第5章 また今日もジングルが流れる③

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「何で、吉岡さんは声優になろうと思ったのですか?」

「そうですね、元々アニメや漫画が好きだったのもあるんですが、きっかけはラジオですかね」


「ラジオですか?」

「そう、ラジオです。私は地方出身で、地元が嫌で嫌で大学は東京に出てやる、都会の街に繰り出してやると意気込んでいたんです。あっ、今では地元大好きですよ。都会に夢見ていた少女だったんですね、私も。で、受験勉強を真面目にしていたのですが、その息抜きがラジオでした」


「ラジオが息抜き」

「はい、部屋にテレビもなかったのでラジオだけが娯楽でした。その中でも毎週かかさず聞いていたラジオがあったんです。それが本当面白くて、MDに録音して通学時にも聞いていましたよ」


「そんなにラジオにハマっていたんですね」

「良くも悪くも地方なんで、他に娯楽がなかったんですよ。それに受験生でしたのであまり遊べなかったんです。それで、ラジオばかり聞いていた。息苦しい受験勉強の中で、ラジオだけがほんと癒しの時間でした。それで、ある日ふとその面白いラジオは誰がやっているだろうと調べたら」


「声優だったということですか」

「その通りです。声優さんがラジオをやるなんて思っていなくて、知った時びっくりしましたよ。それまでは声優はアニメの中だけだと思っていましたから。こうやって自分の声を活かす方法があるんだーと感心しました。ちょっと自慢ですが、私も学生の時、友達や先生に声を褒められることが多かったので、もしかしたら自分の声も電波に乗せて届けることができるんじゃないかな、と夢見ちゃいました。一回だけ自分で録音して、パーソナリティごっこしたことあるんですよ。まぁ聞くに堪えないものでしたけど。プロってすごい、私なんかじゃラジオで喋れないと痛感しました」


「でも、その夢が叶ったわけですね」

「ええ。ラジオはまだアシスタントで、メインではないんですが、本当に楽しいんです。あの時の私のように学生さんが聞いてくれている、頑張っている勉強の息抜きになっていると思うと、嬉しくて、応援したくなりますね」


「いつかメイン番組を持ってみたいですか」

「はい、そうですね、いつか持ってみたいです。ただ今はアニメの声優の仕事をもっともっとやっていき、自分の演技の幅を広げていきたいという気持ちです。いずれ、いずれ叶うといいなと思っています」


「きっといつか叶いますよ」

「そうだと嬉しいですね」


「その時は一人でやりたいですか」

「うーん、どうでしょう。一人だとネタが尽きそうなので二人がいいですね。それか毎回ゲストを。いや、生意気言ってすみません。形は何でも、人数は何人でもいいです。ともかく声を運べたらいいです」


「応援しています」

「ありがとうございます」


「本日のインタビューは『空飛びの少女』で主役の空音を務める吉岡奏絵さんでした。本日はお忙しい中、ありがとうございました」

「ありがとうございました」

~~~


 

 10分と私は言ったのに、30分後に「吉岡さんいいですか?」とノックをし、片山君が病室に戻ってきた。

 私の真っ赤な目には触れず、片山君はいきなり私に頭を下げた。


「ごめんなさい」


 謝るのは私の方だ。何故彼が謝るのか。


「吉岡さんが体調悪いのに気づかずごめんなさいっす。俺、マネージャー失格っす」


 失格は私の方だ。プロとしてなってないのは私で、私の体調に彼は何の責任もない。そう弁明するも彼は言葉を続けた。


「それでも俺は駄目駄目だけど、吉岡さんのマネージャーっすから。失敗は俺の失敗だし、役者さんの悲しみは俺の悲しみっす」

「真面目ですね。頭上げてください」


 片山君がゆっくりと顔を上げる。彼も泣きそうな顔をしていた。


「ごめんなさい、ご迷惑をおかけしました。私、プロ失格です。悪いのは私なんです。雨に濡れて帰って、体調管理を怠って、最近仕事が増えて調子にのっていて、全部、全部私のせいなんです。本当にごめんなさい」


 ベッドにいながらも、今度は私が頭をさげる。


「吉岡さん、頭を上げてくださいっす。そもそも俺が普段から仕事できていないのがいけなくて」

「いやいや、私が」

「俺が」

「私が」


 片山君は困った顔で苦笑いする。


「もうお互い謝るのは辞めましょう」

「わかりました、これで終わりにしましょう。ごめんなさい」


 片山君が椅子に座り、お互いの謝罪タイムは終了する。

 もう謝らせてくれないなら、向き合わなくてはいけない。


「私が倒れた後のことを教えてください」


 起きたことを悪夢のまま終わらせてはいけない。事実に向き合わないと責任を感じる片山君に、スタッフに申し訳ない。そして、一人残してしまったあの子に。


「それじゃ……話しますね」


 普段は気楽そうな片山君が気を遣いながら、ゆっくりと話を始めた。

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