第34章 同じ光を見ていた③

***

稀莉「稀莉ちゃんの願い、かなえたい!」


稀莉「このコーナーは、私、佐久間稀莉が吉岡奏絵と結ばれるためのアイデアを、リスナーさんにプレゼンしてもらう企画です。大人気コーナーです!」


奏絵「そろそろネタ切れだと思うんだ。これ以上やる必要はない」

稀莉「確かにもう結ばれたわ。でももっとリスナーは聞きたいはずよ?」

奏絵「そうかなー。って、もう結ばれたってまた語弊のある言い方を……」

稀莉「だって今週だけでもお便りかなり増えているし」

奏絵「燃料を増やしてしまったか……」


稀莉「いいから読むわよ。ラジオネーム『推しとお知り合いのお隣さん』。『稀莉ちゃん、よしおかん、こんばんはー。私が二人にやってほしいのは【愛してるゲーム】です。え、一度やっている? 今回はその改良版、愛してるゲームリターンズとでも言えばいいでしょうか。【愛してる】も含め、お互いが考える【好き】の言葉を言っていき、恥ずかしくなった方が負けです。単語は同じの禁止です。進化したお二人の仲を見せつけてください』」


奏絵「リターンズ! リターンズって!」

稀莉「とてもいい案ね」

奏絵「これじゃ今までやったの何回でもできるじゃん!」

稀莉「終わらない私たちの夏」

奏絵「繰り返しは嫌だー」

稀莉「でも『おおお』さんが前と同じにならないようにと内容を少し変えているじゃん」

奏絵「そのラジオネームの略し方なに!?」

稀莉「やるわよー。私から。お互い見つめ合って~」

奏絵「もうわかったよ!」


稀莉「愛してる」

奏絵「す、好き」

稀莉「ダイスキ」

奏絵「君を守りたい」

稀莉「へ、変化球ね」

奏絵「ほら、そっちだよ」

稀莉「奏絵のこと大事だよ」

奏絵「う~~~~~~、やばい」

稀莉「あなたが1番です」

奏絵「待って、追撃してこないで!」

稀莉「言ってこない、そっちが悪いのよ。ほら言っちゃうよ」

奏絵「アイラブユー」

稀莉「急に英語になった。じゃあ月が綺麗ですね」

奏絵「雨音が響いていますね」

稀莉「あなたをお慕いしています」

奏絵「命をかけて君のものになる」

稀莉「一生を捧げます」

奏絵「幸せになろう」

稀莉「結婚してください」


奏絵「もう終わり! 終わりったら終わり! なに最後のくだり!?」

稀莉「え~、これからでしょ」

奏絵「レパートリーもそんなにないし、それに心がもう限界!!」

稀莉「この回の音源をもらい、プレイリストに入れないと……」

奏絵「怖っ! 植島さん駄目ですよ? 渡したら駄目ですよ、え、売ろうって、こらー」


稀莉「では次の願いです」

奏絵「まだあるの!?」

稀莉「あるわよ。たくさんあるんだから。ラジオネーム『こなまみれ』さんから。『仲が縮まりすぎた二人に心理テストをやってほしいです』。きたー心理テストのコーナー」

奏絵「何度か心理テストもやっているよね?」

稀莉「ちゃんと問題も送られてきているわよ」

奏絵「私も心理テストは嫌いじゃないけど、はぁーやろうか」


稀莉「はいはい読むわ。問題、ずっと行きたいと思ってたレストランが満席で入るまで1時間待ちです。あなたは相手に何て言いますか? ①予約しとけばよかったねー ②仕方がないよ ③せっかく来たのに! ④どうしようか?」


奏絵「うーん、1時間待ちはきついね。でも私は②かな」

稀莉「私は①で。さすがにそんなに待つのは辛いわ。たぶん別の店に行く」

奏絵「どんな意味が隠されているんだろうー」


稀莉「この心理テストでは、相手と10年後どうなってるかがわかります」

奏絵「げっ」


稀莉「選んでない『③せっかく来たのに!』は円満カップルになっているでしょう。『④どうしようか?』は腐れ縁カップルになっているだって」

奏絵「待って、③,④が良さげな回答ってことは①,②が怖い!」

稀莉「じゃあ私の①『予約しとけばよかったねー』は、ケンカしながらも一緒にいるでしょう、だって! やったわ。なになに、ケンカしながらも本音を言い合えるカップルになるはずですって」

奏絵「喧嘩はするけど、本音を言い合えるカップルかー。案外一番いい回答かもね」

稀莉「で、よしおかんの選んだ②『仕方がないよ』は……読むの辞めましょう」

奏絵「え? そう言われると気になる」

稀莉「……読むわ。②を選んだあなたは、別れている可能性が大きいです」

奏絵「え?」

稀莉「あなたは自分の感情を押さえ込むタイプです」

奏絵「ぐっ」

稀莉「そうやって何も言わないと二人の距離は広がっていくでしょう」

奏絵「うっ」

稀莉「別れたくなければ、本音を言えるように意識しましょう」

奏絵「……心にしっかりと刻みます」

稀莉「でもそういうところあるわよね、よしおかんは。ちゃんと話しなさいよ?」

奏絵「善処します……」


稀莉「これで終わりはしまらないから次の心理テストするわ」

奏絵「同意。私が読むね。問題、半身浴のおともに欲しいアイテムはどれですか?

 ①発汗効果のある入浴剤 ②良い匂いのアロマキャンドル ③フルーツ入りのデトックスウォーター ④冷たいアイス」


稀莉「私は本当に持ってきそうなもので②のアロマキャンドルで」

奏絵「私は③のフルーツ入りデトックスウォーターで」


奏絵「げげげ、この心理テストで、あなたの欲求不満の原因がわかります」

稀莉「欲求不満」

奏絵「①の入浴剤は「恋愛がうまくいっていない」、④のアイスは「これといった趣味がないこと」が欲求不満の原因となっています、だって」

稀莉「私から聞きたいわ」

奏絵「わかった、②『アロマキャンドル』は仕事が忙しすぎることが欲求不満の原因です。仕事することは苦ではないけど、自分の時間が取れないほど仕事が忙しい時にあなたは欲求不満になりますだって」

稀莉「仕事は苦じゃないから。もっとください!」

奏絵「この仕事は忙しいことが精神安定でもあるからね……」

稀莉「忙しいことは悪いことではないわ」


奏絵「じゃあ終わろう」

稀莉「③は?」

奏絵「終わろう」

稀莉「読め」

奏絵「はい。③の『デトックスウォーター』を選んだあなたは」

稀莉「あなたは?」

奏絵「……性欲がたまっていることが欲求不満の原因です」

稀莉「ぶはっ、せいよく(笑)」

奏絵「構ってほしい、満たされたいと思っています。やめ、私が欲求不満女みたいじゃん!」

稀莉「そうなんでしょ?」

奏絵「違うって!」

稀莉「よしおかんは欲求不満……」

奏絵「やめろ、SNSに悪意ある感じで書かれる!」

稀莉「汗を流すと気が紛れるので、運動をしたり、ストレッチをしたり体を動かす機会を増やすといくらか欲求不満が和らぎそうです、だって」

奏絵「本当に違うからね!?」


稀莉「あはは、心理テストは面白いわね。今度はタロット占いをしてみたいわ」

奏絵「占いはもうこりごり!」

***

 ラジオの収録が終わり、一緒に帰る中隣の彼女が尋ねる。


「欲求不満なの奏絵?」

「……黙秘権を主張します」


 稀莉ちゃんは悪戯に笑う。


「温泉でのこともあったわね~」

「思い出させないで! 本当に欲求不満みたいじゃん!」

「私のこともそう見てくれるのね、嬉しい」

「嬉しがらないで!」


 草津の温泉エピソードで寸止めされたので、欲求不満と言われると自身でもそう思ってしまいそうで怖い。でも稀莉ちゃんからこんな話されるのも何だか変わったな~とも思う。

 そう思い、横を見ると彼女はいなく、後ろを振り向く。

 彼女はそこに立ち止まって、私に優しい声で話しかけた。


「緊張しているの? 柄にもなく」


 ラジオのことではなく、別のことを見抜かれている。緊張しているのはこれからのことだ。


「ライブは緊張するよね、するよ。いつもバクバクなんだよ」

「私といるより?」

「それとは種類が違う。今度のライブも大事だと思うけど、その先のことを考えちゃうよね。まずは目の前のことなのに、未来のことばかり考えちゃっている」


 武道館という単語にワクワクもするが、それでもやっぱり重いなーと思う。そこに両親を呼び、今度こそは認めさせると決断したこともまた目の前のことに集中できない原因だ。ふわふわしていて、緊張しているとはちょっとちがう気がする。身が入らないとでも言えばいいだろうか。

 そんな私に彼女は言うのだ。


「武道館じゃなくても何処だっていいのよ。もちろん武道館は特別だけど、今度のライブはもうそこでしか見ることはできないの」


 稀莉ちゃんの言う通りだ。そこでのライブは一度しかできない。やり直しはできないのだ。同じセトリはなく、同じお客さんはいない。


「今回は関係者席に座るの。唯奈も梢もくるらしいわ。安心だよ、余計な心配しなくていい」

「サプライズはないんだね。それは安心だよ」

「してほしいの?」


 首を横に振って返答する。もう十分に力は貰ったさ。


「私の、今の私の精一杯を出すから」

「そうやって気負わない。いつも通りでいいのよ」


 優しく抱き着かれた体は温かい。彼女の耳の側で「うん」と頷きながら言い、「くすぐったい!」とちょっとだけ怒られた。

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