第12章 待たね、ソワレ⑦
***
奏絵「さて、夜公演もそろそろ終わりの時間です」
お客さん「えー」「今、来たばっかりー」「終わらないで―」
稀莉「ごめん、私たち、もう体力の限界なの」
奏絵「体力があれば延々と続けたいけど、すみません。でも、終わってほしくないという声は嬉しいですね。」
稀莉「そうね。あっという間だったわね」
奏絵「2公演にびびっていたけど、全然話し足りない!全国ツアーやろうぜ、全国!」
稀莉「さすがにそれはネタが持たない!」
奏絵「そしたらゲストを呼んで……」
稀莉「他力!でも、今日はやりすぎた面もあるわね」
奏絵「そうだね、特に百合営業やりすぎた。営業だからね、営業。ラジオを聞かずに今日初めて会場に来た人は勘違いしそう」
稀莉「実際の放送を聞いたら驚くんじゃないかしら。もっと不仲なのでそこのところ、宜しく!」
奏絵「いわゆるツンデレです」
稀莉「違う!……とも言えない」
奏絵「マジのツンデレだと!?」
稀莉「ではでは、最後の挨拶の前にここでお知らせです!」
奏絵「スルーされるのもデレ期ですね」
稀莉「ごちゃごちゃうるさいわね。あんたも読みなさい」
奏絵「はい、えーっとお知らせは全部で3つ!」
お客さん「おー」
奏絵「一つ目、どどん。吉岡奏絵と佐久間稀莉がお送りするラジオ『これっきりラジオ』は毎週火曜21時マウンテン放送にて放送中です。特に改編の影響も受けません。インターネットラジオでは1週間限定で聞けますので、聞き逃した人はぜひこちらでも聞いてください」
稀莉「知ってた。そんなあなたもここからは新情報!」
お客さん「おお」
稀莉「はい、スクリーン!マウンテン放送合同ラジオイベントに私たち『これっきりラジオ』のメンバー2人の参加が決定しました」
奏絵「はい、拍手!」
お客さん「パチパチパチパチ」
稀莉「こちらは冬に行われるイベントで、全部で5組の声優ラジオ番組が参加予定です。今後、ラジオ番組内でどんどん情報を解禁していきますので、毎週逃さず聞いてくださいね」
奏絵「イベントが終わって、またイベント!他のパーソナリティと会えるの楽しみですね」
稀莉「橘唯奈は勘弁してほしいです」
奏絵「あー、植島さんが手で丸をつくっている。おそらく唯奈さんも参加です」
稀莉「私、欠席してもいい?」
奏絵「駄目です」
稀莉「仮病をつかいます」
奏絵「無理やり連れていきますんで、皆さん安心してくださいね」
稀莉「続いて、最後の情報!」
奏絵「第1回放送から第20回までをまとめたラジオCDが発売されます!」
お客さん「おおおお!」
奏絵「さらに商品限定で、えっ、私たちの旅の様子が収録されます?まじですか、何処に行くんですか?」
稀莉「沖縄!」
奏絵「絶対に予算が下りない!青森でどうよ」
稀莉「何であんたの里帰りに付き合うのよ!」
奏絵「ハハハ、これから行先も決めますので、楽しみに待っていて下さい」
お客さん「パチパチ」
稀莉「合同イベントに、旅収録……、休む暇ないじゃない」
奏絵「ええ、これっきりラジオはこれからもどんどん走っていきますよ!」
稀莉「しょうがないわね。皆、振り落とされず、付いてきなさいよ!」
***
発表も終わり、締めの言葉の時間だ。
「では、私から挨拶を」
長くて、短かった一日が終わる。
「今日という日が来るなんて、不思議な気持ちでした」
本当に不思議な気持ちだ。またイベントで人の前に立つなんて思っていなかった。ラジオのイベントで。それも満員の会場で。
「私をラジオで知った人も多いでしょう」
ほとんどの人が最初は、稀莉ちゃんが目当てで聞いたはずだ。
でも今は違う。
「最近はちょいちょい役名のあるキャラを出してもらっていますが、私は一発屋でした。終わった声優でした。声優を辞めることも考えていました。いい歳ですもんね。何が幸せなんだろうと本気で考えていました。でもこのラジオに出会い、そして稀莉ちゃんに出会い、私は変わりました」
私を受け入れ、いや私たち二人の掛け合いを好み、たくさんの人が支持し、応援してくれた。
「ラジオの収録は毎回面白くて、そして稀莉ちゃんと話すのは本当に楽しいんです。陳腐な言葉ですが、今、私は幸せです」
幸せすぎて、疑心暗鬼になるほどに。しかし、それも断ち切った。断ち切られたんだ。
「スタッフの皆さん、いつもありがとうございます。私たちが好き勝手できるのはスタッフの皆さんのおかげです。本当に感謝しています。リスナーさん、会場に来れなかった人も本当にありがとう。応援の言葉が私の力になります。皆の言葉届いているよ。そして、何よりも誰よりもありがとう、稀莉ちゃん。君のおかげで私はここにいます。これからも宜しくね」
嬉しそうな顔を私に向け、手を叩く。
お客さんからも温かい拍手が溢れ、思わず涙がこぼれそうになるのをぐっとこらえる。
「本当に、本当にありがとうございました!よしおかんこと、吉岡奏絵でした!皆、大好き!!」
また割れんばかりの拍手が生み出され、歓声が会場を包む。今度は涙を抑えられなかった。
そんな泣き虫な私を、隣の彼女は温かい目で見ながら、優しい声で話し出す。
「彼女は私の憧れでした」
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