第12章 待たね、ソワレ②
大きな会場ではないが、満員だと迫力が違う。
はじめから「開幕」を「かいまふ」と噛んでしまったわけだが、それもこのラジオらしい。
かくして、昼公演が始まったのであった。
***
奏絵「いやー、本当にたくさんのお客さんですね」
稀莉「スタッフの盛大なドッキリだと思っていたから、まさかこんなたくさんの人が集まるなんてね」
奏絵「グッズまで作ってドッキリだったら泣くよ、本気で」
稀莉「グッズと言えば、ほら」
奏絵「皆さん、イベントTシャツ着てくれていますねー」
稀莉「お買い上げありがとうございます」
奏絵「満面の笑顔!でも、本当にありがたい」
稀莉「ホワイトとスカイブルーが混じっていて、舞台の上から見ると綺麗ね」
奏絵「ええ、夏っぽい青空みたい」
稀莉「ぜひ、見せてあげたいけど、上がってもらうわけにはいかないからね」
奏絵「あとで何枚か撮ってSNSにあげます」
稀莉「イベントTシャツといえば、私たちもほら」
奏絵「じゃーん、着ています!」
お客さん「まわってー」
稀莉「Tシャツでまわるか!素敵なドレスならともかくTシャツは360度見る必要ないわ!」
奏絵「くるくるー」
お客さん「「おー」」
稀莉「あんたはまわるな!」
奏絵「いやー回って見たかったんだよね。私、いつも見る側なんで。あざーす」
稀莉「自由なやつめ。で、天使の私はホワイトのTシャツ」
奏絵「はいはい、稀莉ちゃんマジ天使」
稀莉「よしおかんのはスカイブルー、青色ね」
奏絵「青森出身なので、青で―す」
稀莉「あの県はどっちかというと、赤のイメージじゃない?」
奏絵「どうせ林檎しかないよ、くっ、都会出身め」
稀莉「それにしても、イベントシャツって私たちもありがたいよね」
奏絵「ええ、イベントの時って服装に悩むんです。わざわざ買うこともあるんですよ。あとは先輩のお古を貰って着たこともありましたねー」
稀莉「一人ならいいのだけど、複数人で立つとなると、被らないかを心配するわ」
奏絵「ボーダー被ったりすると、あちゃーって感じになりますね」
稀莉「困ったらワンピース」
奏絵「声優はワンピース着がち!」
稀莉「だってウケがいいのよ、ウケが」
奏絵「ウケとかいうな」
稀莉「だって、オタクの皆さんは清楚なワンピース好きでしょ?」
お客さん「好きー」「大好き!」
稀莉「でしょ?」
奏絵「2列目の人、腕組んでめっちゃ頷いているよ!どんだけ好きなの!」
稀莉「はは、ちょろいやつめ!」
奏絵「お客さんをチョロいとか言わない!」
稀莉「はいはい。今回の『これっきりラジオ』のイベントは、昼は公開録音となります」
奏絵「後日、ラジオで放送されるから、ぜひ復習してね」
稀莉「で、問題が」
奏絵「夜は、録音も録画もしません!」
稀莉「やりたい放題じゃない……」
奏絵「ふへへ、何でもしちゃうぞ」
稀莉「恐ろしい」
奏絵「でも、昼も遠慮せず面白くやっちゃうので、昼公演だけの人も安心してください」
稀莉「私は安心できない!」
奏絵「はい、では早速最初のコーナー」
稀莉「もうこれっきりにしてー!(エコー)」
奏絵「はい、このコーナーではリスナーさんに辞めたいのに辞められないことを募集し、私たちが的確にアドバイスしてあげるコーナーです」
稀莉「的確にアドバイスしたことあったっけ?」
奏絵「あったよー」
稀莉「いつよ」
奏絵「……今回はイベントということで、事前にWebでアンケートをとりました」
稀莉「なかったわけね」
奏絵「はいはい、行くよー。読んで」
稀莉「仕方ないわね。ラジオネーム『閃光の線香花火』さんから。会場にいますかー、いたら手をあげなさい」
奏絵「えーっと、あっ、いたいた。後ろから5列目の彼ですね」
稀莉「『私は大学の食堂の食券売り場でいつも悩み、悩みに悩んだあげく、毎回カツカレーを頼んでしまいます。そろそろ別のメニューを楽しみたいです。カツカレーはもうこれっきりにしたい!』。いやいや、他のも頼めばいいじゃん!」
奏絵「わかる!」
稀莉「ええー」
奏絵「私も仕事帰りに、コンビニ寄って、今日はどのビール飲もうかなって悩むんですよ。たまには違うのを買って冒険するんだけど、これがいまいち美味しくないことが多い。で、結局いつも買う銘柄に落ち着く」
稀莉「私はお酒を飲まないからわからない!」
奏絵「稀莉ちゃんだって、今日はどの紅茶、お茶飲もうかなーと悩むわけじゃん。ついつい新発売!とか買っちゃうけど、やっぱりいつものがいいなーとなるわけじゃん」
稀莉「いや、ないけど」
奏絵「ああ、そうだ!この子、ロクにコンビニとか行かないんだった。それに家にメイドがいるんですよ、メイド!メイドさんがいつも考えてくれているんですよ」
稀莉「確かにけっこう味変えてくれるわね。って、うちの話をするなー!」
奏絵「いつか、じっくりメイドさんの話はするからね」
稀莉「私のことはいいの、『閃光の線香花火』さんの悩みを解決してあげないと」
奏絵「別に良くない?毎日、カツカレー頼む人になろうよ」
稀莉「おばちゃんに顔を覚えられるわね」
奏絵「それか、誰かと一緒に行って、お互いのを半分ずつ食べるとか」
稀莉「駄目よ、閃光の線香さんは彼女がいないからそんなことできないわ」
奏絵「ひどっ、閃光さんに謝って。彼女いるよ、きっと。あー、閃光さん×マークしなくていいから」
稀莉「じゃあ二つ頼むことにしなさい。はい、次」
奏絵「雑な解決!?」
稀莉「いいの、今日はスピード勝負よ。たくさんのコーナーがあるのだから」
奏絵「そうっすね。閃光さんありがとー。では次のお便り、『キリキリの毒舌を一日中浴びたい会長』さんから」
稀莉「はい、次いきましょうー」
奏絵「おいおい、いますか会長さん?うーん、いなそうですね」
稀莉「ますます読む必要ないじゃない」
奏絵「公開録音だから、きっと聞いてくれるから。『私は、アイドル声優さんの追っかけを辞められません。もう30歳になるのですが、周りは結婚をして、家庭を持ち、子供が生まれた人もいます。ふと我に返るのです。20代を声優イベント、ライブで費やしてしまって良かったのかと。そして、アイドルにはいつか終わりが来ます。みゆたんは5年近く頑張っていますが、いつかグループから卒業したり、解散したりするかもしれません。その時、私だけが取り残された気持ちにな』」
稀莉「長い!長いし、重い!めっちゃ重い!イベントでこんな後ろ向きなの読ませるなー!」
奏絵「まだ半分だよ?」
稀莉「マジで?」
奏絵「ここらで辞めておきましょうか」
稀莉「ええ、それが懸命よ」
奏絵「でも、これは共感できる人多いかもしれないですね。結婚して、子供が生まれて~って幸せに見えますよね」
稀莉「ふつうはそうよね」
奏絵「でも、今は多様化の時代なんです。結婚しなくても幸せ!子供がいなくても不幸じゃない!仕事に打ち込むのも、趣味に没頭するのも幸せなんです!オタクライフ満喫して何が悪い!」
稀莉「気合入りすぎじゃない?」
奏絵「自分に言い聞かせているんですよ……、いいんだ結婚できなくても」
稀莉「辛い思いしているのね……」
奏絵「実家からの電話があったと思ったら、9割結婚はいつするの?って話ですよ。あーやだやだ」
稀莉「皆さん、こんなアラサーになっちゃ駄目ですよ」
奏絵「うるせー。『キリキリの毒舌を一日中浴びたい会長』もいいんです。好きなことを貫き通しましょう。いつか表舞台から消えてしまうかもしれませんが、みゆたんはあなたの中で生き続けるんです。ライブ楽しかったですよね?イベントで爆笑しましたよね?その思い出はずっと消えませんよ」
稀莉「そうね、アイドルは消えても、どうせ次の人がすぐ出てくるわね」
奏絵「身も蓋もない!」
お客さん「「わはは」」
稀莉「もう次のコーナー行くわよ!」
奏絵「番組にもどしどし送ってねー。もうこれっきりにしてー!でした」
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