リスタート

リスタート

 歓声が聞こえる。

 トップバッターじゃないので、すでに場内は温まっているみたいだ。


 ……できるかな。


 マイクを持つ手が無意識に震えている。

 いくら強がっても、練習してもこれだ。また途中で歌えなくなったらどうしよう。がっかりさせたくない。誰を? ファンを? 自分を?

 トラウマとプレッシャー。

 こればっかりはどうしようもなくて、なるようになるしかない。最初は躓いても、徐々に慣れて、取り戻せばいい。

 そう思いながらも、なかなか足は進まない。

 今日は私だけのイベントじゃない。『空飛びの少女』の名を背負っている。そう、重く考えるのが私の良くないところだ。もっと気楽に、ふわりと空を飛ぶかのように、


「奏絵」


 風が吹く。

 衣装を着た女の子が私の名前を呼んだ。


「稀莉ちゃん」

「大丈夫だよ、空音。私がいる」

 

 そう、が言う。


「空音」

「うん」

「そうだね、大丈夫だよね」


 待ちわびた日だ。

 何年待った? 空音に選ばれた時から? 喉を壊した時から? 稀莉ちゃんが歌えなくなった時から? 声優になったときから? 生まれた時から?

 いつだっていいんだ。想いの重さは関係ない。

 彼女がいる、稀莉ちゃんがいる。

 言ったじゃないか、私は。彼女のために歌うって―。

 

「おまじないは必要?」

「そういって、稀莉ちゃんが必要なんじゃないの?」

「終わった後、たくさん貰いますから」

「えぇ……」

「そこはテンションあげなさいよ!」


 息を吸い込む。

 もう手は震えていない。


「ありがとう」

「お互いさまよ」


 自然と握った手は勇気に変わる。どこまでも飛んでいける羽だ。


「さぁいこうか、稀莉ちゃん」

「ええ、いくわよ奏絵」


 空は色が変わり、星は新たな光になり、また繋がっていく。

 そうやって私たちは声をあげ、生きていく。


 二人で笑って、

 手をしっかりと握って、

 一緒に歩いて、

 光に向かっていく。


 白へ溶け込んだ先に、たくさんの色を私は、私たちは見た。

 二人で見た無数の光を、何色と名付けたらいいだろうか。


 その答えを見つけるために、今日も私たちは声を響かせ、また始めるのだ―。


                          < アフターアクト・完>

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