第3章 没続きはマジへこむ②
くるりとした目は可愛らしく、すっとした鼻はどこか大人っぽさを感じる。肌はつるつるで柔らかそうで、思わずぷにぷにしたくなる。
「何、私の顔見てニヤニヤしているの、気持ち悪いんだけど」
打ち合わせ中、台本そっちのけで佐久間さんの顔をじっと見ていたら彼女に怒られた。どうせ台本なんて空っぽでその場のノリだ。それならば佐久間さんの可愛い顔を見ている方が有意義だ。
「いいよ、その罵倒が聞きたかったんだよ」
目を細め、私を睨む。
年下に蔑まされるのも悪くない。いよいよ、私の精神も危ない領域に踏み込んでいる。
今日は休日なので佐久間さんは制服姿じゃなく、私服である。
上はグレーのゆったりとしたTシャツに、紺色のフレアスカートでカジュアルな印象だ。キャップを被り、黒色リュックを背負い、靴はスニーカで動きやすさも重視。スポーティさも兼ね備えている。
一方、私は灰色のパーカーにジーンズで、サンダルである。女子力皆無。そこらへんのコンビニに買い物に行くご近所スタイルである。
最初は小奇麗な恰好だったけど、別に撮影するわけじゃないし、格好は気にしなくていい。音声配信だから声だけ綺麗であればいい。
「お便りたくさん来ているから選別しないとね」
植島さんが3つの箱を机に置き、そう告げる。箱の中には印刷したメールがたくさんあった。
「これが全部私たちのラジオ宛のお便りなんですか?」
数にして100以上。5回目にしてリスナーからのお便りが激増していた。
「面白いと思ったメールはこの一番右の赤いケースに入っているもの。微妙なのは真ん中、残念ながらボツは左の青いケース」
「うへ、選別してくれた赤いケースにもけっこうな数ありますね」
「今回読めなかったのは次回でいいから、ひとまず赤いケースのは全部読んで」
赤いケースから30枚近くの紙を取り出し、私達の前に置く。これを私たちが読んで、再分配するのだ。読みたいと思ったら赤に、判断に悩むなら黄色、ボツが青。信号機と逆なので、わかりづらい。
佐久間さんが読んで、早速青に入れた。
「って、おいおい。いちお二人で読んで何処に入れるか決めようよ。これはどうして駄目だったの?」
「面倒ね……。このお便りは下ネタが多くて嫌なの」
どれどれと紙を読む。うむ、これは私にとっては許容範囲の可愛いレベルの下ネタだが、彼女の顔は赤面していた。
「うん、確かにこれは駄目かも」
そういって青いケースにお便りを入れると嬉しそうな顔をした、わかりやすい。
しかし、こうやって選別していくのは一苦労だ。構成作家が全部選ぶラジオもあるのだが、植島さんはできるだけ私たちに選んでほしいとのことで、やるしかなかった。
人気が出るのも大変だなとニヤつく。これは嬉しい苦労なのだ。喜んで引き受けるしかない。
再分配し終える頃には1時間が過ぎていた。
「疲れたー」
文句を言う彼女だが、途中何度もくすくす笑っていた。
彼女もこんなにお便りを自分で読んで、選んだのは初めてとのことだった。いつも読まされているだけ。この選別作業もすっかり楽しんでいたのであった。
自分たちが深く関わるから楽しい。自分たちでつくるから楽しい。
受動的じゃ生まれない。自分たちが決めるから面白い。
だから、〈これっきりラジオ〉の台本は真っ白なのだ。決められていない。自分たちが真剣に考えなければいけない。
誰よりも真摯にラジオに向き合わなければいけない。
そんな意図まで汲んでいるなら植島さんは有能だと思ったが、欠伸をしながら打ち合わせをしている姿を見ると、そこまで考えているかは疑わしい。
「さあ、今日の収録を始めようか」
休日だからといってゆっくりしている暇はない。いや、残念ながら私はほぼ毎日休日なんだけどね。
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