第27章 直線系グラデーション⑥

 私は、あの日光を見た。

 その光は、私に色を与えた。


 再びみつけた光は、色を失っていた。

 だから、私は色を分けてあげたんだ。彼女がまた輝けるようにと。


 彼女はまた色づき、光輝いた。

 でもその光はあまりに眩しすぎて、私は見えなくなってしまった。

 自分の色がわからなくなってしまった。


 そしたら、今度は彼女が色を分けてくれた。

 それは魔法のように私に力をくれた。

 

 私はまた走った。

 諦めそうになるも挫けず、耐え、そしてまた出会った。

 彼女の手を今度は離さないようにとしっかりと掴んだ。

 

 私たちは色を分け合い、互いに染まり、混ざり合う。

 そして私たちの色ができあがる。

 これからどんな色になっていくのか。それは、私も彼女もわからない。


 でも、きっと素敵な色なんだと思う。


 × × ×

 アスファルトを力強く蹴る。


「もう、こんな時間!」


 早くお家に帰りたいと思うなんて、可笑しい。

 門限は事実上撤廃されたが、遅れて帰るつもりなどない。

 今は、少しでも早く帰りたい。

 週1回は実家に帰るように両親に言われたり、寝る部屋も別々だったり、メイドの監視もあったりと、私が望んでいた同棲とは違う。 

 それでも、彼女と一緒にいられるだけで私は嬉しい。


 この1年は本当に辛かった。

 けど、この辛い1年があったから、私は強くなれ、彼女への想いを再確認できた。


 彼女は憧れだった。

 彼女は売れない声優だった。

 彼女はラジオの相方だった。

 彼女はアーティストとなった。

 彼女はライバルと変わった。

 彼女はやっぱり憧れだった。

  

 そして彼女は、私の初めての彼女で、きっと最後の彼女。

 彼女無しの人生なんて考えられない。


 着いた。

 汗を拭き、手鏡で少し乱れた髪を整える。


「ふぅ……」


 そしてひとつ深呼吸。

 でも、落ち着かず、顔はついついにやけてしまう。

 扉を開けると、幸せが待っていた。


「ただいまー」

「おかえり稀莉ちゃん」


 家に帰ると、奏絵がいる。

 当然のようにそこにいる。頬を指でつねってみるがしっかりと痛い。夢みたいな状況だけど、夢じゃない。


「何ぼーっとしているの、稀莉ちゃん?」

「ううん、何でもないわ。晴子は?」

「お得意様がトラブっているからって、部屋にこもって仕事しているよ。Webデザイナーってすごいね。家でもビデオ通話で仕事こなしちゃえるんだね」

「メイドは何でもできちゃうからね」

「何でもはできないよ!?それにメイドは関係ない!」

「で、ご飯は食べたの?その様子じゃ食べてないわよね?」


 いい匂いはするものの、机には何も並べられていない。


「うん、食べてないよ。待っていた」

「ごめん、気をつかわせちゃったわね」

「ううん、いいよ。私が稀莉ちゃんと一緒に食べたかったから。大好きな人と一緒の方が何十倍も美味しいでしょ?」


 顔が熱くなるのを自覚する。

 ……自然とそういうこと言うから、ズルい。


「つくったのは、奏絵じゃないでしょ」

「う、練習するからさ……、というか練習しないとマズイよね。まずはお米をとげるようにならないと」

「それぐらいはできてよ!」

「……ですよねー」


 鍋に火をつけ、用意されたカレーを温める。


「ご飯ぐらいはよそえるよね?」

「さすがにそれぐらいはできるよ」


 そういってお皿にご飯を半分のせ、私に渡す。


「よろしく。うーん、いい匂いだね~」

「お腹空いたわ。早く食べましょう」

「そうだね。話したいこともたくさんあってさ」

「私もあるわよ、今日アフレコでね」


 何気ないやり取りが、愛おしい。

 私と、奏絵でこんな風に過ごせるなんて本当に夢のようだ。


 両親からの3つの条件もある。1年後その条件がクリアできなかったら、問答無用で同棲は解消させられるだろう。

 それに演技だったとはいえ、母からの痛い正論も耳に残っている。

 同棲がバレればファンや仲間から批判されるかもしれない。マネージャーには説明したが、事務所には報告していなく、知られたら事務所NGが出るかもしれない。

 夢のような生活は仮初で、一時の幻だ。いつまで続けられるか、わからない

 それでも、これが私と彼女の選んだ日常で、


「ご飯の度に思うけど、お店で売っていても可笑しくないクオリティだよね」

「奏絵も作れるようになってよね」

「……これは無理じゃないかな」

「できるだけ諦めない。はいはい、早く食べるわよ」

「じゃあ、せーので」

「イベントじゃないのよ?」

「職業病ですかね~。ともかく食べよう」

「わかったわ。せーの」


「「いただきます!」」


 これが私の手に入れたかったものなんだ。

 誰にだってこの幸せは奪わせない、とカレーを食べ、笑顔の奏絵を見ながら思う私なのであった。

                               <第五部 完>

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