく失敗している。1秒間に万単位でアクセスがあり、ハッカー本人がメールで翔に語ったように、米国防総省のメインに侵入した?腕の事だけはある。しかし単にいたずら目的にしては、手が込みすぎており、何か別の目的があるようだが、ディフェンスサイドの翔や芳夜に考える余裕を与えさせなかった。


※5

「なよたけ」がそれである。ホームページ上のバックコーラス兼ダンサーだった「なよたけ」を「調 芳夜」の代役を勤めさせた。「なよたけ」のモデルは、「芳夜」再生計画の第二段階に位置する「器」のモデルとして瞳のデータを採取していた際、手違いで紛れ込んだ瞳の妹・ひかりのデータを元にしている。また、この時期、FSの低電力化の改良を同時に進行させている。


※6

光子物質化のアピールの為、芳夜のホームページを開設した。以前からプログラマーとしての才能を見込まれて、企業からの依頼を受けていたこともあったが、「調 芳夜」に関わる機器については、自らスポンサーを探して商品化を検討している。たまたまタレント事務所社長・明星希から連絡が入り、機器の商品化に先駆けて「芳夜」の商品化企画が持ち込まれた。後、明星の紹介でメーカーともスポンサー契約をする。


※7

「芳夜」は回想するたびに、彼女はブラックボックス上の記憶から新たな体験をする。記憶のかなた、ココロの壁に隔てられたもう一人の「芳夜」が存在することになる。ココロの壁は彼女の回想を妨げることもあり、特に事件についての回想をするときが顕著であった。再生したばかりの頃、彼女には精神的・肉体的感覚がなく、感情を表現する言葉について肉体と感情を混同した言葉使いをしていた。「こころが痛い・熱い・寒い・重い・痒い」など。「足が悲しい・嬉しい・寂しい」など。


※8

「芳夜」再生計画、殊に「ココロの器」作成に「みちる」は荷担した。「芳夜」の親友で翔とは幼なじみの瞳を罠にはめ、「芳夜」の器として瞳の体をコピーさせた。彼女が計画に荷担したのは、翔とはプラトニックな関係であったことによる処が大きい。

 「みちる」のコピーを「芳夜」の器にと考えていた翔は、「みちる」の強固な拒絶に遭遇している。「みちる」は「翔の心の拠り所として必要とされたい」ため、翔からの要求を拒んだ。「みちる」は、翔とは肉体関係をもたず、関係を精神面に止めている。翔の現在の家族や周囲が想像している、より濃密な関係とは言い難い。

 出会いから別れまで、みちるにとって翔は「殺人犯」であり彼の人格自体に興味をもっているだけにすぎなかった。


※9

葉月陽子が恐竜展以来、情報提供者がいたため翔達とは直接関わりを持っていない。最初の提供者はSNSで彼女とのコンタクトをとった。その後継続的に情報提供を受けている。この情報提供者は、翔とコンタクトをとり、「芳夜」再生後攻撃者に変化しているハッカーである可能性が高い。


※10

再生計画の第3段階(疑似人格と疑似人体の融合)実行されたが、疑似人体が疑似人格を受け入れない事態が生じていた。原因は解き明かされることのないまま、再度の「星野瞳」取り込み作業の後、何ら問題無く疑似人格を疑似人体へ定着させる作業が完了している。拒絶反応が出た事柄についても、また拒絶反応が出なかったことについても原因は不明だが、「調 芳夜」失踪の原因は此処に起因するのではなかろうか。


※11

「芳夜」再生で、最も衝撃を受けたのは瞳であった。翔から頼まれた新しい入浴剤のモニターが、「芳夜」再生計画の一環だった事を知る由もない。ことの成り行きをみちるから告白されるが、瞳は信じようとしない。みちるに付き添われて来たパソコン部の部室で再生した「芳夜」に会い、衝撃のあまり、気を失ってしまう。瞳はパソコン上での意識体「芳夜」再生計画を認知していたが、あくまで「翔のおもちゃ」程度の認識だった。

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