第五部
第23章 踏み出した今
第23章 踏み出した今①
奏絵「こんばんは、始まるよ!佐久間稀莉と吉岡奏絵の」
奏絵「これっきりラジオ~!」
奏絵「年が明けました、あけましておめでとうございます!え?2週前の放送で、すでにあけおめって言っているって?」
奏絵「だって、しょうがないじゃん。その時は、まだ12月の録音だったわけだし。時空の流れ的にはここから皆さんと同じ1月です。改めて、あけましておめでとうございます」
奏絵「昨年は色々ありましたね。いやー、色々とありすぎて全部語ったら30分経っちゃいそうです、マジで。というわけで、さっそくお便りのコーナーに行きましょうか」
奏絵「よしおかんに報告だー!」
奏絵「こちらのコーナーでは、私に相談したいことをリスナーが送り、聞いてもらうコーナーです。なお、解決できたことは少ない。あまり過度な期待はしないでください」
奏絵「うん、1人で言うのも慣れましたね」
奏絵「はいはい、いくよ。ラジオネーム『おコタにワロタ』さんから。そこはおコタに怒った!じゃないの!?まぁ、いいや。『えーっと、よしおかん、あけおめです~』。はい、あけおめー!」
奏絵「『今年のおみくじは吉でした。ネタにもならず、何とも言えないです。書いてあることも平凡で、僕は何を信じればいいのでしょうか。2次元?よしおかんは、おみくじ引きましたか?良かったら教えてください。また、おみくじは持って帰る派ですか?結んでいく派ですか?今年も良い年であることを願っています』。はい、ありがとー」
奏絵「おみくじの話か~。年明けっぽい話で、いいね」
奏絵「最近は色々なおみくじがあるよね。鳩みくじだったり、えぞみくじだったり、あい鯛みくじだったり、大阪の恋みくじだったり。ご当地おみくじが流行っているみたいだね。おみくじの多様化というのかな。地域おこしにも貢献しているそうで。書いてあることもいちいち面白いんだよね。アーティストとコラボするなど、工夫もすごい」
奏絵「最近ではアニメのおみくじもあったりするね。行った場所にあると、ついついひいちゃうよね。せっかくなら引こうかな~とまんまと策にハマってしまう」
奏絵「いやいや、おみくじも奥が深い。え、真面目すぎるって?私はいつもまじめですよ?」
奏絵「あー、絵馬も皆、趣向を凝らして描いているよね。アニメの聖地には本当に数が多い。声優さんも行く人が多いね~」
奏絵「ごめんごめん、質問から脱線していたね。えーっと、私がおみくじを引いたかだっけ?今年は引いていません」
奏絵「だって、引くと、どちらにせよ囚われちゃいそうで嫌なんだもん。今年は、少し経ったら行きたいと思ってます。普段は引くんだけどね、今年は特別です。受験期の時でも引いたけどな……。そういう時もあるよね、生きていると」
奏絵「もう一つの質問は、おみくじは持って帰るか、結ぶかだね。大吉だと持ち帰って、凶だと結んで帰る、という説もあるけど、どっちでも良いらしいね。どちらにせよ今後に活かすことが大事!、とのことです」
奏絵「と言いながら、私は結んじゃうことが多いかなー。持って帰ろうとして、閉まっておいたらクチャクチャになったことがあって……。バチが当たりそう。それに、後で捨てるタイミングに悩む。なら、その場で覚えておいて、結んじゃうかな」
奏絵「お財布に入れる人もいるよね。何度も読み返すのかな?私は囚われちゃうのが嫌だから、いや本当、気にしいな人間なんですよ。気にしすぎてしまう、小心者。大物役者に慣れないねー、ははは。……構成作家も一緒に笑うんでない!」
***
「お疲れ様でしたー」
今日も無事に収録が終わった。
2本録りだったが、卒なくこなし、予定時間よりも早く終えることができた。
「今日も良かったよ」
構成作家の植島さんにお褒めの言葉をもらう。たまに厳しいこともいうが、基本的に褒めてばかりの人なので、「ありがとうございますー」とは返すが、鵜呑みにはしない。
私、吉岡奏絵は声優であり、ラジオのパーソナリティも務めている。担当する『これっきりラジオ』はもうすぐで2年目を終えようとしている。
鞄を担ぎ、部屋を出る。
エレベーターに乗るも、今日も1人。
もう慣れた。
あれから半年が経った。1人で、ラジオをこなすことも慣れてしまった。
「……」
これで良いのか?という気持ちになる。果たして面白い番組が、私だけで出来ているのかという不安。
いや、わかっているんだ。
面白くない。
悪くはないだろう。
一人では無理だ。植島さんが言う、化学反応は二人がいて起きるものだ。
何も波乱がない。
隣に私の感情をかき乱す存在がいない。
佐久間 稀莉。
現役女子高生声優。18歳になって、今年で高校卒業ではあるが、まだ10代。それに若いだけじゃなく、演技の実力も、可愛さも兼ね備えた声優。
そんな彼女と、6月までこの『これっきりラジオ』のパーソナリティを一緒に担当していた。
稀莉ちゃんは、今は一時的にラジオの仕事をお休みしている。
言葉にすれば簡単だが、色々あった。
稀莉ちゃんの夢。
番組CDの発売。
歌の実力と、差。
暗い感情。真っ黒な思い。
挫折。苦悩。
でも、私たちは進んだ。前向きなお別れだった。
また会うと、また見つけてくれると信じての、一時休息だった。
私は、稀莉ちゃんのことを信じている。疑ってなどいない。自分の力も信じている。初めてのライブだって成功した。声優として、アーティストとして私はやれている。
けど、不安にはなる。
いつだって不安はそこにいて、どんなに順調そうに見えても、私と共に生きている。でも、そういうものだからと、一人の時は割り切れていた。割り切ろうともがいた。
ビルから出て、寒空を見上げるも、曇っており、星は見えない。
「稀莉ちゃんに、会いたいな……」
待っているのは辛い。
いつまで待つのか、本当に私をみつけてくれるのか。
信じるしかない、信じるしかないけど、その気持ちとは裏腹に彼女の元へ駆け出して、抱きしめたくなる気持ちが、日に日に増す。
年が明けても心は晴れなく、寂しさが募る。
うん、寂しいのだ。自分でもひどく自覚している。だって仕方ないじゃん。彼女に会えない日々が半年も続いている。思った以上にきつい。自分から提案しといて、ものすごくしんどい。心に潤いが欲しくて、彼女の声を聞きたくて、笑顔が見たくて、この手に温もりを感じたくて、ついつい唇は丁寧にケアしちゃって、……どうしようもない。
この感情に名を付けるとすれば、
「ただの欲求不満だよね……」
吐いたため息が白色に変わって、消えた。
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