第18章 ホワイトデイズ②

 インタビュー中も写真を撮られながら進行する。最初は緊張していたが、赤裸々に話すうちに、担当者さんとも徐々に打ち解けていった。


「では、よしおかんさんがラジオをやっていく中で苦労したことはありますか?」


 いつの間にか、私をあだ名で呼ぶようになっている。同じぐらいの年齢の女性に、『おかん』と呼ばれるのはどうかと思うが、もう慣れたものだ。


「苦労ですか。たくさんありますね」


 最初は、稀莉ちゃんが生意気で、どう対応したら良いか、わからなかった。

 高熱で倒れ、病院で目が覚めた時は全てが終わったと思った。


「終わったといえば、稀莉ちゃんにイベントで告白された時は、あ、これ私の声優人生終わった……と思いましたね」

「失礼ね!はじまったのよ!」

「いやいや、SNSが大炎上して大変だったんだからね」


 番組は火消しせずに、さらに炎上を利用してしまう始末。おかげでリスナーが増え、番組人気も増したのだから、文句も言えない。映像収録されていないことだけが、救いだ。


「ふふふ、お二人は仲良しなんですね」

「……見えます?」 

「どうみても」


 すぐ言葉が返ってきた。おい、隣の美少女、満更でもない顔をするなー!


「稀莉さんは、思い出に残っていることってありますか?」

「たくさん、たっくさんあります。初めて一緒に行った喫茶店で」

「ふふ、あの時は苦そうな顔をしてブラックを飲もうとしてたよね」

「ち、違うわ」


 あの時はマネージャーさんに一芝居打ってもらったっけ。喫茶店に行ったのがきっかけで、彼女とは仲良くなれた気がする。


「唯奈の番組にお邪魔した時は最悪だったわね」

「懐かしい」


 橘唯奈さんのラジオ番組、『唯奈独尊ラジオ』にお邪魔したのも随分前のことだ。


「稀莉ちゃんの好きなところ、多く言えた方が勝ちゲームとかやったね」

「休憩中も止まらないから苦労したわ」

 

 唯奈さんの、稀莉ちゃん溺愛っぷりは凄いものがあった。けど、そんな唯奈さんに告白劇場のコーナーで、私は見事勝利し、ラジオの相方として威厳を保ったのであった。


「VRを体験しに行ったのも楽しかったわ」

「あー、あったねー」

「あとはあとは一緒にテーマパークに行き、泊まっ」

「ちょっと、ちょっとストップ!」

「後は、冬の桜の木の下で」

「ストップ、ストップ!!」


 彼女を物理的に押さえつけ、事なきを得る。危ない、告白はさすがに聞かれてはならない。


「ははは、お二人は仲良しですね」


 よし、担当者さんにもバレていない。

 気を取り直し、インタビューが再開する。


「ラジオで思い出に残っている回はありますか?」

「私は、イベントグッズを紹介したのが思い出に残っていますね。自分たちのアイデアが物になるのは嬉しかったですね。稀莉ちゃんは印象に残っている回ある?」

「愛してるよゲーム回はヤバかった。あと、バイノーラルで、耳元で囁かれるのはヤバかった」


 新コーナーの、『稀莉ちゃんの願い、かなえたい!』は本気で頭のおかしい企画だった。何だよあれ、悪ふざけがすぎるだろう。でも、どのコーナーよりもお便りが来ている現状であった。ちくしょー。


「後はそうですね、空音の話をした回は色々な意味で思い出に残っていますね」


 6年前、私は『空飛びの少女』の主役、『空音』を演じた。

 そして、6年ぶりにリメイクが決定し、会社も配役もすべて変更が決定。新しい『空音』は、ラジオの相方の稀莉ちゃんが選ばれたのだ。

 『空音』は私にとって特別で、半身で、いくら稀莉ちゃんでも譲れないものだった。稀莉ちゃんにとっても、『空音』は憧れであり、『空音』を演じることを拒み、私と喧嘩した。

 でも、彼女は強かった。母親の見舞いのために、故郷の青森に一時的に帰った私を追いかけてきたのだ。稀莉ちゃんの強い想い、行動に心は大きく動かされた。

 そして、私は選んだ。『空音』を失うより、彼女を失ったセカイの方が辛いと実感した。だから、言葉にしたのだ。彼女のことが、好きだと。

 ……もちろんそこまでのことはインタビューでは言わないのだけど。


「仲良しな二人ですが、稀莉さんにとって、よしおかんさんはどのような存在ですか」


 顔をぽっと赤らめ、口にする。


「初恋で、初めての彼女です」

「いやいや、何言っているの!?」


 さらにバッグを漁り、ファイルを取り出す。


「ここに誓約書があります!」

「何でまだ持っているの、それに何で持ってきているの!?」


 無くしていてほしかった。捨てていて欲しかった。

 何で、肌身離さず持っているのだ!?私利私欲まみれの誓約書。うじうじしていた私が悪いのだけど、思い返しても理不尽な文書だった。何だよ、「⑤誰よりも私を1番好きでいること。」って。

 次に、左手の甲を見せる。きらりと小指が光る。


「そしてこの指輪です」

「いやいやいやいや、ピンキーリングだから」

「まだ婚約指輪はまだ早いからって」

「待って、記事にしないで、捏造禁止!」

「事実にしてしまうのよ!既成事実!周りを認めさせれば、私は待つ必要ない!さぁ、記事にして頂戴!」

「待って、本当に待って!」

「白いドレスもいいわね」

「妄想が早い!」

「神前式もありかしら」

「妄想が止まらない!」

 

 わーわー。きゃーきゃー。

 私達の目の前にいる担当者の女性がポツリと呟く。


「……お二人、仲が良すぎませんか?」

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