第26章 宛名のない物語④

奏絵「ラジオの収録ってこんなにしんどかったっけ?」

稀莉「はい、次のコーナーいくわよ」


稀莉「稀莉ちゃんの願い、かなえたい!」


奏絵「げ」

稀莉「このコーナーは、私、佐久間稀莉が吉岡奏絵と結ばれるためのアイデアを、リスナーさんにプレゼンしてもらう企画です。今まで、『愛してるよゲーム』をしたり、ダミヘ使って囁いたりしてきました。今日はどんな企画に挑戦するのかしら、楽しみですね」

奏絵「な、なんでこのコーナーは残っているのさ!新コーナーつくるなら、このコーナーを代わりに潰してよ!」

稀莉「おたよりが1番来るから潰せるわけないですよね」

奏絵「くそー、リスナーめ……」

稀莉「それはそうと、私がいない間にこのコーナーを『よしおかんの願い、かなえたいー』と勝手に変えて、実施したそうね」

奏絵「ぎく。な、何のことかな、稀莉ちゃん?」

稀莉「とぼけても無駄よ。ちゃんと音源はスタッフからもらっているんだから」

奏絵「くそー、スタッフめ……」

稀莉「でも大したおたよりは来てなかったら良かったかしら。炭酸水飲み比べに、水族館デートをしてほしいとかだったわよね。炭酸水飲み比べて、どうやって仲良くなるのかしら?」

奏絵「さ、さあ?」

稀莉「え、なになに植島さん。自然と飲みまわしして、間接キスできる?な、なるほど!天才かしら!」

奏絵「や、やらん!やらんぞ!」

稀莉「それはともかく、受験生イチャイチャ寸劇が見たいというおたよりで、一人二役を演じていたわよね、よしおかんさん」

奏絵「なんのことでしょう?」

稀莉「だから、とぼけたって無駄よ。何なの、私の声真似?私、あんな媚びた高い声じゃないんだけど?よしおかんにはああいう風に聞こえているってわけ?」

奏絵「すっ」

稀莉「急に視界から消えて、土下座しようとしないで!?」

奏絵「ごめん。代わりに私の声真似してもいいから」

稀莉「しないわよ!?」


奏絵「仕方ないけど、不本意だけど、やっていきましょうか」

稀莉「今日の企画はよしおかんも嫌じゃないと思う」


奏絵「わかったよ。読むよ。ラジオネーム『洗浄のピアニッシモ』さんから。『今年のバレンタインデー、ホワイトデーのお話がなかったので、二人でお菓子交換してほしいです』」


稀莉「2月、3月とそれどころじゃなかったものね」

奏絵「だねー。というわけで、今日は2人で渡す用のスイーツを各々買ってきました」

稀莉「どんなものが貰えるか、楽しみだわ。だって2回分だもの。量も愛も2倍のはずだわ」

奏絵「うわ~、渡しづらい……。それにリスナーさんも音声だけだとわかりづらいよ、この企画」

稀莉「あとで写真をSNSにあげるわ。今は想像しなさい」

奏絵「前回のホワイトデーの時さ、お菓子のお返しの意味を教えられたから、今回買ってくるの慎重だったよ」

稀莉「前回はよしおかんからマカロンを貰ったわ、ふふ」

奏絵「クッキーだと『あなたは友達』でバッドエンドだったよね。本当に怖い」

稀莉「じゃあ、せーので出しましょうか」

奏絵「わかったよ」


稀莉・奏絵「「せーの」」


稀莉「おおお」

奏絵「かわいいー」


奏絵「まずは稀莉ちゃんのものから説明してもらおうか」

稀莉「私が買ってきたのは、カップケーキよ!」

奏絵「凄い!可愛い!はりねずみや、パンダ、猫のケーキだ!」

稀莉「このお花模様と、ハートマークのカップケーキも可愛いでしょ」

奏絵「うん、うん!わ~、入っている箱もお洒落で、10個入りだとカラフルで綺麗だね」

稀莉「でしょ?この小ささもいいの。ケーキを食べるには覚悟がいるけど、カップケーキならお手軽に食べられるわ」

奏絵「カロリーの覚悟はどちらにせよ、あるけどね。でもこれならフォークを使わずに食べられていいね。せっかくなので、ここで1個食べてもいい?」

稀莉「もちろん。よしおかんのために買ってきたのだから」

奏絵「ありがとう。どれにしようかな。可愛くて悩んじゃうな。というか、可愛すぎて、動物系食べづらい。可愛いのも罪」

稀莉「なら、ハートか、お花模様ね」

奏絵「う~、じゃあハート食べます。稀莉ちゃんも1個どうぞ」

稀莉「ありがとう。一度食べたことあったけど、私も食べたかったの」

奏絵「う~ん、美味しい。甘い。けど、くどくない甘さ」

稀莉「うんうん、美味しいわね。見た目も良いけど、味もいいわ」

奏絵「合格」

稀莉「そういうコーナーじゃないけど」


奏絵「で、カップケーキにはどういう意味があるの?」

稀莉「……秘密」

奏絵「植島さんからリストが来ました」

稀莉「ちょっと!」

奏絵「えーっと、言うのは止めておきましょうか」

稀莉「調べといて何!?マカロンと同じよ!特別、特別な人!」

奏絵「あー、どうも」

稀莉「反応薄っ!」

奏絵「……恥ずかしくてどう反応したらいいか、わからない」

稀莉「かわいい」

奏絵「かわいい子にかわいいって言われても嬉しくない!」


稀莉「じゃあ、そんなかわいいよしおかんのくれたスイーツを紹介するわ」

奏絵「可愛いって言わない!」

稀莉「これは、バームクーヘンね」

奏絵「そう、ホールタイプのバームクーヘンだよ」

稀莉「大きい。私のカップケーキとは対照に巨大だわ」

奏絵「稀莉ちゃんは数が多かったけど、私は1つでどーん!です」

稀莉「重い、愛が重い」

奏絵「そういうつもりで買ったわけじゃないから!」

稀莉「だって、この厚さよ。一人じゃ食べきれないから」

奏絵「一人で食べなくていいから。事務所や、ご家族と食べて~」

稀莉「やだ。よしおかんの愛は独り占めするから!」

奏絵「それなら、一人で食べてよ!」

稀莉「せっかくだから二人で食べましょう。愛のおすそ分けよ」

奏絵「わかったよ。フォークどうも」

稀莉「じゃあ、いただきます。う~~、甘い。ふわふわだわ」

奏絵「美味しいね。うん、うん。買って良かったよ、これ。美味しい、美味しい」

稀莉「良いチョイスね。コーヒーと一緒に食べたいわ」

奏絵「コーヒー飲めるようになった?」

稀莉「飲めます!もう大学生なんだからブラックも余裕よ!」

奏絵「そういうことにしておこう」


稀莉「さて、バームクーヘンの意味は?あら、ここにちょうど良いリストが」

奏絵「あ、植島さん回収しといてよ」

稀莉「幸せがいつまでも続きますように」

奏絵「……」

稀莉「幸せが幾重にも重なって大きくなりますように」

奏絵「……」

稀莉「バームクーヘンの層が何重にも重なっている構造から、こういう意味らしいわ」

奏絵「……解説せんでいい!」

稀莉「重い、愛が重い」

奏絵「うぅ、確かにこの大きさは否定できん」

稀莉「ふふ、幸せよ」

奏絵「……ありがと」

稀莉「幸せが長く続きますようにという意味から、バームクーヘンは結婚式の引き出物でよく選ばれるらしいわ」

奏絵「あー、確かに貰ったことあるかも」

稀莉「実質プロポーズね。結婚といっても過言ではないわ」

奏絵「過言すぎるよ!?」


稀莉「楽しかった~。スイーツはいいわね」

奏絵「スイーツはいいけど、意味づけし出すと怖いイベントだよ、ほんと」

稀莉「来年はどんなスイーツが貰えるのかしら」

奏絵「毎年、違うお菓子選ぼうとするとレパートリー被るからね……」

稀莉「同じ種類でもいいわ。気持ちが嬉しいのよ」

奏絵「じゃあ、来年は手作りに挑戦しようかな」

稀莉「気持ちも大事だけど、やっぱり味が大事だと思うわ」

奏絵「言っていること違くない!?」

稀莉「買ってきて!お願いだからつくらないで!買ってきてください!」

奏絵「一度も披露したことないのに、酷評される私の料理スキル……」

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