第26章 宛名のない物語②

奏絵「えーっと、真面目に語りましょうか。吉岡奏絵、1stライブツアーの感想を」


稀莉「福岡、大阪、東京と大忙しだったわね」

奏絵「ね。2月、3月の記憶はない……。レッスン、仕事、レッスン、仕事、ラジオに、イベントに、イベント。ずっと働いていた気がする」

稀莉「お疲れさま。よく頑張ったわ、よしおかん」

奏絵「ありがとう。おかげでとても素敵な景色が見られました。福岡、大阪の感想はすでにラジオで話したので、今日は主に東京講演の話をしますね」

稀莉「私は東京だけお邪魔したけど、千秋楽はスペシャルすぎたわ」

奏絵「そう、何がスペシャルかというと、曲数が多かったです。全15曲かな?東京では、私が演じた『空飛びの少女』の空音の曲と、それ以外に今の空飛びのオープニングとエンディングを歌わせていただきました」

稀莉「空音の曲以外に、オープニング、エンディングも聞けるなんて夢のような時間だったわ」

奏絵「いや、違うよね。聞いてないよね。むしろ歌ったよね?」

稀莉「うむ……、バッチリ歌ったわ」

奏絵「意味がわからないよね。私のライブなのに。これは、私が受けたサプライズを、説明せざるを得ないですよね……」

稀莉「じゃないと、会場にいなかった人はさっぱりわからないでしょうね」


奏絵「私が説明するの?仕方ないな。アンコールの時に、稀莉ちゃんがサプライズで私の前に登場したんです。アンコールは、スタッフと企画して、ファンへのサプライズとして皆の近くに行きたいと思ったんです。なので、3階から登場し、2階、1階とファンの前で熱唱しました」

稀莉「間近で見られたファンが羨ましい」

奏絵「で、問題が歌い終わった後ですよ。曲が流れる中、ステージに戻ろうと思ったら、私の目の前に人がいたんです。最初はトラブルかと思いました。スタッフさん、しっかりして~とも心の中で言いましたね。でも、止まるわけにはいかず、近づいたんです。近づくと、後ろ姿で察しました。その通路にいた、スポットライトに照らされた人は、稀莉ちゃんだったんですね~」

稀莉「はい、私でしたー」

奏絵「稀莉ちゃんが振り向いて、私に喋ってきたときは今日一番でびっくりしましたよ。ファンにサプライズを仕掛けたはずなのに、逆に私がサプライズをくらうなんて思ってなかったです。本当にびっくりしました。あれって、いつから計画されていたの?」

稀莉「当日」

奏絵「当日なの!?」

稀莉「開演前にロビーうろついていたら、牧野さん、あぁ歌のレッスンの先生ですね、に会って、話しているうちに、盛り上がって、スタッフ呼んで、やっちゃいました」

奏絵「発案は牧野先生だったの!?え、スタッフもノリ良すぎでしょ!」

稀莉「さすがよしおかんのライブを支えるスタッフよね」

奏絵「凄いよ。リハにもないこと、やるなんて。いやはや、やってくれましたね……。まぁ、凄く感謝はしていますよ。いつか皆さんにサプライズ返しをしてやりたいほどに」

稀莉「ちょっと怒っている?」

奏絵「私がどんだけ困惑したと思っているの?」

稀莉「困惑したのは、その後の私よ」

奏絵「うっ、さっきのおたよりの話に戻ってしまう……」

稀莉「そう、サプライズで私と出会ったよしおかんは、突然私をお姫様抱っこし、会場から逃亡。そのまま舞台袖まで誘拐しました」

奏絵「語弊のありすぎる言い方!」

稀莉「でも、間違ってないわよね?」

奏絵「……えぇ、おっしゃる通りです。どうかしていたんです。突然の稀莉ちゃんの登場に思考がめちゃくちゃになりました」

稀莉「その後、私も一緒にステージで2曲歌うなんて、思っていなかったわ」

奏絵「でも、最高でした。一度も合わせて練習してないんですよ?カラオケにすら一緒に行ったことありません。なのに、あの息の合い様。やっぱり私のパートナーは稀莉ちゃんだな~と思いました」

稀莉「よし、この後役所まで行きましょう」

奏絵「行かないよ!?」


奏絵「正直なところ言うと、稀莉ちゃんがライブに来ないのでは、という気持ちもありました。ライブでは楽しく歌っていましたが、内心かなりハラハラしていました。あまり考えないようにしていたのですが、でも自然と目は観客席の稀莉ちゃんの姿を探していました。会えてよかったです。サプライズでも何でも、私をまたみつけてくれた。みつけてくれなかったら、今日の放送もなかったと思います。忘れられない、一生忘れられないライブになりました」

稀莉「私も絶対に忘れられない一日です。実は自分でチケットとって、一般席で見ていたのよ?」

奏絵「え、そうだったの?」

稀莉「お客さんの一人として、あの日みたいに、吉岡奏絵をみつけたかったんです。前にイベントでも話したけど、私が声優を意識するようになったのは、『空飛びの少女』のアニメを見てからです。ドはまりし、番組イベントに行きました。そして、そのイベントで吉岡奏絵を見て、彼女の面白いトークと、凄すぎる歌を聞いて、私も声優になりたいと思いました」

奏絵「うん」

稀莉「私は憧れました。6年以上、だいたい7年ぐらいですかね、そしてまた、私は彼女に憧れました。私も舞台に立つ光になりたい。彼女のように、皆を照らしたい。そうおもえたんです」

奏絵「うん、うん」


稀莉「そうね、番組をお休みしていた理由は言っていませんでしたが、一つは私の実力不足です。歌うことが怖くなったんです」

奏絵「稀莉ちゃん、それは……」

稀莉「ううん、言わせて。私は逃げ出したんです。逃げる場所と時間をつくってくれました。お休みという形で、私は前に進む努力をしました。アプリゲームのグループに所属し、必死に練習しました。おかげでライブで歌えるようにもなりました。ファンも喜んでくれました」

奏絵「私も見たよ。素敵なライブだった」

稀莉「でも、結局は彼女が私を救ってくれたんです。私一人の力ではありません。あの、ラジオイベントの日、前へ向かって走る力をくれました。空飛びのイベントで、高く飛べる力をくれました。そして、東京でのライブ。吉岡奏絵は、私に新しい光をくれました」

奏絵「光……」

稀莉「あー、敵わない。追いつけないと思うこともあります。でも、一緒に立つ光になりたい。負けない光になりたい。憧れは、さらなる憧れとして私を照らしてくれました。新しい目的をくれたんです。改めて、ありがとうと言いたいです。奏絵、ありがとう。あなたのおかげで私はまた声優として頑張っていけます」

奏絵「うぅ、稀莉ちゃん……、ぐすん」

稀莉「……泣いているんじゃないわよ」

奏絵「だって、泣くよ。音声だけで良かったよ。お見せできない顔だよ」

稀莉「なんで、ちょっと笑わせにくるのかしら、この人は。ともかく最高のライブでした。CDも配信もいいけど、吉岡奏絵の曲はライブで聞くべき。聞きなさい。リスナーの皆、次は絶対にライブに来なさい。ディスクや、データでは味わえない、違う景色を見せてくれるわ」

奏絵「ありがとう。そんなにまで言ってくれて嬉しい」

稀莉「で、次のライブはいつなの?何でライブの最後に発表ないの?おかしくない?」

奏絵「えーっと、アルバムを出す予定はあるけど……」

稀莉「じゃあライブをまたやるよね?次は絶対に全通するわ。絶対に」

奏絵「前のめりでぐいぐいくるんだけど……!」


~CM~


奏絵「CMの間で落ち着けました。いやー、湿っぽくなっちゃいましたね。おたよりは全部読ませていただきます。皆、本当にありがとう!ライブについてずっと語れるのだけど、次のコーナーに行きましょうか」

稀莉「はい、じゃあ次のコーナーはこちら」


稀莉「あなたの知らないメモリーを探ろう!これっきりアルバムー!」


奏絵「はい!?」

稀莉「これっきりアルバムー!」

奏絵「何で、私が知らない新コーナーが急に始まるの!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る