第4章 番宣大合戦!⑧
***
唯奈「はい、では告白劇場の判定に移りましょう」
奏絵「どっちかな、どっちかな」
稀莉「えっ、本気で勝者決めるの?」
唯奈「当たり前よ、どっちが稀莉のパートナーに相応しいか決めるのよ」
奏絵「さあ、稀莉ちゃん!」
唯奈「稀莉!」
稀莉「……ぉヵ」
唯奈「へ?」
奏絵「うん?」
稀莉「よしおかん、勝者はよしおかんよ!」
唯奈「ああああああああああああああああああああああああああああああ」
奏絵「やったあああああああああああああああああああああああああ」
唯奈「なんで、何で私が負けたの稀莉」
稀莉「嫉妬するのがちょっと怖かったから。それにやっぱり気持ちを素直に言葉に出してほしいわ」
奏絵「リスナーさん、稀莉ちゃんに告白する時は直球でいきましょう」
稀莉「送ってきたら破るわよ」
唯奈「あばばばばばばば」
奏絵「これにて正式に、公式に、これっきりラジオの相方は『吉岡奏絵』ということで決定しました。稀莉ちゃんの相方は私。稀莉ちゃんのパートナーは吉岡奏絵!」
唯奈「あああああああ」
稀莉「唯奈はいつまでもうなだれない!」
唯奈「だって、だって」
奏絵「へへ、唯奈さん敗れた感想はどうですか?」
唯奈「あああああ、悔しい、悔しいわ」
奏絵「稀莉ちゃんはどうでした?」
稀莉「もうゲスト出演しません」
奏絵「私は楽しかったので、いつでも勝負に来ますよ!」
稀莉「メンタルが持たない!」
奏絵「そんな勝者、吉岡奏絵と佐久間稀莉がお送りするラジオ『これっきりラジオ』は毎週火曜21時に絶賛放送中です」
稀莉「ふつおたはいりません。破ります」
奏絵「ツンデレってやつですね」
稀莉「違う!」
奏絵「ゲスト出演の感想もどしどし送ってください」
稀莉「唯奈ファンもぜひ聞いてください!」
唯奈「以上、今回のゲスト、佐久間稀莉さんと、私の天敵、憎きライバル、吉岡奏絵さんでした。……いつか稀莉を取り返してやるんだから!」
奏絵・稀莉「「ありがとうございましたー」」
***
収録を終えた後、やたらニコニコとした笑顔の唯奈さんが手を差し出してきた。
「いい勝負だったわ」
私も笑顔で握り返す。
「ありがとう、収録楽しかったよ」
唯奈さんが強く手を握り、私にぐっと顔を近づける。睨みをきかせ、耳元で語り掛ける。
「調子乗るんじゃないわよ。今は稀莉を預けているだけなんだから。稀莉に変なことしたら絶対許さない」
笑顔のまま睨んでくる。怖い。
「何、二人で友情を育んでいるのよ」
稀莉ちゃんが手を握り合う私たちに文句を言う。これは川辺で殴り合った後の友情の誓いなどではなく、警告、脅されている光景なんですけどね。ジャンプして見ろよー、小銭の音すんぞ。
「ははー、さては嫉妬かな、稀莉ちゃん」
唯奈さんの手を離し、稀莉ちゃんを揶揄う。
「違う、断じて違うわ」
「ふふ、大好きだよ稀莉ちゃん」
「うなっ」
ど真ん中ストレートに弱いことを学んだので早速活用する。
「いてっ」
べしっと背中を叩かれた。
振り返ると鬼の形相をした唯奈さんが睨んでいる。
「お、お邪魔しましたー」
私は慌ててブースから退散したのであった。
天気予報では傘は必要ありません!と高らかに宣言していたのに、外に出たら雨が降っていた。
「あちゃー、嘘つきさんですね」
「乗っていきますか?」
傘を持って立っている稀莉ちゃんのマネージャー、長田さんが私に尋ねる。
「いいです、いいです。地下鉄まですぐなんで」
これぐらいの雨なら少しぐらい濡れても大丈夫だろう。
「遠慮しなくていいわよ」
稀莉ちゃんも私を止めるが、私は首を横に振る。
「じゃあせめて傘だけでも貸しますよ」
長田さんの優しい気遣いも私は断る。
「大丈夫です、今のよしおかんは無敵なので」
そういって私は雨の街中を駆けだした。
数分で駅について、地下鉄で数十分。家に着くまで30分もかからない。濡れても家ですぐシャワーを浴びればよいだけ。少し我慢すればいい。
ラジオが人気で、他番組にもゲスト。さらに声優の仕事も少しずつ増えていて、空音を演じていたあの頃みたいに充実していた。
今は雨に当たるのさえ気持ちよかったのだ。
……そう、私は調子に乗っていた。
雨足が強まる。
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