第15章 アフターグロウ⑥
***
稀莉「それでは、こちらのコーナーにいきましょう」
奏絵「よしおかんに報告だー!」
稀莉「いわゆる何でもOKのお便りのコーナーよ。本日は大滝さんが来ているので、大滝さんにまつわるお便りを読んでいきますー」
咲良「すまないねー」
奏絵「さあ早速いきましょう。ラジオネーム『お家に帰り隊』さんから。『おかん、稀莉ちゃん、ゲストのさくらん、こんにちはー』」
咲良「こんにちー」
奏絵「『皆さん、アニメの仕事をしているので、アニメコンテンツについてオタクだと思うのですが、それ以外で自分がオタクだなーと思うことってありますか。私はサッカーオタクなのですが、たまにスタジアムでアニメコラボやってくれると両方を楽しめます。ぜひ良かったら皆さんのオタクな部分教えてくださいー』」
咲良「アニオタとサッカーオタクの両立かー。きっと現地でサッカー観戦にも行っているんだろうね」
稀莉「土日だと日程が被りそうね」
奏絵「うーん、大変そうだ。スタジアムからユニフォーム着たままライブ会場に直行とかしちゃうのかな?で、二人はアニメ以外でオタクな部分ある?」
稀莉「オタクってほどじゃないけど、演劇が好きよ。でも役者もやっていたし、そもそも声優も役者だと思うし、結局仕事の範疇よね」
咲良「演劇といえば2.5次元っすよ。アニメや漫画を舞台にするのだけど、あーレオ君が現実にいる!生きている!この世に感謝、感激!って思えるほど、再現度高いんだよ……あれはヤバい。2.5次元沼に入ったら抜け出せねぇ」
奏絵「誰だレオ君。でも最近多いよね。特に女性向けコンテンツに多いイメージかな。ミュージカルのは一度見てみたいなーと思っていたんだ」
咲良「いこう、おかん。おかんも一緒に舞台に行こうぜ。おかんが気に入る子もいるはずさ」
奏絵「あら、やだ~。カッコいい子たくさんいるじゃない~って誰があんたのおかんじゃい!」
稀莉「ノリノリじゃない!よしおかんはどうせ酒オタクよね」
奏絵「別に酒豪キャラじゃないからね!そこそこ詳しいつもりだけど、現地まで行って飲みに行くほどじゃないし、そんなに高いお金払って飲んでない」
咲良「酒はね、酒はあかんよ……」
奏絵「さくらんは何があったのかな!?」
咲良「どうも大滝酒乱です……」
稀莉「お酒で乱れるのは良くないわ……」
奏絵「しかし、他に誇れるオタクな部分ってなかなかないね。スポーツもさっぱりだし、女子的な趣味もありませんですし」
稀莉「ここで植島さんから情報です。なになに、男がグッとくる女子の趣味ランキング?」
奏絵「男受けのいい趣味ということかー」
咲良「当てはまったら私たち明日からモテモテ人生!?」
稀莉「それはわかりませんが、では3位から!」
奏絵「サーフィン!」
咲良「登山!」
稀莉「どっちもアクティブね。でもちょっと近いかも。正解は『旅行』でした」
奏絵「旅行かー」
咲良「でも1人旅行か、友達と旅行かで反応違いそう。私みたいに聖地巡礼じゃーっと1人で旅行しちゃう輩はきっとお呼びでない気がする」
稀莉「自己評価低くない!?そんなことないと思うけど。1人で旅行って怖くてしたことないわ」
奏絵「その歳で1人旅行してたら驚きだよ」
咲良「学生の時は家族旅行や、修学旅行ぐらいだって。あー修学旅行っ!学生に戻りてえええ」
奏絵「途中途中スイッチ入って錯乱するのやめましょう」
稀莉「はい、では2位は?」
咲良「私、ゲスト!うーん、パンケーキ!」
奏絵「カラオケ?」
稀莉「2位は『写真』でしたー」
奏絵「えー、本当に?」
咲良「あーでもカメラ女子って流行ったね。一眼レフを可愛い女子が持っていると、グッとくるのは悔しいがわかるぜ……」
奏絵「よし、明日カメラを買いに行こう」
咲良「この後でもいいぜ、おかん!」
稀莉「はいはい、1位は何でしょう」
奏絵「ゲーム!」
咲良「コスプレ」
奏絵「コスプレ好きの彼女ってどうなんだろう」
咲良「写真撮りたくなるね。でも誰かに撮られるのは嫌だ……うん、無いな。嫉妬心が芽生えるわ」
稀莉「1位は、『料理』でした」
奏絵「はい、解散解散」
咲良「どうせ、私たちはモテないよ」
稀莉「どんだけ二人とも料理に自信がないの!?二人とも一人暮らしなんでしょ?」
奏絵「一人暮らししているからって、料理が上手くなるわけではない」
咲良「東京ではお店に困らない。無理して作る必要はないんだ、ないんだ!」
稀莉「強く主張しなくてもいいんじゃありません?皆は、きちんと料理できる女性になるのよ」
咲良「誰が売れ残りだー」
奏絵「どうせワゴンセールなんだ……」
稀莉「まぁ、オタクライフを満喫するだけで大変なので、それだけでもいいと私は思いますけど」
咲良「30近くなると周りがどんどんオタク卒業していくんだぜ……、結婚や出産を機にそれどころじゃなくなり……あああ!!」
奏絵「やめよう、歳の話はやめよう!!」
稀莉「この人たち面倒くさいんだけど!?」
***
「つい絶叫してすみません」
「いやいや、私もさくらんに凄く共感したよ。そんなにオタクじゃないと思っていたけど、私も確かにオタクだった」
アラサー二人が暴れたので、さすがに文字通り暴れたわけではないけど、稀莉ちゃんが普段より疲弊している。
「二人組ラジオで良かったわ。いつも3人、4人とかじゃ堪えられない」
「「ごめんねー」」
息もピッタリだった。
「この後、これっきりのお二人は暇?夕飯行こうぜ!」
さくらんからの嬉しい提案だった。普段ならもちろん行っていた。むしろ自分から誘いたいほど、さくらんとは話が盛り上がり、稀莉ちゃんもきっと楽しめると思った。普段の私なら。
でも、
「ごめん、今日はちょっと稀莉ちゃんと話したいことがあるんだ」
私の言葉に、隣の彼女が「えっ」という顔をする。
「じゃあ、しょうがないねー。また今度行こう。合同イベントもあるしな!」
「ええ、また!」
申し訳ないが、今日は駄目なのだ。もう引き延ばしはできない。次の収録の時では間に合わない。
今日、私は稀莉ちゃんに伝えなくてはいけない。
今日の奏絵はずっと可笑しかった。一見、普段と変わりなく見えたが、心がこっちを向いていない。ハッキリ変だ!とは言えないが、違和感がずっとあった。
そして、収録後に二人で話したいと言われ、私は外に連れ出された。
二人でないと言えないこと。
それは、何か。
思い当たるのは、告白の返事。
今年中待ってほしいと言われたので、12月の終わりぐらい、そうクリスマス付近に答え、返事をくれるのだと思っていた。
まだ11月初旬。やけに早く答えが決まったものだ。突然すぎて気持ちの準備ができていない。
だから、今日の奏絵は変だったのか。告白の返事に気をとられ、心ここにあらず。納得がいった。
移動している間は、ずっと緊張して何も喋れなかった。奏絵もずっと口を開かず、静かに目的地へと向かっていた。何処に行くかはわからないが、「そんなに遠くない」と彼女は言っていた。
……私たちは付き合うことになるのだろうか。
まだ10代の子とは付き合えない、と先延ばしされるのか。
私のことを奏絵は「好き」と言ってくれた。けれども振られる可能性もある。
海の匂いがする。
陽はすっかりと落ちていた。夜景の見える、木目の歩道のある場所に私は連れてこられていた。静かで綺麗な場所である。海はすぐ近くにあるが、真っ暗で何も見えない。
「寒い時にごめんね、でもあまり人がいない場所で話したくてさ」
「ううん、いいわ」
せっかくならロマンチックな場所で告白されたい。理想としては、展望台や観覧車の頂上がシチュエーションとして最高なのだが、収録現場からは少々遠い。文句を言ってはいけない。ここから見えるビルの光は綺麗で、街の光は幻想的で、側には奏絵がいる。そう、奏絵さえいればいいのだ。彼女がいれば何処だっていい。
「稀莉ちゃん、言わなきゃいけないことがあるんだ。真剣に聞いてほしい」
「う、うん」
やっぱりだ!彼女の真剣な眼差しに胸の鼓動が早まる。ドクンドクンと音を立て、外に飛び出ていきそうだ。聞きたくない。でも聞きたい。けれども聞きたくない。やっぱり聞きたい。
彼女の口がゆっくりと開かれる。神にも祈る、この気持ち。
私は奏絵が好き、大好き。最初は憧れだった。でも今は違う。憧れだけじゃない。仲間、パートナー。そして、今はそれだけでは足りない。
奏絵はそんな私にどんな返事をくれる?
彼女は、吉岡奏絵は佐久間稀莉のことを、
「『空音』の役が、稀莉ちゃんに決まったんだ」
え、あれ。
「……は?」
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