第17章 ふつおたでもいいと思う

第17章 ふつおたでもいいと思う①

 夢を見ていた。

 私はお姫様に憧れる一般市民。

 お姫様は綺麗な声を持ち、お姫様が歌えば人々は笑顔になった。

 私はお姫様に憧れ、家ではお姫様の真似をしていた。

 寝ても覚めてもお姫様のことばかりを考えていた。

 お姫様のことを想うと、心がポカポカ温かくなる。

 そう、私はお姫様のことが大好きだった。


 けど、私がお姫様になってしまった。

 あまりに突然だった。世界は急に変わり、元のお姫様は追放され、お城からいなくなってしまった。

 こんなこと、私は望んでいなかった。

 私はお城を抜け出した。彼女を追いかけた。

 お姫様は彼女のものだった。彼女こそが相応しかった。彼女じゃなければ駄目だった。

 やっとの思いで、私は元のお姫様を見つけ出すことができた。

 何故かそのまま旅を続けることになってしまったが、お姫様との逃避行は楽しくて、夢みたいな日々だった。私はもっと彼女のことが好きになった。

 でも、いつまでも現実逃避はできない。終わりは来る。彼女はもうお姫様に戻ることはできなかった。私がお姫様の役目を果たすしかなかった。

 私は受け入れるしかない。そんな私に彼女は約束をしてくれた。


 彼女にとってのお姫様になる約束。

 私が彼女の特別になる―。


 その誓いだけで、私は全てを許してしまった。お姫様の役目を果たすことに、もうとまどいはなかった。

 左手の薬指が光る。

 私がお姫様になったとしても、帰る場所には彼女がいる。

 彼女は私を笑顔で出迎え、そしてそっと口づけ、




 目を覚ます。

 外は真っ暗だった。

 新幹線は新青森から出発し、ちょうど今は仙台に着いたところ。

 手が温かい。

 繋がれた手の先を見て、微笑む。

 不安で堪らなかった行きの新幹線とは違う。

 隣には私のお姫様がいた。

 だらしない顔で寝ている、愛おしい彼女。


「奏絵」


 彼女の名前を呼ぶ。

 今では平気な顔をして呼べるようになった、特別な名前。

 彼女の肩にもたれかかる。

 目を覚ました彼女はどんな反応をするだろう。

 慌ててくれるかな?もうそんなウブじゃないかな?

 私だけの指定席。誰にも渡さない。

 東京に着くまではまだ時間がある。

 夢の続きを見るにはちょうど良い。


 夢は終わらない。夢は覚めない。

 いつでも彼女は私に夢を見させてくれるのだから。





 東京に戻り、数日が経ったある日。

 新作『空飛びの少女』のスタッフ、キャストが公に発表された。

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