ある日の学園祭③
稀莉「皆の質問に答えようのコーナー!」
奏絵「さっきの逆だね。事前に募集した質問が入ったボックスから紙を引き、出たものを私たちが回答します」
稀莉「よし、これ。『二人の大学の時の思い出』」
奏絵「ない」
稀莉「即答!」
奏絵「強いていえば半泣きで卒論書いたこと」
稀莉「もっと楽しい思い出はないの!?」
奏絵「稀莉ちゃんこそ、何か楽しいことあった?」
稀莉「私も大学のイベントは欠席ばかりだったし……学食が美味しかった」
奏絵「寂しい大学生活な二人でした。ここのお客さんたちは悔いのないキャンパスライフを過ごしてね!」
稀莉「……それでいいの?」
奏絵「いいんです。学校だけが人生じゃない」
稀莉「う、うん……うん?」
奏絵「『声優になってよかったこと』」
稀莉「奏絵に再会できたこと、よしおかんとラジオを一緒にできたこと、吉岡奏絵とアニメで共演できたこと」
奏絵「即答! それに全部私じゃん」
稀莉「だって、声優になったきっかけだもん。よしおかんは?」
奏絵「私は……、自分の名前がアニメに載ったことかな。普通の人生を歩んでいたら名前を残すってことなかなかできないと思うし」
稀莉「大事なことだけど……地味!」
奏絵「いいのいいの、次いこう」
稀莉「『よしおかんさんは、稀莉ちゃん以外の声優さんの誰と仲が良いですか』」
奏絵「おい、誰だこれ書いた奴! 稀莉ちゃんとの仲を裂く気か~~~」
稀莉「私も聞きたいわ、奏絵さん」
奏絵「怖い、笑顔が怖い!」
稀莉「早く^^」
奏絵「えーっと、養成所の同期の西山瑞羽に、年齢の近い東井ひかりが仲がいいかな……。最近は後輩の砂羽ちゃんにも懐かれているし、梢ちゃんや咲良とも連絡とることが多い」
稀莉「なるほど、要注意人物がわかったわ」
奏絵「違うって! 皆、稀莉ちゃんも知っている人だし!」
稀莉「知らない名前が出てこなかっただけ良しとします」
奏絵「大丈夫、稀莉ちゃんは別枠で1番仲が良いから」
稀莉「足りません」
奏絵「え?」
稀莉「皆も聞きたいよねー?」
奏絵「え、え」
稀莉「ほら、1番好きと言いなさいよ」
パチパチパチパチ
稀莉「ほら、観客も待っているわ」
奏絵「お客さん、悪ノリしないでー」
稀莉「言うまで次に行きません」
奏絵「……私は、稀莉ちゃんが1番好きだよ」
パチパチパチパチパチパチパチパチ
稀莉「満足」
奏絵「皆の前で何を言わせるの!」
稀莉「需要です」
奏絵「あーもうっ! 顔が熱いんだけど……」
奏絵「そろそろ次? イラストクイズ……?」
稀莉「やめるわ、これ。もっとトークや声を生かしましょう」
奏絵「それでいいの、サークルさん? あ、いいそうです。では次のコーナーは……即興劇!?」
稀莉「さぁよしおかんとイチャイチャするわよ!」
奏絵「謎のやる気の出し方!?」
× × ×
奏絵「そろそろお時間だそうです。あっという間でした」
稀莉「ラジオよりは長いけど、そんな気しなかったわ」
奏絵「ねー」
司会の女の子「今日は明山大学に起こしいただき、ありがとうございました」
奏絵「いえいえー、とっても楽しかったです」
稀莉「初めての学園祭イベントだけど、自由すぎてこれで良かったのかしら」
パチパチパチパチ
奏絵「良かったみたいだね」
稀莉「安心したわ」
司会の女の子「最後に、夢を叶えたお二人から現役の学生さんにアドバイス、エールをいただけますか」
奏絵「アドバイス? そうだなー……。若い時は戻ってこない!!」
稀莉「実感がこもっているわね」
奏絵「う、うるさい! 戻って来ないからこそ、後悔しないように自分の好きなことに、やりたいことにたくさん挑戦できるといいなーと思います。私は声優に挑戦して、なってからは後悔や苦労も多かったけど、今はなってよかったなとあの頃の自分に感謝しています! 明るい未来に向かって頑張ろー……って感じでいいかな?」
稀莉「最後、雑にまとめたわね」
奏絵「いいんだよ。はい、稀莉ちゃん」
稀莉「私も似ているけど、ちょっと違うわ。学生の時は特別な時間です。でも、だからといってそれで人生が決まるわけじゃない。私はそんなに学生生活を頑張らなかったけど、楽しい10代を送れました。でも夢を見つけること、憧れる出会えるなんて奇跡だったのかもしれません。だから『頑張らなきゃ!』と気持ち入れすぎず、迷って、色々なことを見ながら、素敵なことを見つけられたらいいなと思います。疲れた時はこれっきりラジオが待っているわ。番組を聞いて大笑いすれば、大抵のことは乗り越えられるので、なんとかなります。ということで、毎週ラジオを聞きなさいってことでした!」
奏絵「これっきりラジオを聞けば、人生が明るくなる」
稀莉「これっきりラジオは人生よ」
奏絵「……それは言い過ぎかな。でも稀莉ちゃんの言葉も大切なことだらけだね。頑張るのも大事だけど、好きなこと見つけなきゃ、頑張らなきゃと焦らなくて大丈夫」
稀莉「人は人。マイペースで生きなさい!」
司会の女の子「ありがとうございます。大変ためになりました」
奏絵「……今言うことじゃないけど、司会ちゃん可愛い声しているね」
稀莉「もしかして声優志望?」
司会の女の子「そんないい声じゃないですっ! 声優になんてなれないです」
奏絵「わからないよ~」
稀莉「あんまり惑わせちゃ駄目よ。……役は限られているんだから志望者は減らさないと」
奏絵「考えが怖い!」
司会の女の子「ほ、本当に目指してないんで安心してください。それでは、退場するお二人に盛大な拍手をお願いします」
パチパチパチパチ パチパチパチパチ パチパチパチパチ
奏絵「ありがとー、楽しかったよー」
稀莉「ラジオ、ちゃんと聞きなさいよ。またね~」
***
「これで良かったのかな」
「まだ拍手の音が聞こえるでしょ」
「うん、嬉しいね。これで良かったんだね」
「私たちが楽しめたらいいのよ」
「そうだね、ファンはそんな私たちのラジオを待っている」
「じゃあ、お家に帰って私と奏絵の学園祭を始めましょうか」
「は、い……?」
「メイド服は晴子に連絡して、『喜んで時間通り持っていきます』だって」
「はい?」
「奏絵のメイド喫茶に、奏絵の一人ミスコンに、奏絵の一人演劇に、あとは学園祭終わりの告白ね」
「……そうだ、事務所に寄るように言われたんだ」
「だーめ。早く帰りましょう」
「手、握らないで、引っ張らないでー。あっ、スタッフの皆さまお疲れ様でしたー……じゃなくて、あぁあぁ」
晴子さんの持ってきたメイド服を着て稀莉お嬢様に紅茶を注いだり、
踏み台の上に立ち、自己アピールする私を稀莉ちゃんが必死に応援したり、
一人漫才したり、一人歌唱したり、告白寸劇したり、
そんなことをしたのはきっと物語に関係のない話。
……晴子さん、写真や映像消してくれないかな。
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