第4章 番宣大合戦!⑤

***

唯奈「今日は素敵なゲストがいらっしゃっています」

稀莉「こんにちは、これっきりラジオから出張してきました佐久間稀莉です」

唯奈「稀莉いらっしゃい~、来てくれてありがとう!」

奏絵「同じくこれっきりラジオからきました吉岡奏絵です」


唯奈「ちっ」


奏絵「おーい、稀莉ちゃんと私の態度全然違くない!?」

唯奈「何で敵に優しくする必要があるんですか?」

奏絵「ワタス、ゲストっす……」

***


 私は女子高生に嫌われる才能でもあるのだろうか。稀莉ちゃんといい、唯奈さんといい、女子高生はもっとアラサーの私に優しくするべきだろう。

 話は1時間前に戻る。




「「おはようございます」」


 稀莉ちゃんと一緒に挨拶をしてブースに入ると、制服を着た女の子がダッシュで寄ってきた。


「稀莉久しぶり! 今日は来てくれてありがとう! 稀莉とラジオ出るの楽しみで、楽しみで夜も八時間ぐらいしか寝られなかったわ」

「あはは……割と寝ているじゃん」


 稀莉ちゃんの手を握り、ぶんぶん上下に振る美少女。この子が18歳の女子高生声優、橘唯奈である。

 ライトグレー色のブレザーを着た、黒髪のツインテール。学校でもツインテールなのだろうか? 今どきアニメ以外で見ることは珍しい。たまにアニメのイベントでキャラに合わせて出演する声優もいるけれども、ほとんど見ることはない。

 背は165cmある私より少し小さいので155~160ぐらいか。稀莉ちゃん程のインパクトはないが、そこらのアイドルより圧倒的に可愛く、街で見かけたら三度見してしまう。


「はぁ~もう稀莉会いたかったよ~。稀莉成分補給―」


 そう言って稀莉ちゃんにむぎゅーっと抱き着き、「えへへ」とだらしない笑みを浮かべる。

 ふむ、仲良きことは美しきかな。


「やめ、やめて」


 稀莉ちゃんは熱い抱擁を嫌がり解こうとしているが、うん、仲が良いのだきっと。

 

 これが稀莉ちゃんが言った、見ればわかるといったことか。

 過剰な接触。べたべたされるのは苦手で、距離の近さが嫌だと言いたいのだろう、おそらく。

 蕩けそうな顔をしていた唯奈さんが急に顔を横に向けてきた。


「がるる……」


 私を睨んでる。威嚇する犬なのか、そうなのか。

 私はたまらず話しかける。


「どうも、吉岡奏絵です。今日は宜しくお願いします」

「現れたわね、私の天敵……」

「えっ」


 天敵? 初めて会ったはずなんだけど、いつの間に敵になったんだろう。


「私の稀莉を汚して……」

「汚されてないし、それに唯奈のじゃないから」


 稀莉ちゃんが即座に否定し、緩んだ唯奈さんの腕から脱出する。


「そうそう、私は稀莉ちゃんを汚したりなんて」


 ハッシュタグで『#稀莉ちゃんを汚すな』なんてタグも作られていた気がするが、あくまでそれはネタの範囲で……ね。


「稀莉は汚い言葉を使う子じゃないわ。綺麗な心の持ち主なの。何なのこれっきりラジオの稀莉は!? これっきりラジオではあなたに汚い言葉を言わされているの? ひどすぎない!?」


 あー、確かに毒舌まみれのキャラは今までの稀莉ちゃんのキャラでない。今までは清純なカワイイだけの女子高生だったはずだ。だから、私も最初の生意気な彼女の姿に、ギャップに戸惑った。でも、その変化は私のせいではないのだが。


「汚い言葉なのになのに、面白くて、笑っちゃう自分が嫌い……」


 笑ってくれているのね。何だか唯奈さんが憎めなくなってきた。


「それにこないだ二人で食事に行ったって放送していたわよね。ずるい! 私だって行ったことないのに! 無理やり連れていったに違いないわ」


 無理やりではない。だが、マネージャーの長田さんに協力してもらい、捉えようによっては「騙して」誘ったので、唯奈さんの言葉を否定しづらい。


「それにそれに、飲み物を飲ませてもらうとか、飲み物を交換するなんて……ずるい、羨ましい!」


 感情駄々洩れだ。稀莉ちゃんのこと好きすぎるだろ唯奈ささん。そりゃ天敵認定するわ、私のこと。私の悪行を許せないのも当然だ。


「だからだから、今日は天敵のあんたを呼んだのよ……。どっちが稀莉のパートナーに相応しいか決着をつけるためにね」


 ビシッと私を指さし、堂々と宣言する。


「吉岡さんは稀莉のラジオパートナーに相応しくないわ」


 私だって何で稀莉ちゃんの相方に選ばれたかわからない。人気だけなら女子高生声優・橘唯奈の方が適任だ。


「…………」


 でも、それでも。

 私にだって意地がある。


「いいわ、勝負にのってあげようじゃない!」


 まだ10回にも満たないラジオだ。それでも積み重ねた濃さは、熱意は負けたくない。


「私の許可を取らずに勝手に決めないでよ……」


 呆れ顔で稀莉ちゃんは嘆くが、私たちは聞く耳を持たない。

 こうして単なるゲストとして登場するはずだった唯奈独尊ラジオが、戦いの場と化したのであった。

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