第13章 同情、現状、日々炎上④

稀莉「次のお便りね。ラジオネーム『スパイスパイラル』さん。『イベントグッズ買いました。ジョッキでビール最高ですね!Tシャツも普段から着ています。さて、イベントでは匂いを聞いたり、失恋した人を罵倒したり、アラサーが萌え台詞を言ったり、終始笑いっぱなしのひどすぎる(誉め言葉)イベントでした。特に劇団・空想学の即興劇がヤバかったです。書類でカップル契約更新する稀莉さんに、闇な一面が見えた気がします。まだ暑い日が続きますが、体調を崩さないように気を付けて!』」


奏絵「グッズ買ってくれてありがとー。おかげさまでほとんどのグッズが売り切れになりました」

稀莉「残ったのは団扇ぐらい……」

奏絵「落ち込まないで、夏には重宝したから」

稀莉「コスト抑えられるからって、調子乗って大量生産しちゃったらしいわ。余ったものは合同イベントでも売る予定だから、来年の夏に備えて従順なリスナーさんは買いなさい」

奏絵「『もうこれっきり!』、『はい、破りますー』という文字が裏表に書かれた、メンタル減る団扇だから、合同イベントでの使用は禁止します」

稀莉「そういえば、カップル契約更新の寸劇もやったわね」

奏絵「途中で解約できないとか、契約違反でしょ」

稀莉「そんなことないと思うわ。世のカップルは契約書をかわすべきだと思うの。色々と取り決めをしないから争うのよ。気持ちは目に見えないからしっかりと記載しないといけないの」

奏絵「取り決めはともかく、気持ちを伝えるのは昔だったら、ラブレターとかだったのかな。今だとメールや、トークアプリでのやり取りの言葉とか」

稀莉「電子文字だとどこか安っぽいのよね。気持ちが薄いというか」

奏絵「現代っ子が言うか!でも、気持ちはわかる。ファンレターも直筆だと想いが詰まっているなと思うし、もちろんメールでも、印刷したものでも嬉しいですよ」

稀莉「よしおかんはラブレター貰ったことある?」

奏絵「あるよ、ある。可愛い女の子から貰ってね。CVは誰だったっけ?」

稀莉「またゲームの話」

奏絵「リアルではそうそう無いって」

稀莉「じゃあ、今度書いてきます」

奏絵「えっ……!?」


稀莉「では、ここで新コーナーの紹介です!」

奏絵「何と、先日行われたイベントで『もうこれっきりにして』のコーナーが終了となりました」

稀莉「もうネタ切れだったのよ。別コーナーともネタが被るしね」

奏絵「予告もなしに、突然イベントで終わりましたからね」

稀莉「なので、新コーナーというわけです」

奏絵「次回からお便り……募集しなくてもいいかな」

稀莉「何よ、乗り気じゃないじゃない」

奏絵「そりゃ、乗り気になるコーナーじゃないよ!」

稀莉「えー、私はいいと思うけど」

奏絵「そりゃ稀莉ちゃんは願ったり叶ったりのコーナーだろうね!」


稀莉「はい、新コーナー名は、どん!『稀莉ちゃんの願い、かなえたい!』です」


奏絵「わー、やりたくない!」

稀莉「『稀莉ちゃんの願い、かなえたい!』のコーナーは、佐久間稀莉が吉岡奏絵と結ばれるために、リスナーさんにプレゼンしてもらうコーナーです。例えば、『お二人が住むならこんな家ですよね?』、『新婚旅行にはここがお勧めです!』、『ここで告白すると必ず結ばれるらしいですよ!』などなど、私に役立つ情報、デートプラン、恋愛必勝テクを教えてください」

奏絵「なに、このコーナー」

稀莉「私が気に入ったものがあれば実演、実現します」

奏絵「私利私欲にまみれたコーナーすぎやしないかい?」

稀莉「もちろん、よしおかんの意見も聞くわよ」

奏絵「沖縄に行きたい!泡盛飲みたい!」

稀莉「はいはい、お金貯めて行ってくださいね」

奏絵「そんなお金ないやい。えーっと、スタッフがどうやら参考でアイデアを考えたそうなので、いや、本当考えなくていいんだよ、あーもう!どうせ拒否権はないんですよね!読みますよ、読みます」

稀莉「うむ」


奏絵「『おかん、稀莉ちゃん、こんにちは。私のお勧めの、距離をぐっと近づけるデートプランはずばりキャンプです。二人でテントを張り、火を起こし、食事を作っての共同作業。いいと思いませんか?夜になると、満天の星空が二人を祝福してくれます。寝る時は狭いテントに二人っきり。都会の喧騒から離れ、静かに二人で語り合う夜、最高だと思います。ぜひ実演してください』」

稀莉「はい、採用」

奏絵「嫌です!」

稀莉「えー、私キャンプ行ったことないから行ってみたい」

奏絵「今はまだ暑いけど、これから寒くなるじゃん」

稀莉「そこ?私と行くのはいいの?」

奏絵「あ、えーっと、二人きりは良くないよね!ぜひスタッフも連れて行きましょう。いや、行かないから!誰だよ、これ書いたスタッフ!出て来い!ス、スポンサー様!?」


稀莉「はい、次の参考です。『稀莉様、吉岡、こんにちは』」

奏絵「呼び捨てにしないー!」

稀莉「話の腰を折らないで。『私が稀莉様に提案していただくのは、愛してるよゲームです。ルールは簡単。先攻後攻を決め、向かい合い、相手の目を見ながら、愛してるよと交互に言い合い、先に照れた方が負けです。普段つれない吉岡にアタックするにはちょうどいいゲームじゃないでしょうか。ぜひ実践してください』」

奏絵「しない!」

稀莉「する!」

奏絵「スタッフ、乗り気すぎじゃない?このコーナー、何でもありすぎる。え、とりあえずやろうかって」

稀莉「はい、やりましょう。私から先攻!」

奏絵「待って、気持ちの準備が」


稀莉「愛してる」

奏絵「……」

稀莉「堪えたわね」

奏絵「愛してる。……あー顔をそらさない!」

稀莉「無理」

奏絵「愛してる」

稀莉「ああ、もう無理!!」

奏絵「ちょっと待って、弱すぎない?」

稀莉「だって、じっと見つめられて、愛の言葉なんて……照れちゃうじゃん」

奏絵「待って、そんなウブな反応されるとこっちも恥ずかしい」

***

 後で聞き返したくないほど、恥ずかしすぎるラジオになってしまったのであった。これでリスナーは離れないのか?新規リスナーは聞いてくれるのか?古参は飽きれていないよね?

 そして、構成作家考案の2つ目のプランがラジオで告知される。

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