第29章 シアワセのカタチ④

***

稀莉「アフレコのガヤって困らない?」

奏絵「私は好きだけど。あーリスナーさん、ガヤっていうのはその他大勢のキャラ、街の人、モブ、一般の人、環境音とでも言えばいいかな?そんな感じです。わざわざガヤ用に声優さんは用意せず、アフレコのラストにキャラを演じた人をそのまま複数人集めて、録ることが多いです」

稀莉「自由に喋っていいって言われると困る。せめてアドリブならキャラになりきって言えるけど、急に一般モブになれっていわれても難しいわ。結局あー、わー、きゃーしか言えない」

奏絵「適当に喋ればいいんだよ。モブというより素を出す感じ?お腹空いたー、この後何処か行こうぜ?、あついーとか」

稀莉「そんなものなの?」

奏絵「深くは考えない。どうせ台詞は拾われない、使われてもほぼ聞こえないから自由にやっていいんだよ」

稀莉「けど、たまにすごくガヤ上手い人いるわよね。思わず笑っちゃう」

奏絵「いるいる。めっちゃキャラつくってくるよね。モブ同士で掛け合いしちゃう人もいるしさ。そうそう、こないだアイドルアニメの観客のガヤを入れたんだけど、『きゃああああああ、〇〇さんんんん』と崩れ落ちるオタクの真似している声優さんがいて、周りの皆が大爆笑で、録り直したことがあったよ」

稀莉「でも、そういうの和むわよね。羨ましいわ」

奏絵「真面目にやったらできないよね。いい意味で肩の力を抜いているからできるんだと思う」

稀莉「ガヤといえば、前に動物のガヤを皆で入れたのだけど、全然うまくいかなくてね」

奏絵「あー、動物は動物で難しいよね。リアルでいけばいいのか、ギャグでいけばいいのか迷う」

稀莉「そのアニメも結局収録したガヤを使わず、別の音源を使ったみたい」

奏絵「それは悔しいね。でも普通に喋る動物もいるし、難しいな……」


奏絵「動物といえば、最近動物を飼う声優さん多くない?」

稀莉「そうね、確かに最近よく聞くわ」

奏絵「私のまわりでも2,3人飼い始めてね、特に猫が多いんだよ」

稀莉「皆、寂しいのよ」

奏絵「そうなのかな~、確かにペットには癒されるけど。もしかして稀莉ちゃんも寂しい?」

稀莉「アラサーのよしおかんほど寂しくないわ」

奏絵「はいはい、不仲。新山梢ちゃんも最近猫を飼いだしたんだよ。こないだ動画見せてもらって、まだこんなにちっちゃくて可愛くてね」

稀莉「いいわね。私も大滝咲良さんにこないだ同じ現場だった時見せてもらったわ。ずっと猫を飼っているらしいわね。今2匹目って」

奏絵「さくらんは猫大好きだよね~。猫グッズもよく持っているよ」


稀莉「定番なのは、犬と猫飼うならどっち論争」

奏絵「あーあるあるだね」

稀莉「いざ考えると迷うわね」

奏絵「私は犬かなー。ゴールデンレトリバーのような大型犬がいい。でも柴犬もいいなー」

稀莉「私は猫かしら。クールな感じがいいの」

奏絵「犬よりはべったりな感じじゃなくて、自由奔放なイメージだよね。そこもまたいい」

稀莉「うーん、でもペットを飼うのは当分無理ね。この仕事しているとなかなか時間ないし、責任を持つには覚悟が足りない。実家でも誰かしら家にいないといけないし」

奏絵「そうだよね。皆よく飼うよね~。仕事が不定期過ぎて、ちゃんとペットに構ってあげられなそうでやっぱり飼う決心はつかないなー。自分のことで精いっぱいだよ。一人暮らしならなおさら無理だよね」

稀莉「一人じゃないのよ、きっと」

奏絵「稀莉ちゃん!?」

稀莉「誰かと住んでいるのよ。ペットを飼いだした女性声優は誰かと住んでいる。察してください」

奏絵「おいおい余計なこと言うな!実家かもしれないでしょ!もしくは姉妹で住んでいるとか。いやいや、一人でもきちんとした人なら全然問題ないから!違う、違うから、そんな統計出ていないから!」

稀莉「必死に否定するってことは、周りにそういう人が多いってことです」

奏絵「違う!も、そうだよ!もどっちも肯定になりそうで嫌なんだけど!」


稀莉「え、そろそろトーク終わり?」

奏絵「ああ、今日もコーナーをせずに終わった。それにおたよりも読めなかったよ」

稀莉「おたよりはオマケコーナーで読みます」

奏絵「そんなのないよ!?」

稀莉「そう言っとけばおたより減らないでしょ」

奏絵「それは詐欺だよ!?」

***


「暗いね二人とも。梅雨だからかい?」


 ラジオのトークは順調だったが、先日の両親が家に来た時のことを引きずり、私と稀莉ちゃんのテンションはあがらない。


「すみません、色々とあって……」

「二人とも?」


 二人とも?と言われるとそうなのだが、「そうです、二人ともなんです!」とは言いづらい。植島さんは不思議がるが、あまり気にせず、話を進める。


「まぁいいや。この話を聞けば君らのテンションもあがるはずだ。これっきりラジオのイベントが決まったよ」

「え」

「本当ですか!?」


 否が応でもテンションがあがる。

 久々のラジオイベントだ!


「急に決まりましたね」

「あぁ、別番組で会場をおさえていたんだが中止になってね、そこに滑り込んだ。8月頭だ」

「早い!」

「すぐじゃないですか!」

「うむ、グッズは急ピッチでつくる必要があるが、それでもやる価値はあるだろ?」


 もう7月になるので、1カ月ぐらいでイベントだ。慣れっこだが、毎度急に決まる。


「そりゃ嬉しいですが」

「突然のことで混乱しているわ」


 心が準備する前に決まるから、慌ててしまう。

 ……こないだの両親も急に娘に打ち明けられて、そうだったのだろうか。いや、今は違う。もっと喜ぼう。


「で、場所は何処なんですか?」

「博多だ」

「福岡!?」

「九州に上陸!?」


 今まで東京ばかりだったから、意外なチョイスに驚く。

 なかなか冒険に出たものだ。はたして福岡で人は集まるのだろうか。移動の時間もかかる。今から早めにスケジュールをおさえないと。本当に急だ。

 でもラジオのイベントができなら、どこだって、いつだって嬉しい。


「博多でのイベント楽しみだね」

「うん!」


 稀莉ちゃんに、純粋な笑顔が久々に戻った気がした。

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