第38章 降り注ぐ光②

*****

奏絵「じゃあふつおたを読んでいこうか」

稀莉「ふつおたはいらないって言っているでしょ? 面白いおたよりしか受け付けませーん」

奏絵「でも、たまにすっごく普通な、アイドルさんのラジオに送るようなほんわかしたおたより読むと心が癒されない? ふつうでもいいんだよ!」

稀莉「私は失敗談や、やらかした報告の方が心が癒される」

奏絵「稀莉ちゃん、悪魔!」


稀莉「さあ今日はどんな不幸が待っているのかしら。ラジオネーム、『湯豆腐腐腐』さんから。

『稀莉さん、よしおかん聞いてください! 春は出会いの季節、ですが社会人ではなかなか出会いがない! ということで婚活パーティーにこないだ行ってきました。オタク向けの婚活パーティーということで話が合い、素敵な方ばかりでした。その中でも特に話が合う女性に出会い、中間発表ではその子にアプローチカードをもらうなど理想的な展開だったのですが、ひとつだけ、そうひとつだけ許容できないことがあったんです。

そう、女性の名前がうちの姉と同じ名前だったんです。

最後まで悩みましたが、もし付き合って名前を呼ぶたびに姉を思い出すなんて無理!と思い、誰にも投票せず終了。その女の子もカップル成立せず、もし選んでいたらカップルになれたのでは……と思うも、やっぱり姉と同じ名前は無理なのでした。

お二人はもし互いが家族や、友人と同じ名前だったら困っていましたか? 春よ来い!』」


奏絵「あー、お姉さんと同じ名前だったのか。お姉さんとの仲の良さにもよるけど、確かに嫌と思うかも」

稀莉「例えばよしおかんが私の母と同じ名前だったら、ってことでしょ?」

奏絵「そうだね、こっちだと稀莉ちゃんの名前が自分の母親と同じ……。呼ぶたびに、母の顔が思い浮かんでうわ~~~ってなりそう」

稀莉「私も嫌かも。声優さんで『リカ』という名前の人は何人かいるけど、……今、名前を呼んだだけでもぞわっと来たわ。難しい!」

奏絵「付き合ってその先結婚となると、苗字呼びもしなくなるかもだし、考えるとけっこうキツイ」

稀莉「<母親の名前>、好きよ、大好き、愛している……、無理無理。想像するだけで無理。名前って大事だわ」

奏絵「スタッフの皆さんはどうですか? 気にする人、挙手ー。じゃあ気にしない人ー。あっ、ほとんどの人が気にしないですね。意外。中身が違う、名前がその人じゃない。確かに確かに。あだ名で呼べばいい。なるほど、なるほどー」

稀莉「もし奏絵が母親の名前だったら改名させるわ! 声優って便利!」

奏絵「便利って! 芸名は変えられるけど、それまでの愛着あるし!」

稀莉「残念なことに私たちは本名だけど。卒業アルバムとか探さないでください」

奏絵「大事! それ大事! 今、小学生の頃の写真とか出されたら無理!」


稀莉「こないだよしおかんのお母さんから、『この頃の奏絵可愛くて~』とたくさん写真が送られてきたの。すっごく可愛くて、タイムマシンの開発を切に願ったわ。会いに行って、撫でたい、たくさん飴をあげたい」

奏絵「なにやっているの、うちのお母さん!? そして飴につられるほど小さい頃の私チョロくないよ?」

稀莉「それでは現金を渡したり、ネズミの国に連れていったりして仲良くなります」

奏絵「逃げてー、過去の私! 変なお姉ちゃんについていっちゃ駄目だよ」

稀莉「よしおかんだって、うちのおかんとこないだショッピングに行ったの知っているんだから」

奏絵「おかんとリアルおかんでややこしい。あれは、稀莉ちゃんのプレゼントを考えるために……でしてね。って、何でバレたの?」

稀莉「母親から、『稀莉のために必死にプレゼントを選ぶ奏絵さん可愛い☆』とあなたの写真が送られてきたからよ」

奏絵「何やっているの、理香さん!?」


奏絵「脱線しすぎだね。戻ろうか」

稀莉「改名が無理だとしたら、なかなかにきついわね。名前に惹かれるところも少なからずあるし」

奏絵「それでも、私は稀莉ちゃんのこと好きになっていたと思うよ。それに順番が逆だとも思うんだ。稀莉ちゃんが稀莉ちゃんだから、“稀莉”という名前が好きになった。たとえそれが親と同じ名前でも、最初はちょっと嫌かなーと思うかもだけど、変わらずに好きになると思う」

稀莉「………………スキ」

奏絵「急にしおらしくならないで!? 熱い眼差しで見ないで!? 言ったこっちが恥ずかしい! 次、次読もう!」



稀莉「『波打ち際のたこたこ』さんから。『稀莉さん、吉岡さんのいやらしいと思う所はどこですが、はあはあ』」


奏絵「む、無言で破らないで!」

稀莉「全部いやらしいわよ!」

奏絵「違う、そういう意味じゃない! 変態はいりません!で破っていて欲しかった!」

稀莉「人は変わる」

奏絵「そこは変わらないで! 次、次読むよ」



稀莉「ラジオネーム、『あるポン』から。はいはい、古参」

奏絵「さんをつけよう稀莉ちゃん!」


稀莉「いいのよ、あるポンには。『お二人、こんにちはー。これっきりラジオを長く続けてきたお二人ですが、最近になってわかったお互いの良いところはありますか? 僕はこの歳になって、お茶づけの良さがわかりました。シンプルなのに、奥深く、ダシやトッピングを替えては究極のお茶漬けを追い求めています。番組300回目前ですが、400回、500回と長く続くことを祈っています。これからも変わらず応援していきます!』」


奏絵「あるポンさんありがとう~」

稀莉「最近になってわかったお互いの良いところ?」

奏絵「全部が良い所です」

稀莉「そういうの求めてなーい」

奏絵「考えてと言われるとすぐに浮かばない……」

稀莉「私のこと考えてないの?」

奏絵「四六時中考えてます!」

稀莉「よろしい。奏絵の気づいた良い所は、動物に喋る時はすごく甘い声で、赤ちゃんに話しかけるような感じになることかな~」

奏絵「よ、良い所なの?」

稀莉「ギャップがあってありだわ」

奏絵「実家で犬飼っていた時の名残かな。母親がそういう感じだったんで。遺伝なんだろうね……」

稀莉「いつかお家で動物を飼うのもいいわね」

奏絵「犬もいいけど、猫もいい!」

稀莉「こないだみたホーランドロップも可愛かったわ。フェレットもいいし、ヨツユビハリネズミもいい」

奏絵「でもでも飼うならきちんと責任を持たないとだから、きちんと考えようね」

稀莉「そういう真面目なところも好きよ。そうね、私たち二人とも不定期で仕事だものね。なかなかにハードル高い。仕方ない、よしおかんに首輪つけて……」

奏絵「そういう考えは知りたくなかったよ!?」

稀莉「はい、お手」

奏絵「ワ、ワワン! ってやるかーーー!」

稀莉「といいながらも、きちんと私の手に手を重ねる吉岡奏絵なのであった」

奏絵「ラジオだから、音声放送だからって捏造しなーい!」


奏絵「さて、あるポンさんから前振り?もありましたが、来週でこれっきりラジオは300回目の放送です!」

稀莉「300回って何年目なわけ? 年にだいたい50回で、1,2,3……、奏絵の年齢でいうと……」

奏絵「30歳を超えてから数えるのを辞めました」

稀莉「こないだは永遠の17歳っていっていたじゃない?」

奏絵「17歳じゃ、お酒が飲めないんだよっ!」

稀莉「そこなの!?」

奏絵「飲めない期間が多かったから反動が……。そうそう、こないだ稀莉ちゃんと日本酒祭りしたよね!」

稀莉「いや、よしおかんが勝手に一人で飲んでいただけじゃない。私は一口飲んだだけよ」

奏絵「聞いてよ、リスナー。稀莉ちゃん酔うとすっごく可愛いんだよ! 火照った顔でずっとにこにこと笑ってくれるの。すっごく素直になって好き」

稀莉「まるでいつも素直じゃない、面倒な女みたいじゃない!」

奏絵「面倒な女は自覚してたんだ」

稀莉「うん??」

奏絵「笑顔が怖い! い、いつもは素直というか、ド直球すぎて……。お酒飲んで緩和されたぐらいが私の心にはちょうどいいのです」

稀莉「お酒飲んだ私め……、じゃあいつもお酒飲んでやるわ!」

奏絵「自分に嫉妬しないで~。でも300回記念にお酒飲みながら放送も楽しいかも!」

稀莉「嫌よー、いい気分になって何を口走るのか、わからないでしょ」

奏絵「……いまさら?」

稀莉「人を失言マシーンみたいに言わないで!」

奏絵「尾瀬ヶ原もびっくりの失言地帯だよ」

稀莉「失言と湿原をかけたのね。わかりづらい!」

奏絵「尾瀬に見に行った水芭蕉は綺麗だったね~」

稀莉「群馬を侮っていたわ」


奏絵「あ、お花といえば、もうすぐで春なので桜見ながら配信したいね! 花見酒!」

稀莉「うーん、お花見しながらなら許す」

奏絵「え、植島さんOKですか? さすが300回記念! 屋外からの配信が決定~!」

稀莉「ちゃんと良い場所を確保しなさいよ。スクリーンに映して花見なんて駄目だから。って、会議室でそのつもりだった!? 300回だからお金かけなさい!」

奏絵「あはは、晴れることを祈ります」


稀莉「300回……、いよいよ終わりね」

奏絵「終わらないから!」

稀莉「来月から、『吉岡奏絵と吉岡稀莉のこれっきりラジオ』が始まります」

奏絵「か、勝手に苗字変えないで!?」

稀莉「しょうがないわね、『佐久間奏絵と佐久間稀莉』でがまん」

奏絵「そういうことじゃないよ!?」

稀莉「なによ、実質結婚しているようなものだからいいじゃない」

奏絵「実・質・結・婚。言葉が強い……」

稀莉「そろそろSNSに例の写真を載せてもいいわよね?」

奏絵「例の写真って!? 意味ありげにいわないで!」

稀莉「ドレスの写真です!」

奏絵「素直に言って欲しいということではなく!」


稀莉「はいはい、早く番組をしめろってスタッフがうるさいわ」

奏絵「そういうこと言わないー」

稀莉「なんにせよ、来週は300回。ここまでこれたのはリスナーやスタッフ、よしおかんのおかげです。本当にありがとうございました」

奏絵「急に綺麗にならないで!?」

稀莉「おわりが良ければすべて良しよ!」

奏絵「私は来週に言葉をとっておきます~。たくさんおたより待ってます! 金曜までに送ってくれると嬉しいです!」

稀莉「収録の都合ね」

奏絵「そういうこといわなーい! 次週はお酒を片手に持って聞いてね」

稀莉「いい加減に終わるわよ?」

奏絵「はーい。今週は以上!」


稀莉「ここまでのお相手は佐久間稀莉と」

奏絵「吉岡奏絵でした」


稀莉・奏絵「せーの」


稀莉・奏絵「次回も、これっきりじゃないー!」


                      <ふつおたはいりません! 完>

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