第2章 呼び方を決めるのが初回のラジオっぽいよね③

「おはようございます」


 恐る恐る入った1回目とは変わり、意を決した3回目は堂々と入室する。


「おはよう、吉岡君」


 今日も眠そうな顔をした植島さんが挨拶を返す。髪があちこちに跳ねていた。

 私は軽く挨拶を返し、辺りを見渡す。

 奥の椅子に制服の女の子を発見した。


「おはよう、佐久間さん」


 携帯から少しだけ目を離し、私に「あ、どうも」と言葉を返す。

 無視ではないが、無関心。2回目の罵り合いで少しは変わったかなと思ったが、まだまだだった。

 いいさ、簡単に達成できちゃつまらない。彼女は私のことを嫌でも意識するようになる。


「それじゃあ、打ち合わせ始めようか」


 メンバーが揃ったところで、植島さんが呼びかける。




「え?」


 打ち合わせで私は一つ提案した。

 私の提案に、佐久間さんは驚きながらも、受け入れる。

 さあ、収録の始まりだ。


***

奏絵「始まりました」

稀莉「佐久間稀莉と」

奏絵「吉岡奏絵がお送りする……」

奏絵・稀莉「これっきりラジオ~」

奏絵「3回目になりました。2回目はどうだった、稀莉ちゃん」

稀莉「疲れた。すごい疲れた。家に帰ったらよく寝れた」

奏絵「はい、とても楽しかったようですね」

稀莉「えっ、私そんなこと言ってないよ!」

奏絵「吉岡さんに会えるのが楽しみで楽しみで、夜も眠れないほど1週間が待ち遠しかったみたいですね」

稀莉「そんなこと言ってないし、よく寝たっていったじゃん。もう勝手なこと言わないでよ、おばさん」

奏絵「稀莉ちゃん、27歳におばさん呼びは私が許しても、世間が許さないよ」

稀莉「じゃあ……おかん」

奏絵「へ?」

稀莉「おかん、そう、よしおかん!」

奏絵「稀莉ちゃん、何うまい事言ったって顔しているの?おかんって、私未婚のピチピチのギャルだよ」

稀莉「よしおかんー、ご飯まだー」

奏絵「こんな我儘な子産んだ覚えありません!?」

稀莉「はい、じゃあ今日も楽しくお届けするよ、よしおかんと佐久間稀莉のこれっきりラジオ!」

奏絵「勝手にラジオ名変えるなー! えっ、CM? イントロこれで終わり? 待って、待ってよ、訂正させてよー」

***



「よしおかん?」

「そう、佐久間さんは私のことそう呼びなさい」


 横で聞いていた植島さんがぷっと噴き出す。


「面白いね、よしおかん。おばさん呼びより、キャラ付けされてウケるね。よし、採用。佐久間君、イントロで自然によしおかん呼びになるように宜しく」

「あんたはそれでいいの?」


 彼女が不満そうな顔で私を見る。


「うん、いいよ」


 彼女が睨む。


「だって面白いラジオにしたいじゃん。それに私のことなんてほとんどの人が知らないんだから、こうやってキャラ付けしないとね。よしおかんって呼びやすくて、印象に残るし、名前を覚えてもらえる最高のニックネームだよ」

「……そんなことないし」

「えっ、何が。このニックネーム駄目かな?」

「な、何でもない。いいわよ、あんたが気に入っているならいくらでも呼んであげるわ、よしおかん」

 

 こうして『よしおかん』となった新しい私のラジオが始まった。

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