世界が滅亡する最後の五分でカップ焼きそばを食べる委員会

てこ/ひかり

世界滅亡編

『いや俺もさ。そりゃ出来れば食べて欲しいとは思ってたよ?』


 机の上で、カップ焼きそば『ブルーハワイ味』が唸った。

『でもさ。何も世界が終わる五分前に食べなくてもよくない?』

「しょうがないじゃん。だってお腹空いてたんだから」


 熱湯五分。

 最後の晩餐が出来上がるまで、私は一人部室でカップ焼きそばと会話していた。こんな姿を他人に見られたら、頭がおかしくなったと思われても仕方ない。だけど、今更誰も気にしないだろう。なんてったって、あと五分で世界は滅亡するんだから。



『なあ、考え直せって』


 ぼんやりと外の景色を見ていた私に、ブルーハワイの方が焦ったように声を上ずらせた。

『あと五分だぞ。俺が出来上がったら、世界が終わるんだぞ? それでいいのか?』

「いいかどうか分かんないけど……逆に聞きたいね。あと五分で世界が滅亡ですって、急にスマホのアラートが鳴って。私に何ができる?」

『何がって……少なくとも、カップ焼きそばを作ることじゃないよ。友達や好きな人に会うとか、家族に電話するとかさあ』

 ブルーハワイが呆れた感じで、終末の過ごし方を私に力説してきた。窓の外で、巨大な隕石が降って来るのが見えた。


『そりゃ俺も焼きそばとして生まれたから、食べられることが喜びみたいなトコあるよ? でもあと五分だぞ? 流石に他に優先することあるだろって』

「あのね。こちとらいつか、ブルーハワイなんて奇抜な味を食ってやろうと日頃から思ってたワケさ。それがたまたま今日、この時間だったの。いきなり世界の終わりですとか言われたって、その流れは止められないって」

『嬉しいこと言ってくれるじゃん。でも、このタイミングじゃないよ……』


 ブルーハワイが少し悲しそうに穴から湯気を漏らした。こっちが食べてやろうと言ってるのに、中々気難しい奴だ。突如部室全体が揺れ出し、轟音が耳に届いた。私は時計を見た。あと二分。


「あーお腹空いた」

『オイオイ。もうちょっと考えて発言しろって。最後の言葉が「あーお腹空いた」で良いワケ?』

「じゃ、なんて言ったらいいのよ」

 爆音とともに、部室の壁が崩れ去った。もう待ちきれなくなって、私はさっさと湯切りを始めた。


『オイオイオイ! 待てよ! まだ時間じゃないだろ! 人生最後の最後が、ちょっと固めの焼きそばを食べた思い出って、それでいいのか!?』

「なんでそれが、ダメだって言い切れるの?」


 私は湯切ったブルーハワイを机にドンと置き、蓋を捲った。出来立てほやほやの『カップ焼きそば・ブルーハワイ味』がそこにはあった。私は目を閉じ、顔の前で両手を合わせた。


「いただきます」

『オイオイ……マジか……』

「世界云々とかさ、そんなの知ったこっちゃないの。私は今すぐ、カップ焼きそばが食べたいワケ! 分かった?」


 私の後ろで爆発が起こり、巨大な黒煙と火炎が空高く昇っていった。爆風に背中を押されながら、私は箸を青い麺の間に突っ込み、口の中に掻っ込んだ。

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