クラスメイトが声優?①

※このお話は同人誌『ふつおたはいりません!』①で書き下ろした短編+αです。


登場人物:

 □町野 結愛(まちの ゆあ)  

   稀莉の学校の友達、17歳。


 ■佐久間 稀莉(さくま きり)

   17歳の、人気急上昇中の女子高生声優。

   可愛い容姿だけでなく、声優としての実力は抜群。東京生まれ。


 ■吉岡 奏絵(よしおか かなえ)

   27歳の崖っぷち声優。青森県出身。

   21歳で大ヒットアニメの主役を演じたが、それ以降は鳴かず飛ばず。

      

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 高校生になって初めての夏休みも終わり、クラスではグループが出来上がっていた。部活仲間以外でも「あれ、あそこの組み合わせ?」と思うのもちらほらある。元から、中学からのエスカレーター組と、高校から入った組で壁があったのに、さらに溶け込めなくなった感じだ。

 私も部活には入っているのだが、同じ部活の人はこのクラスにいないので孤立気味ではある。

 けど、気にしていない。

 お昼休みは部活の人と集まってご飯を食べる。授業ごとの休みも大好きな本を読み進めることができる。大変有意義であった。寂しくなんてなかった。


「夏休み、別荘に行きまして」

「いいですね、私は海外で過ごしていましたの」


 周りから入ってくる話は別次元だ。この学校はお嬢様学校である。

 都内の私立の女子高。ただ私は高校から受験して入ったので、特段お金持ちというわけではない。貧乏な家庭ではないが、周りの人から見れば場違いな人間だ。

 マジなお金持ちの人たちは小学校から入学し、そのままエスカレーターの内進生が多い。高校から入った、外進生の私とは違う。


「昨日、フランス料理のフルコースにいったの」

「ニューヨークの夜景は最高でしたわ」


 金持ちのマウントの取り合い。一般家庭の私と話が合うわけがない。私がこのクラスに溶け込めないのも仕方がないのだ。

 クラスメイトから目を逸らし窓の方を見ると、私と同じように本を読んでいる子がいた。


「……」


 周りの話に耳も傾けず、背筋をピンっと伸ばしながら、真剣な顔をして本を読んでいる。

 同性の私でも思わず見とれてしまうほど、絵になる子だ。


 佐久間さん。


 共学にいたら、毎日ラブレターが届くだろう。そう思うほど、可愛い子だ。残念ながら、ここは女子校なのでそういったイベントは生じない。私の知らない所で生じている可能性もあるけど、私は知らない。

 佐久間さんはよく学校を休む。「身体の弱い子なのかな?」と思ったが、体育の時は元気に動き、マラソン大会もそれなりの成績を出していた。別の理由を考えたが、思いつかなかった。部活にも入ってないという噂だ。

 なら、何をしているのだろう?、と興味が湧くも、直接彼女に聞いたりはしなかった。私は面倒なことが苦手だ。リアルな生活は、狭い世界でいい。手の届く半径1メートルぐらいの範囲だけ動ければいいのだ。なるべくエネルギーは消費しない。それが私のモットーだった。

 別に嫌ってはいないが、わざわざクラスのボッチ同士、仲良くしようとは思わなかった。私は私で忙しいんだ。



 家に帰ると、早速パソコンを立ち上げ、ペンタブを準備する。

 私の趣味は、漫画を描くことだ。賞に出しては落選続きだが、SNSでは一定数のファンがいる。漫画を載せる度にコメントがつくのが嬉しい。私の存在が世界に認められるような気がするのだ。

 ただ、漫画家になれるとは思っていない。


「あー、液タブ欲しいな」


 集中力も切れ、SNSを見ながら嘆く。漫画家になろうとは思っていないが、きちんとした道具は欲しい。ペンタブだと正確性にかける。家電量販店で液タブを使用した時は驚いたものだ。よりスムーズに、より丁寧に描ける。これならもっと上手になれると思った。

 けど、値段が高い。高すぎる。バイトもしていない女子高生が、簡単に手に入れられるものではなかった。


「あっ、アオミスの新刊出ているじゃん!」


 SNSに流れてきた情報を見て、思わず声に出す。『青空ミステイク』、通称アオミス。今、私が1番ハマっている恋愛漫画だ。その3巻が発売されている。


「2巻の終わりから、どうなっているか超気になっているんすよね……」


 出ていると知ったらどうしようもない。読みたくて仕方がない。我慢は体に毒だ。

 家を飛び出し、急ぎ本屋へ向かった。



「良かった、良かった」


 本屋で最新刊を購入し、上機嫌の私。最近では、本屋も不況からか最新刊が置いていないことも多い。この本屋は品揃えがしっかりしているので安心だが、万が一のこともあった。そしたら別の本屋に行かなくてはいけなかったので、ラッキーだ。うんうん、早く帰って読みますよ。


「あれ?」


 レジから出口に向かう途中、見知った顔があった。

 佐久間さん。

 同じクラスの女の子が、ライトノベルコーナーにいた。

 へー、本を読むのは好きと知っていたが、ライトノベルも読むのか。お嬢様っぽかったので、文学小説しか読まないと思っていたので意外だ。

 案外、私と趣味が合うのかもしれない。

 そう思って、彼女の背中を眺めていると、振り返った彼女と目が合った。


「あっ」

「……はい?」


 思わず大きめに声も出してしまい、彼女も不思議そうな顔をして答えた。

 まずい、彼女を見ていたのが完全にバレている。喋らないわけにはいかなかった。


「こんにちは、佐久間さん」

「こんにちは、えーっと……」

「同じクラスの町野だよ、町野結愛」

「あー、町野さん、町野さん……」


 あれ、認識されていない? 半年は経っていないが、もう9月だ。ちょっと悲しみを覚える。


「本屋で何をしているの?」

「本を探していたの」


 そりゃそうだ。


「町野さんは何をしに?」

「私は漫画を買いにきたの」

「へー、漫画。どんな漫画なの?」


 挨拶だけして帰ろうと思ったら、意外と食いついてくる。


「青空ミステイクっていう漫画でね、すれちがいの恋愛漫画なんだー」

「なるほど、恋愛漫画なのね。すれちがい、面白そうじゃない」

「……良かったら、1巻貸そうか?」


 興味ありそうなので、つい手を差し伸べてしまった。


「いいの?」

「私もアオミスを普及したいし」

「アオミス?」

「あー、この漫画の略称だよ。じゃあ明日学校に持っていくね」

「ええ、楽しみにしているわ」


 関わることはないと思っていた昼の私はどこへやら。

 これをきっかけに私と佐久間さんは仲良くなり、友達になったのだ。


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