第39章 新世界で迷子になって⑤

***

奏絵「始まりました」

稀莉「佐久間稀莉と」

奏絵「吉岡奏絵がお送りする……」


奏絵・稀莉「これっきりラジオ~」


奏絵「はい、記念すべき第1回目です」

稀莉「1回目です」

***


@kanaeYoshiokan

「今日はわたしたちもラジオを聞きながら実況! #これっきりラジオ」

@kanaeYoshiokan

「ああ、第一回目が始まってしまった… #これっきりラジオ」


***

奏絵「売れっ子声優の稀莉ちゃん、17歳。17歳!? 若っ! えー歳の差にすると10歳も違う、凸凹コンビが、悩める皆の悩みをばっさばっさ斬っていきます」


稀莉「はい、斬ります」

奏絵「それにしても10歳差って……。現役女子高生ですよ。肌ぴちぴち! いやー、若いって素晴らしいですね」

稀莉「はい」

奏絵「えーっと、うん、稀莉ちゃんにとって27歳ってどうかな?」

稀莉「年上ですね」

奏絵「うん、その、27歳なんておばさんだよね」

稀莉「そうですね」

***


@kanaeYoshiokan

「稀莉ちゃんの反応、淡白すぎない? #これっきりラジオ」

@kanaeYoshiokan

「う、うるさいわね。どうしたらいいのか、わからなかったのよ!(稀莉)」



***

奏絵「稀莉ちゃん肯定しない! 私はおばさんじゃないよ。お姉さん、お姉さんだからね。まだ30になってないよ、アラサーだよ」

***


@kanaeYoshiokan

「この人、もうすぐアラサーじゃなくなります(稀莉)」

@kanaeYoshiokan

「う、うるさいー #これっきりラジオ」



***

稀莉「そうなんですか?」

奏絵「稀莉ちゃん、収録終わったら楽屋でお話しようね」

稀莉「どういうことですか?」

奏絵「えーっと、うん、じゃあ、はい、じゃあ早速コーナーに行きましょうか」


稀莉「おたよりのコーナー」


奏絵「もっと元気よく言おうか!」

稀莉「元気に言ったら給料が増えるのですか?」

奏絵「いや、これそもそも仕事だから!」


稀莉「読みます。ラジオネーム『ご飯とコーンスープとビール』さんから」

奏絵「組み合わせ悪っ!」

稀莉「組み合わせが悪いってどういうことですか?」

奏絵「コーンスープとビールとご飯って合わないと思うんだよ。でも稀莉ちゃんにはまだわからないかな」

稀莉「へー」

奏絵「うん」

稀莉「……」

奏絵「よもう、読もうか!」


稀莉「え、はい。『佐久間稀莉さんと吉岡さんのラジオが始まり、すごく楽しみです。接点のない二人ですがこれからどう変わっていくのか、ラジオを追っていき、期待しています。お二人のラジオの意気込みを聞かせてください』」


奏絵「ありがとー。ラジオの仕事も久しぶりで凄く嬉しいです! 毎週楽しい時間をお届けできるように頑張ります!」

稀莉「私も頑張ります」

奏絵「うん、頑張ろう」

稀莉「はい」

奏絵「……」

稀莉「……」

奏絵「そ、それだけ?」

***


@kanaeYoshiokan

「このラジオつまらなすぎじゃない? 初回切りよ、初回切り(稀莉)」

@kanaeYoshiokan

「どの口がいうか! しかし改めて聞くと本当にひどい。今のラジオの雰囲気がまったくないね。 #これっきりラジオ」

@kanaeYoshiokan

「こんなに沈黙したら放送事故よ。誰よ、この声優(稀莉)」

@kanaeYoshiokan

「き み だ よ #これっきりラジオ」

@kanaeYoshiokan

「半熟が好きです (稀莉)」

@kanaeYoshiokan

「黄身の話じゃない! #これっきりラジオ」

@kanaeYoshiokan

「ねえ、よしおかん。ハッシュタグってどうつけるの?(稀莉)」

@kanaeYoshiokan

「SNSで聞かず、直接聞いて稀莉ちゃん!  #これっきりラジオ」

@kanaeYoshiokan

「できた、できた!(稀莉)  #きりちゃんがかわいいラジオ」

@kanaeYoshiokan

「ち、ちげー! 勝手にタグを生み出している! #これっきりラジオ」

@kanaeYoshiokan

「ちゃんとラジオの実況しようよ! #これっきりラジオ」

@kanaeYoshiokan

「だってこのラジオ番組つまらないんだもん(稀莉)  #きりちゃんがかわいいラジオ」

@kanaeYoshiokan

「元も子もない!!! #これっきりラジオ」



 × × ×

 ラジオが収録できず、4月中旬これっきりラジオの第1回放送が再度流された。ただ流すだけではつまらないと思い、私のSNSを使って実況することにしたのだ。ログインしたパソコンで稀莉ちゃんが打ち、私は携帯で打つ。一緒にリビングで聞きながら、実況するのはなんだか新鮮で、リスナーと一緒に聞いているみたいで楽しかった。

 ただ、


「初回放送、本気につまらないね……」

「ええ、想像も絶するほどのつまらなさだわ」

「よくこんなの放送したね……」

「初々しさとか通り越して、誰だこいつらなんだけど……」


 聞き終わり、実況も終え、二人で猛反省である。


「誰かがツンデレを起こさなければもっとマシになったんじゃ」

「はい? でもこれがあったから後々よしおかんが生まれたのよ」

「ああ、来週2回目が流れるのが億劫だ……」

「誰かさんが収録前、私に向かって『罵ってください』って言った回ね」

「そうだよ、今思うとなんだそれだよ! でもそれが私たちの原点なんだから!」


 不仲に見せるトーク? のちに稀莉ちゃんが私のことを元から好きだと知ったわけだが、罵りを始めることで掛け合いが生まれ、ラジオの雰囲気が出来上がっていったのだ。

 ラジオの回数だけ歴史あり。

 今では実況しなきゃ聞くに堪えない回も、それでも幸せな宝物で、私たちの始まりだ。


 ……もう聞きたくはないけど。

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