第27章 直線系グラデーション⑤

***

稀莉「ゴールデンウィークが終わりました」

奏絵「休んでないので、実感なし!」

稀莉「私は大学休みだったから、多少実感はあったけど」

奏絵「世間が休みだと、逆にこの職業は大変なんだよね。収録はあまりないけど、イベントが多い」

稀莉「仕方ないでしょ、稼ぎ時なんだから」

奏絵「ありがたい忙しさですね」

稀莉「そうね。お休みがありすぎると、逆に不安になる」

奏絵「わかるわかる。ラジオ始める前は暇で暇で、スケジュール帳の空白が嫌すぎて日雇いのバイトもやったりしたな……」

稀莉「へー、どんなバイトしていたの?」

奏絵「日雇いだと、イベント系がほとんどだったかなー。で、ちょうどアニメのイベント、ライブのスタッフバイトで『私、ここで何しているんだろう……』と惨めになって」

稀莉「闇落ちしないで!」

奏絵「同業種のバイトはお勧めしません」

稀莉「でも私はバイトしたことないから、一度はしてみたいかしら」

奏絵「稀莉ちゃんがバイトか~。メイド服姿の稀莉ちゃん見てみたい!」

稀莉「おいしくなーれ、萌え萌え……ってやらないわよ!」

奏絵「そこまで言っておいて!?」

稀莉「声優仕事で暇にならないよう、頑張るわよ」

奏絵「そうですね、そうありたい」


稀莉「スケジュールといえば、あのイベント管理ページ便利よね」

奏絵「あー、私もよく見る。同じ現場になる人見て、あー今こういう仕事しているんだ、あの人と接点あるんだーと調べている」

稀莉「マメね」

奏絵「生き残りに必死だからね。ウィキで出演作見るだけでは、直近の状況わからないから重宝しています」

稀莉「私もよく見るわ」

奏絵「意外」

稀莉「よしおかんのイベントをチェックして、見逃さないようにしている」

奏絵「……マジか」

稀莉「ライブも1回しか行けなかったので、仕事が被らない限り今後どんな小さいイベントでも全部行ってやるわ」

奏絵「嬉しいけど、そう明言しちゃうと私のイベントが稀莉ちゃんファンだらけになりそうで怖い!」

稀莉「大丈夫よ、私以外追い出すから」

奏絵「イベントの意味!お願いだから追い出さないで~!」


稀莉「そういえば、こないだ二人とも空いている日に家具屋さんに行ったわよね」

奏絵「そうそう、行ったね~。あのスウェーデン発祥の家具屋さんに行きました」

稀莉「もう5月なんで、入学入社の時期からはズレている話題ではあるけど」

奏絵「でもでも、いつだって家具屋さんは楽しいよね!買う目的無くても、可愛い家具、お洒落な家具見るとテンション上がっちゃう」

稀莉「よしおかんが1番テンション上がっていたのは、食べ物のところでしょ」

奏絵「それは仕方ないよね。だってソフトクリーム、ホットドッグが格安!ワンコインであの美味しさはズルいよ!」

稀莉「驚きの安さではあったわ」

奏絵「それに稀莉ちゃんだってテンション上がっていたよね。『よしおかん、来て来て、このソファーすごくふかふか!』」

稀莉「声真似して言わないー!……確かにテンション上がっていたわ。認める」

奏絵「やけに素直。あの広さも凄いよね」

稀莉「そうね。一種のテーマパークよね。かなりの時間いた気がする」

奏絵「でも広すぎて、たくさん種類があると悩むよね。結局見て、食べて終わっちゃった」

稀莉「買いすぎても大変よ。都内とはいえ、車で来る場所だわ」

奏絵「車かー。東京にいたら必要ないけど、こういう時便利だよね」

稀莉「そうね。よしおかん、免許持っているものね」

奏絵「青森で生きていくには必要だからね。といっても、とったのは大学の時だったけど。しかしお金の問題でほとんど使っていないね。駐車場代や、税金考えると余計な出費になっちゃうよな……。そもそも車買えないけど。東京は電車が便利すぎる。免許はほぼ身分証明のためだね」

稀莉「そうそう、免許証の写真って、写真写り悪くなるって本当?」

奏絵「あー、本当本当。真正面で撮るからかな。明るさの問題もあるかも」

稀莉「さぁ、ここでよしおかんの免許証を見てみましょう」

奏絵「へ?い、いつのまに私のバッグを!?」

稀莉「あった、あった」

奏絵「見ないで~!そしてラジオでは全然伝わらない!」

稀莉「番組SNSに」

奏絵「絶対にダメ!!」

***


 ラジオ収録後、構成作家の植島さんと、私たちで今日の反省会だ。


「今日も良かったね。面白かった」

「ありがとうございます」

「聞いてくれる人も、おたよりも1年前と同じぐらいに戻ってきている。いや、微増しているかな。新規リスナーもけっこういるようだ」

「嬉しいわね」


 うん、いつも通りやれただろう。

 関係も、環境も変わったけど、ラジオの空気はいつも通りお届け。

 なるべく嘘はつかないようにしながらも、本当のことは隠している。


 実際には、アプリ、サイトに頼って互いのイベント情報を調べるのではなく、Webで互いのスケジュールを時間単位で共有している。二人が空いているところは逃さず、出かける、一緒にいられるようにしている。家でも会えるが、大学や仕事で一緒にいられる時間は少なく、すれ違いがちなので、小まめにお互いの情報を共有しているのだ。

 それに家具屋に行ったのだって、新生活のためだ。だいたいの家具はお互いの家から持ってきたが、それでも足らないものは足らない。せっかくの同棲(仮)だから、ついついこだわりがち。色、形から、細部にいたり、お互いの趣味が見えてくる。同棲しなかったら見えてこなかった部分だ。

 今は、彼女のことをどんどん知っていくのが楽しい。願わくば、それが嫌にならず、ずっと続けばいいと思う。


「あのさ、二人って一緒に住んでいるのかい?」

「ぶはっ」

「ふへ?」


 私たちの対面に座る、植島さんが急にぶっこんできた。


「そそそそそそそそそんなわけないじゃないですか」

「そっそっそそうよ」

「いやさ、急に家具屋の話をし出したからさ、一緒に住み始めたのかと」

「ま、まさかー」

「さすがにそれはないわね。ないわ、よしおかんと同棲とかないわ。料理スキルゼロの人と一緒に住むなんて、ありえないわ」

「行ったのはたまたまですよ。植島さんだって行きますよね?」

「広すぎて疲れるからいかない」

「今は女子同士で行くのが流行っているのよ!」


 必死に否定するも、植島さんは「そうなのかなー?」と腑に落ちない様子だ。

 いつも通り、いつも通りだったはずだ。何故、何故だ。


「それに2人の距離近くない?」


 慌てて離れる。

 他の人に言われて、自覚する。確かに近かった。ナチュラルに密着していた。危ない、危なすぎる。

 隣の女の子も顔を真っ赤にしている。 

 私たちは、隠しきれるのだろうか?


「仲がよろしいようで。で、次の夏のイベントの話だけど」


 ……まぁ、バレたらバレたで、その時で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る