第20章 一等の光③
***
稀莉「ラジオ1周年!」
奏絵「パチパチパチ」
稀莉「といっても放送される頃は、1周年の4月も過ぎて、ほぼゴールデンウイークの時期だけど」
奏絵「時空の歪み!何できっかりなるように調整していないの?」
稀莉「構成作家がタイミング忘れていたらしいわ。今日はもう4月の中盤よ」
奏絵「それは言わない!」
稀莉「さらにまだ午前中です」
奏絵「時間まで詳しく言わない!!」
稀莉「さて、4月の中盤。……そうです」
奏絵「そうだよね」
稀莉「そろそろ曲が完成していないと、いけない……」
奏絵「えーっと、改めてCDの発売日と、お渡しイベントの日を再確認しようか」
稀莉「まず5/20にCD発売。そして、6/7に購入特典のお渡し回イベント開催」
奏絵「えーっと時間なさすぎじゃありません?」
稀莉「CD発売があと1カ月というのも衝撃的だけど、お渡し回の期間も短すぎよね?」
奏絵「ここできちんとお渡し会について説明します」
稀莉「ちゃんと聞いておくのよ?今回のお渡しイベントにご協力いただくのは、秋葉原の2店舗。ここの2店舗で1回ずつ行なうわ」
奏絵「ごめんねー、東京以外の人は難しいよね」
稀莉「続けるわよ。初回限定盤CDについている、イベント抽選券を応募、のちイベント参加への当選発表とさせていただくわ」
奏絵「抽選券の応募締め切りは5/26まで。Webで応募できますが、あまり時間がないので、買ったらすぐに応募してね!」
稀莉「当選発表はできるだけ5月中にお知らせするわ」
奏絵「いや~、私たちも時間がないけど、リスナーさんも時間がないね」
稀莉「そうね。それに仕方がないことだけど、東京以外の人はなかなか来れないわよね」
奏絵「そうだよ、日本は広いんだ。青森なんて近くて仙台!、なんてことがしょっちゅうだよ」
稀莉「全然近くないわね」
奏絵「かといって、全国まわるわけにはいかないからねー。行けたら行きたいんだけど、予算と時間が……」
稀莉「アーティストとかが全国ツアーで何か所も周るのは尊敬するわ」
奏絵「でも全国の色々なご飯、名酒を飲めるのは羨ましいっ」
稀莉「観光じゃないわよ?観光している余裕なんて1分もないっ!て唯奈が愚痴っていたわ」
奏絵「実際に行ったとしても、お酒を楽しんでいる余裕はないよね……」
稀莉「さてさて、CDやばいって言っているけど、実はすでに歌詞、メロディは完成しているわ」
奏絵「レコーディングに備えて特訓中です」
稀莉「乞うご期待!」
奏絵「今日お伝えした情報は、公式ホームページやSNSに載っていますので、ぜひチェックしてください」
奏絵「さて、このコーナーにいきましょう」
稀莉「劇団・空想学!」
奏絵「こちらのコーナーではリスナーさんから募集したお題を元に即興劇を行います」
稀莉「今回はラジオネーム、『絶対にほどける靴ひもの結び方』さんからのお題です、こちら」
奏絵「入学式に遅刻した新入生を案内する3年生」
稀莉「4月っぽいお題よね」
奏絵「けど、実際入学式から遅刻するなんて、なかなかないよね。大物過ぎる」
稀莉「初日から悪目立ちはきついわね」
奏絵「じゃあ、どっちをやろうか」
稀莉「順当にいけば、よしおかんが3年生よね」
奏絵「あえて、逆にする?」
稀莉「うーん、普通にいこうか」
奏絵「了解」
稀莉「いくわよ?レッツデイドリーム!」
===
稀莉(新入生)「いっけないー遅刻遅刻。まさか目覚ましが壊れているなんてついていないわ。もう!何で、お母さんも起こしてくれないのよ」
奏絵(3年生)「じゃらららーん(アコースティックギターを鳴らす音)」
稀莉(新入生)「体育館の場所もわからないし。きゃっ」
奏絵(3年生)「やあ、子猫ちゃん。急いでどうしたんだい?」
稀莉(新入生)「ごめんなさい、ぶつかっちゃって。もしかして、ここの高校の先輩ですか?」
奏絵(3年生)「そう、人生の先輩さ」
稀莉(新入生)「へ、変な人。私、入学式に遅刻しちゃって、体育館に急いでいるんですが、よかったら案内してくれませんか?」
奏絵(3年生)「人生の案内というわけだね」
稀莉(新入生)「いや、まあ、新たな人生の門出ですが」
奏絵(3年生)「着いたよ」
稀莉(新入生)「え、ここは?」
奏絵(3年生)「倉庫だよ」
稀莉(新入生)「えっ、きゃっ」
奏絵(3年生)「ここで、僕と君の入学式を始めるんだ」
稀莉(新入生)「ひっ!や、やめてください!」
奏絵(3年生)「(ギターの音とともに歌う)君の始まりに乾杯、人生は長いけど今日という日は素敵な夢の一歩~♪」
奏絵(先生)「うるさーい、入学式中だぞ」
稀莉(新入生)「え」
奏絵(先生)「何で、体育倉庫にいるんだ?それにギターの音が聞こえたけど」
稀莉(新入生)「す、すみません。……あれ、先輩は?」
奏絵(3年生)「(木の上にいる先輩)ふふ、せっかくの入学ライブにとんだお邪魔が入っちゃったぜ」
===
稀莉「終了~」
奏絵「ごめん、本当にごめん」
稀莉「なかなかの駄作だったわ」
奏絵「いやー、正直ミスった」
稀莉「何で、括弧の中を朗読するの?それに3人目のキャラ、先生が出てきたわよね?」
奏絵「反則ですよね……」
稀莉「そして、何でオチが不可思議な感じなの?」
奏絵「文才を発揮した結果、意味がわからなくなりました」
稀莉「このコーナーも1年経つのよね?」
奏絵「おかしいなー、積み重ねとは?」
稀莉「まるで成長していない……」
***
2年目となった『これっきりラジオ』だが、特にトラブルもなく、収録を終えた。駄作だったけど、トラブルではない。断じてトラブルではない!もっとアドリブ練習しよう……。
でも、今日の仕事はこれで終わりではない。
「この後、レッスンだと思うけど、本番のレコーディングは来週だ」
植島さんから気合を入れられる。
「来週のレコーディングを逃すと本当にまずい。なぜなら、世間はゴールデンウィーク。僕らの業界のように、え、休み?ゴールデンウィーク?GWって、午前からWorkってことですよね。もちろん仕事、全部仕事ですよ!なんて、ブラックなことはない」
闇が見え隠れする。こういう仕事だと、むしろ休日にイベントが開催されることが多いので、ゴールデンウィークは余計に忙しくなるのだ。
「ゴールデンウィークが余計なことをして、CDの作成は止まり、20日の発売まで間に合わない、そんなこともありえるかもしれない。工場や上の人は平気で休むからね。だからゴールデンウイーク前に楽曲を完成させて、目途を立てたいんだ。わかってくれ。一発オッケーとはいわない。その日のうちに終わらせてくれ」
いつもは気だるそうな感じなのに、やたらと熱が入っている。
「植島さん、そんなにプレッシャー与えないでくださいよ」
「そうよ、奏絵の言う通りだわ。そうならないように必死に練習しているんだから」
「そうだな。杞憂だ。君らを信じているよ」
本心から思っているかは疑わしいが、納得はしてくれた。突然の仕事だったとはいえ、ギリギリになったのは私たちの責任もある。
ただ、すでに歌詞入りのガイド用の仮音源は出来上がっており、何度も聞いて覚えている。
あとは、私たちの声を実際にレコーディングすれば完成だ。
「じゃあ今日も行こうか、レッスン」
「ええ、今日も熱唱するわよ」
のど飴を交換し、レッスン場へ向かう。レッスンは大変だけど、もう少しで終わってしまうことに寂しさも感じる。
「歌うって楽しいんだね」
私の言葉に、彼女が嬉しそうに頷く。
初めて歌った空音の曲の時は必死過ぎて、何も覚えていなかったが、今は違う。ラジオを積み重ねた上での、挑戦。色々な思いを乗せて、飛び立つ歌だ。
良い曲にしよう。改めて、そう思ったんだ。
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