第4章 番宣大合戦!④
まだ6月であるが、夏を控えて塩お菓子が続々とコンビニ店内に並ぶ。
塩飴、塩チョコ、塩クッキー、塩ドリンク、塩ポテチ。
塩ポテチって当たり前だろ!?と思うが、塩分2倍に増量!ということだ。現代人は、塩分過剰摂取なので本当にこんなに塩分が必要なのだろうかと陳列しながら考える。熱中症で倒れるよりはマシか。
「そろそろ上がっていいよ、吉岡さん」
初老の男性が私に声をかける。私がアルバイトするコンビニの店長だ。
「ありがとうございます、ここ陳列し終えたら上がりますね」
せっせと商品を置いていくと店長がまだそこにはいて、優しい声で話しかけてきた。
「最近、吉岡さんはイキイキしているね」
思わず目を丸くする。
「そう見えますか?」
「ええ。仕事が順調なのですか?えーっと役者の仕事でしたっけ」
『声優』と説明するのが面倒なので、役者の仕事をしていると店長には伝えている。声優も役者であることに変わりないので、けして嘘ではないのだが。
「順調なんですかねー」
曖昧な返事をする。
前の私に比べれば順調だ。
ラジオのレギュラーに、ゲームのキャラ。
こないだ受けたオーディションの返事はまだないが、仕事無しの時とは違う。予定帳に毎週文字がある安心感がある。
イキイキ、ね。充実はしている。これがベストとはいえないが、充足感はある。
それにしても私はそんなに顔に、行動に感情が出るのだろうか。周りから見てすぐわかってしまうなんて、まだまだ子供だな。
そんな子供な私を店長がニコニコしながら揶揄う。
「そろそろ新しい子を募集しないといけないですかね」
「大丈夫ですよ、まだまだ働かせてもらいます」
夢を追いかける仕事なんだから少しぐらい子供の方が良い。
コンビニの仕事が終わり、私服に着替え、真っ暗な外に出る。もうすぐ梅雨だが、今日は星がよく見える。ふとポケットの携帯を確認すると留守電が残っていた。
すかさずメッセージを聞く。マネージャーの片山君からだった。何やら報告があるらしい。慌てて事務所へ電話をかける。
もう21時だが、事務所には誰か残っているだろうか。
『はい』
出た。それはそれで事務所の勤務状況を心配してしまうが、今の私にはありがたい。電話に出たのは留守電を残した片山君だった。
『吉岡さん、役受かったす』
久しぶりに聞いた。
「受かった?」
その言葉を理解するのに時間がかかった。
『そうっす、役ゲットっす』
瑞羽に遭遇した、こないだ受けたオーディションの結果だった。
吉報だった。仕事だ、声優の、アニメになる仕事だ。
片山君にお礼を言い、携帯電話を離し、空を見上げる。
「よっしゃ!」
拳を空に突き上げる。
受かったのはメインヒロインではなく、サブヒロインだった。それでもほとんどの回に出演する、名前のあるキャラだった。
役名のある登場人物。レギュラーキャラ。
「はは」
思わず笑い声がこぼれる。
変わり始めている。波が来た。ラジオにゲームに、本職のアニメの役。
私はノってきている。
真っ暗だった世界が一変して私を照らす。
東京ではほとんど見えないはずの星空が、今日は私を祝福してくれるのか、やたら綺麗だった。
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