第18章 ホワイトデイズ④

『これラジが受賞嬉しいー』『もちろん雑誌買います』『キャンディーの意味を調べました。ど直球ですねw』『応援してきて良かった』『受賞は当然』『何味を渡したのかが気になる』『スマイル賞でもよかった』『俺はこの二人のやり取りに毎回癒されているよ』『二人の撮影写真見れるの楽しみすぎる』『早く雑誌を拝みたい』


 放送を聞きながら、実況コメントを眺める。驚きの言葉や、祝福の言葉が多く、自然と笑みがこぼれる。……ホワイトデーについての反応も目にしてしまうのは心に良くないが、今日は許すとしよう。

 そう、まだだ。今日の番組はこれだけでは終わらない。


***

稀莉「なんと、受賞、ラジオ1周年を記念して」


稀莉「番組テーマソングの制作が決定!」


奏絵「まさかのCDデビュー!」

稀莉「まさかのまさかよ」

奏絵「どんな曲になるのかなー」

稀莉「鋭意制作中よ!」

奏絵「……いや、正直言って何もできていない」

稀莉「けど、決定しているのよね……」

奏絵「決定しちゃっているんだよね」

稀莉「さらにさらに発表よ!」


奏絵「番組テーマソング購入特典で、5月後半にお渡し回イベントを行います!」


稀莉「もちろん番組初のお渡しイベントよ」

奏絵「どうするの!?誰もCD買ってくれなくて、お渡し回に誰も来ていなかったら!」

稀莉「そしたら番組スタッフが周回してくれるわよ」

奏絵「それは悲しすぎる!」

稀莉「そうならないためにも、いい曲をつくらないといけないわね」

奏絵「でもまだ何もできていないときた」

稀莉「大丈夫、4月には少なくとも完成している」

奏絵「3月の今、それは果たして大丈夫なのか」

稀莉「だいじょばない。前もって準備すればいいのに……」

奏絵「いつも思いつきだからね、このラジオ……」

稀莉「はいはい、嬉しいお知らせなんだから暗くならない。ともかくCDが発売されて、お渡し会が行われるわよ!」

奏絵「楽曲の進捗、発売情報などは随時ラジオでお知らせするので、お楽しみに!」


奏絵「まさか稀莉ちゃんと歌うことになるとはね」

稀莉「大変なのは目に見えているけど、楽しみね」

奏絵「お渡し回イベントで歌ったりするのかなー」

稀莉「うーん、それはどんな会場でやるか次第ね」

奏絵「でも、こっちでは歌うことになるだろうね」

稀莉「そうね、こっちでは歌わざるを得ないわね」


奏絵「そうです!」

稀莉「そうなんです!」

奏絵「2年目へ向けた『これっきりラジオ』は」

稀莉「まだまだ止まらない!」

奏絵「なんと、さらに発表です!」

稀莉「リスナーの皆、ちゃんと聞きなさいよ!」


奏絵「なんと、『これっきりラジオ』の2回目の単独イベントの開催が決定!やったー」

稀莉「時期は初夏。7月に開催予定よ!」

奏絵「さらにさらに、さらに!」

稀莉「2つの場所で開催予定です!」


奏絵「皆の街にこれっきりラジオがやってくるかもよ?」

稀莉「といいながら、どうせ東京と大阪でしょ?」

奏絵「もしかしたら、沖縄と北海道かもよ!美味しいお酒に、美味しい食べ物!」

稀莉「旅行か何かと勘違いしてないかしら?」

奏絵「もしくは青森と鳥取」

稀莉「何故、そんな辺境地に!?」

奏絵「ちゃんと人は住んでいるよ!青森には林檎以外もあるんだからね。鳥取ももちろん砂漠以外もある!うーん、じゃあハワイと、グアム」

稀莉「だからバカンスじゃないからね!?」

奏絵「これまた、ラジオでいずれ告知するので要チェック!」


稀莉「盛り沢山の回だったわね」

奏絵「本当、嬉しいことだらけです。これもリスナーさん、応援してくれる人たちのおかげです!」

稀莉「2年目の私たちはさらにパワーアップ!」

奏絵「私たちも頑張らないとー!」

稀莉「これからもちゃんと付いてきなさいよ!」

***


 収録が終わり、どっと疲れが来る。50回を目前にたくさんの発表があり、つい大きな声を出しすぎて、喉が少し痛い。

 でも、声を大きくしてしまうのも仕方がない、発表の数々だった。


「なんだか正月と盆が一緒に来たみたいですね」 


 今日はスポンサーさん含め、人が多く来ているからか、髭を剃り、髪はいつもよりは整っている構成作家、植島作雄に話しかける。


「えっ、夏コミと冬コミが一緒に来たみたい?」

「どういう聞き間違いですか!」


 内容は全然違うけど、ニュアンスが近いのがまた植島さんらしい。


「よくこんなに色々なことができましたね」

「視聴数いいからね」

「そうなんですか!」

「炎上以降も落ちず、むしろ上がり調子。賞取るのも当然だよ」

「そ、そうですか!」


 あっけらかんと答える構成作家。初回はほぼ白紙の台本を渡され、愕然とした記憶もあるが、この自信、さすが敏腕作家だ。


「というわけで、君たちにはもっとかせ、盛り上げてもらう」

「稼いでもらう!と言いましたよね、よね!?」

「はいはい、稼いでもらうの。稼がないとラジオできないから、イベントも、グッズもつくれないから」

「そうね、番組のグッズはたくさん作りたいわね」


 そう言って深く頷く、稀莉ちゃん。この子は意外とグッズを集めるのが好きだったりするのだろうか。


「というわけで、宿題だ。君たちには曲の歌詞を考えてもらう」

「へ」

「……え?」


 宿題?歌詞を考える?


「私たちが考えるんですか?」

「そりゃそうだよ、君たちの歌でしょ?」


 そうだけど、歌詞に挑戦するのはなかなかにハードルが高い。


「無理!考えたことなんてないもの!」

 

 彼女が先に抗議する。歌詞を書くのが趣味でもなく、ポエミーな言動を普段から言う二人ではない。


「音楽はちゃんと発注済みだから、来週には届く」

「音楽があるからって、それに歌詞を合わせるなんて無謀だわ。プロじゃないんだけど!」

「わかっている。だから、好きなフレーズ、言葉を考えてもらって、並べるだけでいい。あとは何とかするから」

「それなら少しハードルも下がりますが……」


 それでも難しい注文だった。


「君たちが考えるから、このラジオの曲になるんだ」


 そう言われては断れないが、相変わらず無理難題を平気で言う人だ。

 でも、言いたいことはわかる。

 チャンスを与えられたからには、これだけご褒美を貰ったのだから、私は、私たちは期待に応え、さらに成長しないといけないのだ。


 こうして、私はアラサーにもなって、新年度までの宿題を与えられたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る