Interlude

Interlude ―レプリカ―

 命より大事と言ったら、多くの人は笑うだろう。

 でも私にとって『声』は命よりも、何よりも大事だった。


 声。


 あの日、声がなくなって、明日が、光が、これからの未来が見えなくなった。

 今までたくさん辛いこともあったが、乗り越えることができた。何度も諦めたかけたが、それでも私は立ち向かった。けどこれはどう足掻こうとしても、どうしようもできなかった。

 いや、完全に声が無くなったわけではない。

 喉の手術は成功したのだ。

 喋れる。話せる。言葉にできる。


 ……でも、声が違う。


 術後はじめて声を出した時の声が自分でなくて、夢なら覚めてくれと願った。声優になっていなかったら、こんな感情を味わうことなんてなかっただろう。


 絶望。

  

 喉が消耗品だということも知っている。

 これからのリハビリ次第とも知っている。お医者さんも、事務所の人も、牧野さんも、両親も大丈夫と言ってくれた。元に戻せると応援してくれた。

 でもわかってしまう。自分のことだから1番わかってしまう。


 根本から変わってしまった。

 

 私のあの時の声はもう戻って来ない。

 戻ることはないんだ、と体で理解してしまった。


 考える時間が必要だったんだ。

 だから逃げたのも、隠れたのも、騙したのも許してほしい。

 このまま私が終わっていたら良かった、そう思わないだけでも許してくれないですか?


 今いる私は、私なんかじゃなかった。

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