第42章 私の周波数②

***

梢「今日の『新山梢のコズエール!』のイベントに、素敵なゲストさんが来てくださっていますぅ~。拍手でお迎えしてくださいですぅー」


お客さん「パチパチパチ」


ひかり「どうもー、お客さんたくさんだね~」

奏絵「わー、拍手ありとう~」


梢「ひかりしゃんに、よしおかんしゃんですぅー。わーい」

ひかり「舞台の飾りつけからすごいな」

奏絵「パステルカラーだね。ファンタジー空間みたい」

梢「見てください、お客さんたちも」

ひかり「うお、よくみるとピンク色のシャツが多い。え、あれがグッズなの?」

梢「そうです~」

ひかり「会場外だと着づらそう。イベント終わったら脱いで、リュックにしまう人挙手~。……え、ゼロ!?」

梢「皆さん、いい子豚しゃんですぅ~」

ひかり「こ、こぶた!?」

奏絵「思い出した。コズエールのリスナーさんは皆、子豚なんだった……!」

ひかり「いやいや、訓練されすぎでしょ! 子豚の鳴き声やって~と言ったらやってくれるの?」

梢「何言っているんですか、ひかりしゃん。そんなことしませんよ?」

ひかり「いやいや、ノリがわからない」


奏絵「皆、ブー」

お客さん「パチパチパチ」

奏絵「いや、拍手じゃなくてね!?」

梢「ブー」

お客さん「ブー」

奏絵「梢ちゃん相手だとやるの!?」


ひかり「どうしよう、よしおかん。今日は完全にアウェーだよ」

奏絵「私たち、なんでお呼ばれしたんだろう。もう帰っていい?」

梢「駄目ですぅ~。ほら早く椅子座ってください。早くおやつタイムにしましょう」

ひかり「え、おやつでるの?」

奏絵「やったー」

梢「それぐらい甘い話をしようってことですぅ~」

ひかり「ん?」

奏絵「え?」

梢「さっそくこのコーナーですぅ~」


梢「梢とシュガートーク!」

お客さん「パチパチパチパチ」


梢「こちらのコーナーでは砂糖のように甘~い話を繰り広げますぅ~。普段はおたよりが中心ですぅが、今日は恋愛マスターのお二人がゲストなので梢の質問中心に進めますぅ~」

奏絵「恋愛?」

ひかり「マスター?」

梢「そうです、恋愛マスターですぅ。あっ、恋愛マイスターの方が良かったですか~?」

奏絵「そういうことじゃないよ!」

ひかり「よしおかんはいいとして、私は全然だよ。人選ミスだよ!」

奏絵「いやいや、私だって」

ひかり「何をおっしゃいますか」

梢「今日も指に光る指輪が……」

ひかり「ねー。イベントだというのに見せつけるかのようにねー」

梢「ですですぅ」


お客さん「パチパチパチ」


奏絵「お客さんも拍手しないでー。これはしないと言われるから……」

ひかり「あらあら誰に言われるんですかね、梢さん」

梢「誰でしゅかね、ひかりしゃん」

奏絵「もう二人とも悪ノリしないでー。これは、そう、魔よけの呪文、呪具だよ!」

ひかり「呪われているんだ……」

梢「その表現はどうかと思いますぅ、よしおかんしゃん……」

奏絵「もうなんなの! 梢ちゃん早く始めよう!」

梢「最初のテーマはこれですぅー」


梢「結婚した時のお金の管理について」


奏絵「全然甘くない!?」

ひかり「現実的な話じゃん!」

梢「現実は甘くないんですぅ。お金のことはてきとーではいけません」

ひかり「何があったの梢ちゃんに!? リスナーもうんうんと頷くんじゃないよ!」

梢「梢は通帳は絶対に別ですぅ。一緒はいけません」

奏絵「それはわかるかな~。個別でつくったうえで、月何万円はここにいれるって共通の通帳を作った方がいいかも」

ひかり「奏絵はそうなんだ~」

奏絵「うん……って違うよ!? 例えば、例えばの妄想!」

ひかり「今さらだよね~」

梢「ためになりますぅ~」

奏絵「なんで、梢ちゃんは通帳一緒が嫌なの?」

梢「自由にお菓子を買えなくなるじゃないですかぁ」

奏絵「うん……ん?」

梢「家計を圧迫しないでと絶対に怒られる気がするんですぅ。それに自由に使えるお金がないといざという時に困るんですぅ。スイーツは一期一会。見逃しちゃいけないんですぅ」

ひかり「梢ちゃんはさすがだねー。この子、食べたスイーツのこと全部メモってあるんだよ」

奏絵「え、そうなの!?」

梢「当然ですぅ。きちんと覚えておかないと次にいかせましぇん!」

奏絵「すごいプロ意識」

ひかり「いや、この子の本業は声優だけどね。料理研究家じゃないよ」

奏絵「……本とか出して、売ったらけっこう売れるんじゃない? ね、ここのリスナーもきっと買ってくれるよ」


お客さん「パチパチパチ」


梢「さすが恋愛マスターのよしおかんしゃん。私の回答にバッチリ答えてくれますぅ。食べて、メモして、それを売ってまた食べる。永久機関の完成ですぅ」

奏絵「いや、恋愛全く関係ないからね!」

ひかり「さすがよしおかんだぜ……!」

奏絵「ひかりんも悪ノリすなー」

梢「次のテーマですぅ」


梢「プロポーズの仕方について」


奏絵「梢ちゃん、相手いないよね!? 今日のイベントやけに具体的!」

ひかり「急に大事なお知らせやご報告とかしないでね!?」

梢「しないですよぉ~。スイーツが旦那さんですぅ」

ひかり「……そういうこといっている子に限って、ちゃっかりしているんだ。私知っている。伊達に30年ちょっと生きていない。気を付けな、ファンの皆!」

梢「子豚さんたちを不安にさせないでくださいぃ~」

ひかり「不安にさせているのは梢ちゃんの言動だよー!」

奏絵「プロポーズの仕方か……。梢ちゃんならスイーツの中に指輪とか」

梢「そんなスイーツを無駄にすることをしてはいけません、絶対に駄目ですぅ!」

奏絵「ご、ごめん。眼がマジ」

ひかり「わかってないな、奏絵。アタッシュケースに現金つめて、それを開いて『結婚してください』だよ」

奏絵「金目当て! 全然ロマンチックじゃない!」

梢「よしおかんしゃんはロマンチックだったんですかぁ~」

奏絵「そう、私はね……っていわないよ!」

ひかり「何かはあったんだー」

奏絵「はっ、ないない。ないないのない。ま、まぁ私から言えることはプロポーズが大事なんじゃなくて、今までの過程と積み重ねかな。でもその上で大事なことはきちんと示してあげるといいよね。本心からの言葉はやっぱり嬉しい……と思うよ」


梢「さすが恋愛マスターのよしおかんしゃんですぅー」

ひかり「よっ、恋愛マイスターかなえ!」

奏絵「今回私を辱めるイベントじゃないよね!? 私ゲストだよね!?」


お客さん「パチパチパチ」


奏絵「拍手しなーい!」

***

 愉快なイベントだったけど、いつから私はこんな風な立ち位置になったのだろう。

 名前は出されてないけど、オープンすぎる。バレバレだ。稀莉ちゃんがイベントに来ていなくてよかった。客席にいないよね? 今日はレッスンの日だったよね?


 でも、悪い気はしない。これが今の吉岡奏絵なのだ。


 稀莉ちゃんあっての私。

 稀莉ちゃんといるのが当たり前の私。

 悪いわけ、ない。

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