第26章 宛名のない物語⑤
奏絵「さて、お送りしてきました、『吉岡奏絵と佐久間稀莉のこれっきりラジオ』」
稀莉「そろそろエンディングの時間です」
奏絵「今来たばっかりー」
稀莉「ライブでよく聞くけど、本当その通りであっという間だったわ」
奏絵「今回は、稀莉ちゃん復帰特別回をお届けしました」
稀莉「皆、楽しんでくれたわよね?」
奏絵「稀莉ちゃんがいると番組は全く違うね。やっぱり二人いて、これっきりラジオなんだと思う。一人だと話が弾まないし、ギャグ言っても拾ってくれない。ラジオって、二人組っていいな~と改めて思いました。皆さんも楽しんでくれたら嬉しいです」
稀莉「私も最初はブランクがあって、ラジオって何だっけ?と戸惑ったけど、気づいたらラジオと言うことを気にせず、普通に楽しく話していたわ」
奏絵「気づくと忘れちゃうよね。あれ、これ収録?ってことあるある。自然体に話せたかな」
稀莉「自然にイチャイチャできたわ」
奏絵「自然にイチャイチャ?……どうでしょうか。稀莉ちゃんと話していると楽しいけど、それ以上に思わぬ発言にハラハラ、ドキドキもさせられる。休む暇がない!」
稀莉「これっきりしか味わえない体験よ。毎回毎回の放送が大切なの」
奏絵「毎回毎回か。今はその言葉が重く聞こえるよ」
稀莉「そうね。いつも通りは、実はすっごく難しいことなんだと思います。当たり前、日常、そういったものは簡単に崩れるし、壊れちゃうの。いつも通りにお届けできるって、とても嬉しいことなの」
奏絵「その通りだよ。いつも通り、毎週放送ができるのはたくさんの人のおかげです。皆のおかげでこれっきりラジオは終わらず、二人で続けることができました。改めて、ありがとうございます」
稀莉「私からも、ありがとうございます」
奏絵「これからもいつも通り、だけど特別な30分を毎週お送りしていきますので、リスナーはついてきてください」
稀莉「ついて来てくれるわよ。まだまだまだまだ終わらせないわ!」
奏絵「うん。今日からが3年目のこれっきりラジオです」
稀莉「ここからが伝説の始まりよ!」
奏絵「……伝説にはならなくていいかな」
稀莉「もっと張り切りなさいよ」
奏絵「当分は穏やかに進行しませんか?具体的には2つのコーナーをお休みして……」
稀莉「しませーん」
奏絵「ちぇっ」
稀莉「今年はラジオで何をしていこうかしら」
奏絵「番組イベントしたい」
稀莉「イベントはもちろんよ」
奏絵「今回は、地方でイベントしてみたいな。日本中をまわってみたい」
稀莉「それなら二人の旅行の様子を収録して販売するのもいいわね。よしおかんと旅行したい」
奏絵「旅行か。最近行けてないな~」
稀莉「仙台遠征、日帰り温泉、大阪ライブ、福岡ライブ」
奏絵「あ、あれは、それらは旅行じゃないから!」
稀莉「私こそ、仕事以外で行けてないわ。思い返すと、あの夏の日とあの冬の日以来行けてないんですけど」
奏絵「あの日と、あの日がすぐに思い浮かんでしまう私が怖い……」
稀莉「周りが卒業旅行いってて、写真がたくさん送られてきたから羨ましくて、羨ましくて……」
奏絵「あー、そういう時期だったよね。この仕事しているとなかなかに難しい話だけど」
稀莉「ね。だから仕事として旅行いっちゃえば何も問題ないのよ。あくまで仕事」
奏絵「構成作家が渋い顔をしている」
稀莉「なによ、もっと製作費出しなさいよ!」
奏絵「それはこの番組の人気次第ですかね」
稀莉「新グッズも出したいわ」
奏絵「イベントやるなら、新グッズたくさん出したいね。Tシャツは何枚あっても嬉しい」
稀莉「普段使いしているの?」
奏絵「むしろしてないの……?」
稀莉「この番組ならではの、グッズもつくりたいわ」
奏絵「できたら使えるのがいいな」
稀莉「紅茶、ブランケット」
奏絵「そういう視点もいいね」
稀莉「よしおかんの匂いの香水、石鹸」
奏絵「そういう視点はよくないね!?」
稀莉「もう1つ、今年、絶対にやりたいことがあります」
奏絵「絶対?」
稀莉「それは歌うことです。よしおかんと番組テーマソングをきちんと歌いたい」
奏絵「稀莉ちゃん……」
稀莉「ううん、新たに曲をつくるのもいいわ。ともかく歌いたいの。このラジオのために歌いたい」
奏絵「うん、歌おう。歌おうよ」
稀莉「でも歌じゃなくてもいいわ。声でも、笑顔でも、何でもいい。皆の力になれたら嬉しいなって思っているの」
奏絵「うん、うん」
稀莉「たくさんご迷惑をおかけしました。だから、ちょっとずつでもスタッフや、ファンの皆さんに返していきたい。私にくれた応援を、力を今度は私が返していく」
奏絵「私も協力する。私もリスナーの皆さんのために、これからも頑張ります。これからの二人を応援してくれると嬉しいです。後悔はさせません、絶対に」
稀莉「そんな感じで今日は綺麗に終わりましょう!」
奏絵「いつもは汚いみたいな言い方しないー!」
稀莉「お金には汚いでしょ?」
奏絵「それは否定しない」
稀莉「はいはい、終わるわよ」
奏絵「ここまでのお相手は、吉岡奏絵と」
稀莉「吉岡稀莉でした」
奏絵「稀莉ちゃん違うよ!?苗字変わるイベントは起こってないよ!?」
稀莉「これっきりじゃなーい!」
奏絵「勝手に締めない!あー、これっきりじゃっ」
~ジングル~
× × ×
「この終わり方は、切り方はひどくない!?」
抗議するも、ラジオの相方は「あはは」とお腹を抱えて、笑いっぱなしだ。
でも、怒る気持ちはない。彼女の笑顔が見られたら、それだけで良い。
また、私の日常が始まるのだ。
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