第13章 同情、現状、日々炎上②
炎上話も終わったはずだが、東井のひかりんは帰してくれず、一緒にラーメンを食べに行くことになった。
お腹が空いていたのでちょうど良いが、この後も炎上話を追及されるとなると億劫だ。それでも一緒にラーメンを食べてくれる女性は貴重で、せっかくの誘いを断ることもできない。
「最近は油そばにもハマっていたけど、汁ありのラーメンもやっぱりうまいや」
「疲れた体には、油が染みるねー」
「でしょでしょー」
最近は辛い物にもハマっていて吉祥寺のお店によく通っているとか、コンビニの辛いラーメンはあまり辛くないとか、アラサー女子2人がラーメン話に花を咲かせる。
「佐久間さんってラーメン食べなそう」
「あー、食べなそう。稀莉ちゃんお嬢様だしね。コンビニにもまともに行ったことなさそうだったし」
「嘘!?東京に住んでいてそれって」
「家にメイドもいたしさ」
さらに驚く顔の同僚が見られる。
「ってか、家にメイドがいたって、実際に見てきた風な言い方、あれれ」
「あっ」
「本当にどこまで仲が進展しているのか、ふふふ。お母様にも会ったことあるの?あの女優の」
「お母様って……。あるよ、ある。綺麗な人だったね」
「親公認ってわけね。佐久間さんも綺麗になるから逃さないようにね」
「そうやって茶化して」
私をイジルのにイキイキしている。何とか反撃したいところだが、ずっと彼女のターンだ。
「最近、佐久間さん可愛いよね。垢抜けたのかな~と思っていたけど、そういった事情があったわけか」
「そういった事情って」
「恋をすると女の子は可愛くなるってわけよ」
「はあ、そうっすか」
「これもかなかなのおかげだね!」
「おかげと言われても困るけど!」
稀莉ちゃんは可愛くなったのかな……。元から可愛かったからその変化に私は気づいていない。そもそも、あの子、私にラジオで再会する前から好きだったんだよね?もしかして最初から気合入れていた?それだと気づけないが。いやいや、私は何を真剣に考えているっ!
「ねーねー、最近私可愛いと思わない?」
一人困惑しているところに、すかさず東井さんはトスを上げる。絶好球を上げられたら、アタックせずにはいられない。
「恋でもしているんですか?」
「してねーんだなこれが」
「何なんでい!どうして聞いた!いや、ひかりんが可愛くないってわけじゃないよ。可愛い、可愛い」
「あざっす!」
「しかし、アラサーに可愛いというのは誉め言葉なのだろうか」
「いいの、いいの。女の子はいつでも可愛くありたいものだから」
「女の子、ね」
「おい!今は恋は別にいいの。ともかく玉の輿にのる!どっかの社長知らない?医者、弁護士なんでもオッケーだよ」
「知らないっすねー」
いたら私が知りたいわ!ぜひお便り欲しい。
なんて、以前は冗談が言えたけど、最近は言えなくなっている自分がいる。
「そういえば、ひかりんの番組も合同イベントに出るんだよね?」
「おうおう、そうだった。『これっきりラジオ』も出るんだよね」
「うん。合同イベント初めてでさー、どういうことやるの?」
「負けないからね」
「え、対決するの合同イベントって?」
「ふふ、教えてあげません」
「けちー」
その後聞くも何も教えてくれなかった。本当に何をするんだ、合同イベントって。皆で集まって合唱コンクール?演劇でもしちゃう?運動会?
「先に謝っておくけどさ、あやすけが迷惑をかけるからごめん」
「あやすけ?あー、彩夏さんか」
あやすけこと、芝崎彩夏。東井ひかりと4年に続くラジオ番組を担当しているパーソナリティで、声優だ。私と同い年で、一見すると綺麗なお姉さん。
「あの子はやべーよ。場を乱しに乱して、爆弾を投げ込んだと思ったら、いつの間にか自分は遠くにいて、自分は良い人!と締めくくるヤバい奴」
「そういうところあるよね。独自のワールド持っているのに、意外と常識人でもある」
「そうそう、それにあやすけは下ネタどんどん言ってくるからね~。あの子の発想と妄想は本当に変態」
「稀莉ちゃん、下ネタ苦手だしな……」
「だからこそ、一緒にラジオやって楽しいんだけどねー」
「確かにあやすけは飽きない人だね」
「でしょー」
稀莉ちゃんは苦手な人だろう。どう対応したらいいだろうか。遠ざけるのも悪いし、照れる稀莉ちゃんもまた可愛いしな。って、私がどう守ろうか真剣に考えちゃっているあたり、私はおかんで、保護者なんだな……。
その後も話題は尽きずに、楽しく話していたが、食べ終わって居座るのもお店に迷惑なので、解散することになった。
お店から出ると、外の風が少し涼しい。いつの間にか夏の権威が弱まり、秋の気配が漂い始めている。季節は移ろい、気づけばラジオ番組開始からもう半年になろうとしている。
「まぁ頑張ろうね。炎上もエンジョイせよー」
手を上げ、明るく振る舞う東井さん。名前の通り、眩しい人だ。
「えっ、もしかしてそれがずっと言いたかった?」
「うん、盛大な前置きだったっしょ」
「何も伏線がない!」
「ふふ、恋は突然さ」
「恋してないくせに」
「突然、白馬を乗った王子様が現れるんだから!……金塊を持ってね」
「金目当て!」
炎上もこう笑い飛ばしてしまえば、気が楽になる。
茶化しているようで、励ましてくれていたんだなと、東井さんの優しさに感謝する。
「ありがとね」
何のこと?といった顔でとぼける彼女。本当に、この人には敵わない。
そして、明日はラジオ収録の日。
炎上して以来の『これっきりラジオ』の現場だった。
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