第26章 宛名のない物語③

稀莉「新コーナーの『これっきりアルバムー』の説明をするわ。このコーナーでは、よしおかん、私が離れ離れになっていた8、9カ月の間で二人にあった出来事をリスナーさんが考えて、送り、その出来事について想像で話します。送る出来事は、嘘でも、本当でも構いません」

奏絵「え?」

稀莉「基本的にノってください。例えば、リスナーから『稀莉さん、空白の期間に宇宙に行ったそうですね』と出来事報告が来ます。そしたら私は、『そうなのよ。火星からトークショーやってくれってオファー来て、ちょっくら行ってきたのよ。あっちから見た地球は綺麗だったわ』と話をつくります。あること、ないことを面白おかしくトークするコーナーです」

奏絵「無茶な!」

稀莉「無茶じゃない。今の例は突飛なものだけど、もう少し現実的な出来事が書いたおたよりがくるはずだわ」

奏絵「あ、箱きた。ここから引けって?え、こんなにおたより来ているの?ラジオで告知した覚えないんだけど」

稀莉「SNSで告知してたわよ」

奏絵「ドタバタでSNSまでチェックしていないよ。スタッフめ……」

稀莉「面白そうなコーナーでしょ。これのおかげで私たちの空白の時間もしっかり埋まるわ」

奏絵「埋まるのかなー」


稀莉「はい、さっそく始めるわよ。ラジオネーム『うどんはおやつ』さんから。『SNSで見ましたが、吉岡さん、佐賀まで行ったそうですね。どうでしたか?』」


奏絵「え、これにノルの?あー、そうそう。福岡ライブの帰りに佐賀に寄ったんですよ!えーっと、カステラ、違う、ちゃんぽんも違って、そう!佐賀牛食べました。あとは遺跡を観に行ってですね、うん。ムズッ!」


稀莉「下手」

奏絵「いやいや、だって佐賀に行ったって、微妙にありえそうで、逆に難しい。それにご当地知識がないと全く話せない」

稀莉「ギター持って佐賀の歌を歌う人が駅前にいた、ゾンビがアイドルしていた、有名なフィギュア選手が街中歩いていたとでも言えばいいのよ」

奏絵「その情報どこから!?」

稀莉「仕方ないわね。私がお手本見せてあげるわ。おたよりよろしく」


奏絵「了解。ラジオネーム『トッティ・ツッティー』さんから。『うわさに聞いたのですが、稀莉ちゃんがラジオ休止期間中に髪を短くしたのって、失恋の影響らしいですね』」


稀莉「そうなの。ずっと好きな人がいたのだけど、色々な事情があって離れ離れになってしまって。めそめそした自分とサヨナラをするために、髪を短くしました。といっても、ショートではなく、肩にかかるぐらいで、そこまで切ってないわね。またすぐに伸ばせるかな~と未練はいっぱいなんですよね。長い髪が好きっていってくれたけど、その言葉に甘える私も嫌なの。少し大人になりました。どうかな、似合っているかな?」


奏絵「待って、待って!どこまで本当なの?」

稀莉「それを言ったらつまらないでしょ」

奏絵「失恋?失恋はしてないよね」

稀莉「あなた以外に恋しません」

奏絵「はい!?」

稀莉「心機一転という気持ちもあったけど、本当のところは演じるキャラ合わせです」

奏絵「あー、あるよね。アニメイベントある時は、特に髪型を合わせようと努力する。もうこの歳でツインテールはなかなかにハードル高いけど」

稀莉「アニメ関係者の皆さん、ぜひよしおかんにツインテ役を!」

奏絵「嫌がらせか!」

稀莉「いかついマッチョな役よりはいいでしょ?」

奏絵「それは声も真似できないからね。でも少年はやってみたいかな」

稀莉「よしおかんのショタボイス……、短パンを履いたよしおかん……、アリね……!」

奏絵「勝手に想像して、深く頷かないで!」


稀莉「次読むわよ」

奏絵「おたより多すぎじゃない?新コーナーだよ?」

稀莉「ラジオネーム『あるポン』から」

奏絵「さん付けして!」

稀莉「『よしおかんさん、稀莉ちゃんがいない間に、数々の女性たちと浮気していたそうですね』。どういうことかしらよしおかん?」

奏絵「おたより!あくまでネタだから!」

稀莉「話しなさいよ。話にのりなさいよ」


奏絵「怖い、怖すぎるって!た、確かに浮気と勘違いされそうですが、これっきりラジオに月一でゲストを呼んでいました。唯奈ちゃんに、梢ちゃんに、瑞羽に、ひかりんに、色々な方々が番組に来てくれました。いや~楽しかったですね。でも稀莉ちゃんとこうやって話すのが1番好きです。ほ、本当だよ?」


稀莉「あら、植島さんから資料が」

奏絵「げっ」

稀莉「丁寧に写真をカラー印刷してくれました」

奏絵「あ、え、ぐ」

稀莉「……この写真は何かしら、吉岡さん?」

奏絵「梢ちゃんとラーメンに行ったときの写真で……」

稀莉「これは?」

奏絵「唯奈ちゃんと収録の帰りにタピオカを飲んで……」

稀莉「ん?」

奏絵「それは、瑞羽と日帰り温泉に行ったときの……」

稀莉「はい」

奏絵「ひかりんの家の猫を見せてもらうために、お家にお邪魔して……」


稀莉「数々の女と浮気していたそうですね」

奏絵「そう思われても仕方ないです!ごめんなさい!」

稀莉「優しい私は許してあげます」

奏絵「稀莉ちゃん……」

稀莉「ただ条件があります」

奏絵「ん?」

稀莉「他の女と行った場所は、全部私と一緒に行くこと。ラーメンに、タピオカに、日帰り温泉に、お家にお邪魔するから」

奏絵「この子、重い……」

稀莉「うん?」


奏絵「次、次のおたより読もう!ラジオネーム『かなたはそなた』さんから。『稀莉さま、仙台で修羅場ったそうですね』。って、おいおい」

稀莉「そうそう、あれは冬の日。仙台によしおかんと、唯奈がお忍びデートしていて」

奏絵「ちょっとだけ本当のことを入れるの辞めて!稀莉ちゃんのライブを観に行っただけだから!嘘と本当が入り混じると、嘘も本当のことのように思われちゃうから!」

稀莉「二人が仲良さそうに駅前でしている所を目撃して」

奏絵「もうヤダ、このコーナー!!」

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