番外編②

ある日の収録③

 今日も今日とて、ラジオの収録は始まる。


× × ×

奏絵「始まりました」

稀莉「佐久間稀莉と」

奏絵「吉岡奏絵がお送りする……」


奏絵・稀莉「これっきりラジオ~」


奏絵「最近、寒くなったねー」

稀莉「都内では雪が降っている所もあるみたい」

奏絵「ひえー、積もらないといいな」

稀莉「そうね、交通がマヒすると仕事延期!ってこともあるから困る」

奏絵「そうそう、仕方ないけど困っちゃうよね。それに、寒いと朝布団から出られなくてですね……」

稀莉「気持ちはわかるけど」

奏絵「稀莉ちゃんは、朝はきちんと起きれるタイプ?」

稀莉「もちろんよ、学校に遅刻したことないわ」

奏絵「学生の時は不思議と起きられるんだよね」

稀莉「よしおかんは……聞くまでもないわね」

奏絵「おい~、聞いてよ」

稀莉「どうせ、朝は弱いでしょ?」

奏絵「まぁ、はい、弱いんですけどね」

稀莉「……予想通りでつまらない」

奏絵「稀莉ちゃんには起こしてくれる人がいるからいいじゃん!幼馴染や、妹に、メイドさんにさ!」

稀莉「何のアニメの話よ!起こしにくる幼馴染、妹はいません!」

奏絵「でも、メイドはいる」

稀莉「誰の力も借りずに起きているわよ」

奏絵「偉いねー、稀莉ちゃんは偉いー」

稀莉「子供扱いするなー!」

奏絵「目覚ましをはかけているんだけどさ、何故かいつも勝手に消えているんだよね。きっと妖精の仕業だね」

稀莉「だから、どこのアニメの話よ!?」

奏絵「はぁー、毎日モーニングコールしてくれるヒロインが欲しい」


稀莉「…‥‥!?」


奏絵「どこのアニメの話だよ!ってことだよね」

稀莉「ぃ、ぃよぅか?」

奏絵「え、何?小さい声でよく聞こえない!」

稀莉「な、何でもないわよ!ここで1曲、ロマンスのかっ」

奏絵「雑な誤魔化し方!いやいや、このラジオ、曲流さないし!それにチョイスがちょっと古い!本当に10歳差の女子高生!?」

稀莉「うるさいわね……」

奏絵「うちの姫がご立腹です……」


稀莉「朝が駄目ってことは、よしおかんは朝食もきちんと食べないのよね?」

奏絵「おっしゃるとおり。朝食を抜くこともあるし、食べてもゼリーやパン1個ってことが多いかな」

稀莉「えー。朝はゆっくりとお米を食べたいわ」

奏絵「つくってくれるんでしょ?」

稀莉「そ、そうだけどさ。私だって、あんたと違って少しは料理できるんだからね」

奏絵「否定できない私が悲しい」

稀莉「インスタントばかりじゃ体に悪いわよ」

奏絵「そうだけどさ。え?何、植島さん。毎日奥さんが味噌汁つくってくれるって?はい?いきなりの奥さん自慢?」

稀莉「って、植島さんって結婚していたの!?」

奏絵「こんなところでまさかのカミングアウト。いや、隠していたわけでもないけどって。奥さんの料理か……羨ましい」

稀莉「私だって、味噌汁ぐらい作れるわよ」

奏絵「あー朝食に味噌汁いいな」

稀莉「つくろうか?」

奏絵「え、うん。できたら毎日味噌汁作ってほしいな」


稀莉「……!?」


奏絵「……あれ?何この空気。あっ、待って!今の発言はそういうことではなくて!」

稀莉「早く新居を探しに行きましょう」

奏絵「だから、そういう意味の言葉ではなくてですね!?」


× × ×

 

 メイドの朝は早い。

 私、柳瀬晴子は佐久間家にお仕えする家政婦です。

 今日も朝食の準備をしようとキッチンに入ったところ、先客がいました。


「おはようございます、稀莉さん。今朝は稀莉さんが朝食をつくるのですか?」

「そうよ、練習しているの!」

「そうですか、そうですか。……花嫁修業ですか?」

「ち、違うわよ!!」


 そういって稀莉さんは真っ赤な顔をするのでした。

 私の仕事……と寂しい気持ちもありますが、


「あー、稀莉さん。ここは先にかき混ぜてですね」

「えぇっと、こう?」

「そうそう、上手です。あとは隠し味があってですね」

「ふむふむ」


 稀莉さんの成長した姿を見るのは嬉しい限りです。

 吉岡さんが稀莉さんの手料理を食べるのも、そう遠くないかもしれませんね。

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