第14章 虚空リフレイン⑦
「ファーストフードでもいいわよ」
「いやいや、せっかくのデートに、ね」
「う、デートとか言うなし。わかった、別の言い方をする。ファーストフード店に行きたい」
そう言われたら断れるわけがない。喫茶店やコンビニ同様に行ったことがなくて、行きたいのか。売れっ子声優がチェーン店でいいの?と思うが、木を隠すのなら森の中、若い子が多いお店の方がバレないに違いない。
お店に入り、注文を済ませ、2人テーブルに対面で座る。店内は若い女の子で賑わっている。
「予想以上に楽しかったね、VR」
「それなら良かったわ。どれが一番だった?」
「うーん、そうだな。ホラーは稀莉ちゃんが面白かったけど」
「忘れなさい!」
「はいはい。1番は戦闘機に乗ったアトラクションかな」
「そうね、なんだかんだで私もそれが1番楽しかったかな。空音の気分が味わえたもの」
「稀莉ちゃん、上手だったねー。今からでもパイロット目指さない?」
「目指さないわよ。でも今まで戦闘機やロボットに乗ったことないから乗ってみたいわ」
あくまでそれはアニメの話。確かに稀莉ちゃんが戦闘機に乗るなんて、なかなかイメージがつかない。でも昨今のアニメでは美少女がロボットに乗ることは珍しくもなく、演技の幅を広げる意味でも挑戦したいと思うのは不思議ではない。
「で、お昼食べたら何処に行くんだっけ?」
嬉しそうに携帯電話を見ながら、「服屋さんに、家具・インテリア店に、ラストはイルミネーションよ」と稀莉ちゃんは語る。事細かに携帯にメモしてあるのだろうか。
1時間ほど食事しながら会話した後は、稀莉ちゃんの予定通りに色々な場所をまわった。
服屋ではお互い似合うものを着てもらう対決をした。私は、ベージュのトレンチコートを着て、きれいめ系な感じで仕上げてもらった。より大人っぽくがテーマらしいが、私には手の出せる値段ではなく、稀莉ちゃんは大絶賛だったが、泣く泣く元の場所に戻した。私は、稀莉ちゃんをフェミニン系のファッションで着飾った。フリルブラウスに、淡い色のスカート。稀莉ちゃんは「こんなの似合わない!」と言ったが、ちゃっかりカードを使って、購入していた。最近の高校生はカードを持っているのか……とジェネレーションギャップを感じつつ、いつか収録で着て来てくれるだろうか、と期待も抱いた。
家具・インテリア店では、特に購入したいものはなかったが、お互いに部屋に置きたいものを話し合った。「ソファーは必要だと思うのよね」とか、「このベッドいいね」「これじゃ二人では寝られないわ」「一緒に寝ないよ!?」とかとか、「カーテンは完全遮光がいい」「太陽の光できっちりと目覚めたいのだけど」など要望は尽きない。……私たち一緒に住むわけじゃないよね?
そして、時間はあっという間に過ぎ、夜になった。
「綺麗だねー」
「うん、もう冬って感じがする」
やってきたのは、イルミネーションが綺麗な駅からの近くの場所。青い光が幻想的な雰囲気を醸し出し、人々を魅了させる。
イルミネーションを見る稀莉ちゃんは、目を大きく開け、子供のように楽しそうな顔をし、そして綺麗だった。
胸がきゅんとした。
「稀莉ちゃん」
私の呼ぶ声に彼女が私を見る。イルミネーションに照らされる彼女は特別で、私にとって愛おしいものだった。
「待たせちゃってごめんね」
何をとは言わない。
「その凄い嬉しかったんだけど、ずっと戸惑っているんだ。あの、私もさ」
彼女はしどろもどろな私に何も言わず、ただ答えを待っている。
「好き、だと思う。いや、好きだよ稀莉ちゃんのこと」
彼女の大きな目がさらに見開く。
「でもね、その好きは正直わからない。わからないんだ、こんなこと初めてで。好きの後がわからなくて、どうしたらいいのかわからない。稀莉ちゃんとどうしていったら正解なのか、わからない」
答えのない答えをただそのまま伝える。それが今の私の精一杯の答えだから。
「だから、いや、でも今年中には答えを出すから、それまでまた待たせちゃうけど、待ってほしい」
きちんと答えを出す。答えを見つける。この色に名前をつける。11月、12月と2カ月の間待たせることにはなるが、でも彼女は優しく微笑んだ。
「ありがとう、奏絵。あなたの気持ち聞けて嬉しい。私のことでこんなに悩んでくれて、こんなに想ってくれて嬉しい」
逃げるのを辞めた。わからないままぶつかる。
「そして、好きって言葉嬉しい。私も好きよ、奏絵。待っているから」
「うん、待っていて稀莉ちゃん」
期限は決められた。自分で決めた。後はひたすら悩む。悩んで考えて、答えを出す。私たちの最善の在り方を。
この日はこれで解散となった。
でも駅に着いて、稀莉ちゃんから突然電話があった。初めての電話。何かあったのかと、急いで電話に出る。
「どうしたの、稀莉ちゃん」
『大変なの、奏絵』
「どうしたの、何かあったの?」
『いいから、ネットでも、SNSでもいいわ。見ればすぐわかる、わかるから!』
「え、ネット?さっき会った時言ってくれればよかったのに」
『今さっき情報が解禁されたの、早く見て、見なさい!』
そう言って、彼女は電話を切った。私は言われた通り、スマートフォンでSNSを見る。そして、すぐに見つけた。彼女が突然電話してくるのも当然のことだった。
「空飛びの少女、再アニメ化?」
『空飛びの少女』が、6年ぶりに再度アニメ化をすると情報が解禁されたのであった。思わず拳を握る。
また『空音』に出会える。また『空音』になれる。また私は、空を飛べる!
「やった」
夜空の下で、私は一人歓声をあげた。
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