第二部
第7章 打ち上げは食べ放題ですか?
第7章 打ち上げは食べ放題ですか?①
「私はこの作品に出合い、たくさん成長させてもらいました。難しい時代設定でしたが、ヒロインの千鳥として精一杯演技することができたと思います。毎回アフレコは大変でしたが、今では良い思い出で、『無邪鬼』という素晴らしい作品に携われたことは誇りです」
新宿にあるホテルの宴会場に大勢の人が集まっている。
結婚式、記念授賞式?違う。今日はアニメの作品の打ち上げなのだ。
壇上の上で話すのは今をときめく女子高生声優、佐久間稀莉だ。
女優の母親譲りの才能だろうか、抜群の演技センスを持ち、主要キャラを何役も射止めている実力派。けれども演技に対して驕ることもなく、音響監督に何度も食いつくストイックさを持つ努力家でもある。
彼女こそ、スポットライトの下で輝くのにふさわしい女の子だ。可愛く、よく通る声は世界を魅了する。
そんな彼女が、美声の天使が、私、吉岡奏絵のラジオのパートナーである。
「今日はこのような広い会場で、素敵な打ち上げに参加でき、とても嬉しいです。たくさん美味しいお食事があるということでぜひ皆さんも楽しんでくださいね。キャラクター、作品のモチーフの料理、飲み物もあるということで私も楽しみにしています」
彼女が微笑み、場が和む。
ステージに立つと別人みたいだ。いつも私と馬鹿言っている人に見えない。
「はい、ヒロインの千鳥を演じる佐久間稀莉さんでした。続いて、監督から乾杯の音頭をいただきたいと思います」
この春始まったばかりのラジオ番組、「これっきりラジオ」のパーソナリティを私たちは務めている。回数にして12回を超え、リスナーの数もどんどん増え、自分で言うのもどうかと思うが、かなり人気が出ている。
ひとえに稀莉ちゃんの元からの人気が大きいだろう。27歳アラサーの一発屋の私がファンを多数連れてきたなど言えない。
でも、元からの人気だけではない。番組が面白くなくては、初動は良くてもリスナーは去っていく。今の私たちは上手く行っている。年の差10歳の、凸凹コンビがかみ合い、面白い番組を作り上げている。
第1回目はつまらない放送だった。
それが変わった。変えた。私が「よしおかん」になることで、二人のかけ合いは勢いを増し、どんどん言葉が溢れていった。
「不仲」関係から始めた番組が、回を増すごとに「仲良し」度を増し、今では言いたいことを言い合える良き関係となっている。最初は普段と違う稀莉ちゃんの様子をファンは不安がっていたが、今では毒舌の稀莉ちゃんも好評で受け入れられている。
監督の挨拶が終わる。
「それでは皆さんグラスをお持ちください。乾杯~!」
「「乾杯ー!」」
3か月、12回の間に色々なことがあった。
ラジオ番組のことだけではない。私自身、壁にぶち当たり、失敗した。けして自分一人では乗り越えることができなかった。
今も「これっきりラジオ」があるのは、彼女、稀莉ちゃんがいるから。
そして、9月には初のイベントも予定されている。これからも道はまだまだ続いていくのだ。大忙しだ。
まぁいい、これは嬉しい忙しさなのだから。
そろそろ思いにふけるのはよそう。今日は打ち上げだ。ラジオのことばかり考えていたら、作品に申し訳ない。
今は勝利の美酒に酔い、たらふく喰い、満たされるのだ。
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