第30章 空さえ色褪せて④
***
稀莉「いよいよ、イベントは来週よ!」
奏絵「お昼と夕方の部の2部制ですが、チケットは両部とも無事完売とのことです。本当にありがとう!」
稀莉「ちゃんと売れてよかったわね。九州にもこれっきりリスナーがちゃんといたのね」
奏絵「そうだねー。ちゃんと全国に届いているんだ。……全国に私たちの恥ずかしいやり取りが届いちゃっているのか」
稀莉「私は全然恥ずかしくない」
奏絵「少しは恥ずかしがろう。ともかく嬉しいね!九州以外の方以外も東京や大阪、東北や北海道、それにもしかしたら海外から訪れる方もいるかもしれません。皆さん、ぜひお気を付けて、そして福岡を、九州を満喫してくださいね~」
稀莉「はい、そんな九州の民からお便りが届いているわ。ラジオネーム、通らないもん!さんから。『稀莉様、よしおかん、こんばんはー』」
奏絵「こんばんは!」
稀莉「『福岡に住んで18年。ライブのツアーでたまに声優さんが来てくれるものの、ラジオイベントとなると福岡で行われることは少なく、東京の人が羨ましい日々でした。でもでも、今回は福岡に僕の地元に来てくれるということでとっても嬉しいです!放送を聞いても信じられず、配信を何度も聞いてしまいました。夢じゃない!初めてのラジオイベントで、ワクワクが止まりません。ただ不安もあって、ラジオイベントをどう楽しんだらよいか、いったい何を持っていけばよいのかわかりません。これっきりラジオのイベントを楽しむために何が必要かアドバイスをください。暑い日が続きますが、ご体調に気を付け、九州をぜひ満喫してください。ばり楽しみばい!』」
奏絵「通らないもん!さんありがとう。嬉しいお便りだよー」
稀莉「最後の方言のイントネーションあっている?」
奏絵「たぶんあっているよ。博多弁って最高に可愛いよね。女の子の可愛さ100割増しだよね」
稀莉「インフレしすぎ!そんなにいいもの?」
奏絵「いいもんだよ!え、植島さん、博多に行く前にちゃんと知っておこうって」
稀莉「博多弁講座ってことね」
奏絵「私もそんな詳しくないけど、例えば「やけん」「ちゃん」「とうよ」が語尾につくんだよ。イントネーションも面白くてね~」
稀莉「なるほど、語尾だけでも確かにぐっとくるわね」
奏絵「私も東北だから方言女子のはずだけど、あまり評判はよくない……。博多羨ましい!」
稀莉「どれどれ、『ばり助かったばい?』」
奏絵「ばりって、『とっても』、『めっちゃっ』て意味だよ。ラーメンの替え玉のバリカタだね」
稀莉「バリカタ?そもそも替え玉って何よ」
奏絵「替え玉を知らないだと?」
稀莉「受験を替わりににうけること?」
奏絵「あー、それも替え玉か。簡単にいえばラーメンの麺の追加注文だよ。……何で替えるなんだろう?麺を交換しているわけじゃないし、むしろ追加じゃん!」
稀莉「私に聞かれても。構成作家がさらに方言を出してきたわ。じゃあお互いに呼んでいきましょう」
奏絵「好きばい」
稀莉「ばい、だとそんなには来ないわね」
奏絵「じゃあ稀莉ちゃんこれ言ってよ」
稀莉「好いとうと?」
奏絵「やばい、リスナーに映像をお届けできないのが申し訳ない。小首を傾げながら言うの、ばりかわいい」
稀莉「好きやけん。お嫁さんにしてくれると?」
奏絵「待って、勢いでOKしそう」
稀莉「好きって言っとーと」
奏絵「待って、直視できないぐらいにカワイイ……」
稀莉「いいわね、博多弁はよい武器になるわ」
奏絵「よからぬ武器を与えてしまったな……」
稀莉「イベントは博多弁でお届けしない?」
奏絵「今からそんな時間ない!カンペで全部書いても、たどたどしくて、絶対時間通り終わらないと思う」
稀莉「でもこれはビジネスチャンスね。方言ものとかゼッタイ売れると思うんだけど」
奏絵「何番煎じだよ。そうそう、『通らないもん!』さんの質問答えないと」
稀莉「え、イベント来るのに何か準備がいるかって?今回ライブはないし、ペンライトはとりあえずいらないわ。暑いからタオル、飲み物、それに団扇や塩飴も持っているといいんじゃないかしら」
奏絵「特別必要なものはないかなー。睡眠ばっちりで元気な状態で来てください~。あとチケットは絶対に忘れずに!」
稀莉「特に飛行機や新幹線で来る人は必ずチェックするのよ。戻れないんだから」
奏絵「会場に来てチケットなかったら悲惨すぎる。現地でチケット発券した方が安心なのかな?でも指定のコンビニがなかったら」
稀莉「はい、考えていたらキリがありません~。気楽に、でもチケットだけは絶対に忘れずにきてください」
奏絵「楽しんでね!私たちも楽しむよ!」
***
ラジオ収録後の机にはグッズが並ぶ。
アクリルチャームに、トートバッグ。今回はパンフレットもつくったとのことで、定番のTシャツはないがかなり気合が入っている。
「早いなー、来週なんですね」
「不安かい?」
植島さんに問われるが、イベント自体に不安はない。首を横に振り、
「不安はありません。すっごく楽しみなんですよ」
と明るく答える。
「聞いてくださいー、衣装も二人で選びにいったんですよ」
「結局レンタルだけどね。でもとっても可愛いの選んだから、イベント会場はいつもの3倍カメラ呼んでおきなさい。色々な角度でばっちり残しておくのよ」
「はは、気合が入っているのはいいことだ」
表情は変わらないが、植島さんも嬉しそうだ。
スタッフもイベント会場に行き、一緒にイベントをつくってくれる。ありがたいことだ。ついでに「長崎行く!」ってスタッフもいれば、「野球をみていく」、「ともかく食べる」と皆、観光気分だ。私たちは一拍だがそれでも自由な時間は多い。九州の他の県にはいけないだろうけど、福岡駅周辺は十分に満喫できるだろう。
女性スタッフと九州食べ物トークをする稀莉ちゃんも楽しそうだ。つい先日泣いていた女の子とは思えない。
「……」
時が解決してくれる、なんてことはない。
それでも、イベントで私たちは色んな変化が起きてきた。とんでもない化学変化が何度も起こった。
今回も何かが起きる、そんな予感を信じて、
「最高のイベントにしましょう」
そう言った私の言葉に、皆、微笑んで賛同した。
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