349話 水の街の冒険者ギルド

◇元ギルドの受付嬢マリー・ゴールドの視点◇


「はぁ……、暇だわ」

 私は水の街マッカレンの冒険者ギルドで、ぬるくなった紅茶をちびりと飲んだ。


 ほんの数年前まで、冒険者ギルドの受付嬢として忙しなく働いていたのが嘘のようだ。

 最近はハグレ魔物が街の住人を襲うようなこともなく、とっても平和。 


 私には大きすぎる楢の木でできた机の脇には、午前中に片付けてしまった数枚の書類の束が置いてある。

 机の上には硝子の名札がおいてあり、金の文字で



 ――『マリー・ゴールド』



 と書かれている。


(ガラじゃないんだけどなぁ……)

 

 前任のギルド長は、大魔王が倒されて平和になった途端に引退した。


「俺は南の島でダラダラ過ごすぞー!」

 と言って、ハーブン諸島に別荘を買って、毎日釣りをして過ごしているとか。

 羨ましい。


 後任は、副ギルド長か王都からの優秀な若手のギルド職員が来ると言われていたのだけど。


 ――王都で、水の街のギルド長の候補選定の場にて。


「確か貴女は、親しかったですね? それに水の街の領主代行であるフジワラ氏とも面識があるとか。であれば次のギルド長は貴女が適任でしょう。異論がある者はいますか?」

 

 ソフィア王女がそう言えば、逆らう者はいない。

 あっさりと私がギルド長に就任することとなった。


 てっきり、やっかみや嫌味を色んな人から言われると覚悟をしていた。

 が、思ったよりそんなことは全然なくて。


 どうやら私が受付嬢の頃に、のちの『水の国の英雄』が新人時代の担当をしていた影響らしい。


 光の勇者様と並んで、西の大陸の英雄である彼は「俺を育ててくれたのは、なんと言っても水の街の冒険者ギルドですね。あそこはベテラン冒険者とギルドの受付嬢も優しくて、いいギルドですから!」と色んなところで力説していたんだとか。


 おかげでいっときは、沢山の冒険者たちが水の街にやってきて大忙しだった。

 何の事件も起きない平和な街だと知ったあとは、観光だけして去っていったけど。


「ん~~~っ!」


 私は立ち上がって大きく伸びをした。

 ここ数日は、冒険者ギルドに持ち込まれるような大きな事件は全くない。


 ルーカスさんを始めベテランの冒険者は、火の国グレイトキースの大砂漠や木の国スプリングローグの風の谷などの迷宮での宝物トレジャークエストへ挑んでいる。

 そのためギルドの仕事は簡単な事務仕事だけだった。

 

 今日も代わり映えしない一日だろうなー、と思っていたその時。



「ぎ、ギルド長!!! 大変です!!」



 バン! とノックもせずに新人の受付嬢が部屋に飛び込んできた。

 

「どうしたの?」 

 普段は荒っぽい冒険者に絡まれても、笑顔でスルーできる子なのに。

 こんなに慌てるなんて珍しい。


「あ、あのっ! 新人冒険者に登録したいという人が現れまして!!」

「あら、こんな時期に? 条件を満たしているなら構わないわよ。それとも……何か問題があるのかしら?」

 冒険者になる条件は、街によって違う。

 

 王都や、危険な迷宮の近くにある街の冒険者ギルドは条件が厳しい。

 現在、魔の森がなくなり魔物がほとんど出ない水の街は、比較的条件が緩めだ。


 それでもいくつかの条件はある。


 幼過ぎる子供。

 年老いた老人。

 身体の欠損や、病気を患っており戦闘能力が著しく低い者。


 などは、冒険者の免許ライセンスを発行しない規則になっている。

 もちろん、目の前の新人受付嬢はそんなことは百も承知のはずだが。


「問題おおありです! 私ではとても対処できません! ギルド長、お願いですから来てください」

「……はぁ?」

 何かしら。


 まぁ、どうせ暇だから……と思い詳しい話を聞くより、直接出向くことにした。


 階段を降りて、一階の受付エリアに向かう。


 そこでは一人の若い冒険者……候補が、別の受付嬢に絡んでいた。


「だから『ストーン級』でいいですよ。冒険者免許ライセンスさえ発行してもらえたら」

「あ、あのですね! 貴方様は冒険者をされる必要は、全くないと思うのですが……」


「久しぶりに水の街に寄ったんで、ゴブリン狩りに行きたいんですよ。討伐の記録をつけてもらうには、冒険者免許ライセンスが必要ですよね?」

「い、いえ! 貴方様であれば免許など無くとも、こちらで対応いたしますので!」


「うーん、あんまり特別扱いしてほしくなくて……。俺の仲間の二人は『神鉄オリハルコン級』の冒険者になってるんですよ。折角だから、同じ級を目指してみようかなーって」


「それは水の国一番の冒険者『紅蓮の牙』のお二人ですよね!? もちろん、存じてますが貴方様は『水の国の英雄』なんです! いくらなんでもそのような御方に最下級である『石級』冒険者免許は発行できません!!」


「じゃあ、昔に取った『銀級』を再発行するのはどうです?」

「貴方様の『銀級』免許は『国家認定勇者』となった時に、失効しております!」


「それを復活とか」

「わ、私の権限ではできかねますので……」


「困ったなー、ソフィアにお願いしてみるかー」

「お、王女様にですか!? そ、それはご勘弁を!!」


 対応している受付嬢が、心底困った顔でおろおろしている。

 あの子も普段は、落ち着いている子なんだけど。


 相手が悪いようだ。

 というか、何で彼がここに……?




。何やってるの?」




 私は久しぶりに、冒険者ギルドで彼に声をかけた。




 ◇




「マリーさん、ギルド長になったんですか!?」

「一応ね」

 マコトくんが驚いている。

 そういえば言ってなかったかしら。


 場所は冒険者ギルドの応接室。

 身分の高い人が来た時に使う部屋で、普段はほとんど使用していない。


「ど、どうぞ、粗茶です。マコト様」

 さきほどマコトくんの対応をしていた新人のギルド受付嬢がお茶とお菓子を持ってきた。

 ガチガチに緊張している。


 ま、無理もないかー。

 なんせ大魔王討伐の英雄の一人で、水の国の王女様の婚約者だもの。


 粗相があったら、首が飛ぶ……、なんて考えているのかもしれない。


「ありがとうございます」

 昔に比べると愛想がよくなったマコトくんが、新人ちゃんに微笑む。


「よかったら座って一緒に食べます?」

「ひぇっ! とんでもないです!」

 マコトくんがマイペースなのは相変わらずだけど。

 普通、もてなす側が賓客と一緒に座らないでしょ。


「最近の水の街の様子とか聞きたいんですよねー」

「えぇ~、わ、私には荷が重いですぅ~」

 新人ちゃんが泣きそうな顔で、私の方をみた。


 ここにマコトくんを居させると、他の子たちが仕事にならないわね。


「ほら、マコトくん。行くわよ!」

 私は、マコトくんの腕を掴んで立ち上がらせた。


「え? マリーさん、仕事は大丈夫なんですか?」

「今日は大事な用事が入ったから終わり! あとは頼んだわよ!」

「は、はい! ギルド長、いってらっしゃいませ!」

「えっ? あれ?」

 よくわかっていないマコトくんを引っ張って、私は冒険者ギルドから出ていった。




 ◇ 高月マコトの視点◇




「はぁ~♡ やっぱり昼から飲むお酒って最高ねー」

 俺とマリーさんは、冒険者の時にたまに来ていた酒場バーへとやってきた。


 地下にあるこじんまりとした落ち着いた酒場だ。

 まだ昼を過ぎたばっかりなので、客数は少ない。


「いいんですか? 大事な用事っていうのは」

「何言ってるのよ。まさに今してるでしょ? 水の国の英雄を接待する大事な仕事よ」

「はぁ、なるほど」

「ふふふ、支払いは全て王家払い。タダ酒を飲み放題よ! マスター、おかわり!」

 マリーさんは、大衆酒場のような注文の仕方をする。


 昔と変わっていない。

 俺は懐かしさを覚えつつ、マスターがおすすめしてくるカクテルを注文した。


「で、マコトくんが突然水の街にやってきた理由だけど」

「さっき言った通り、モ……大賢者様と一緒に来てたんですけど、太陽の国から呼ばれて戻っちゃって暇になったからですよ」


「はぁ……、白の大賢者様が水の街にいらっしゃったことすら知らなかったけど。ギルドに一緒に来なくて良かったわ」

「何でですか?」


「おバカ。太陽の国の重鎮が突然来たら、新人ちゃんたちが卒倒しちゃうでしょ」

 コン、と額を小突かれた。

 言われてみるとそうか。


 ちなみに、さっきまでギルドの新人に対する絡み方も注意された。

 水の国だと『高月マコト』の名前と顔は売れすぎているため、知らない人からすると畏怖の対象らしい。


 なんだかなー、と思いつつも今後は注意しようと反省する。

 マリーさんは、二杯目のグラスを空にしていた。


「マスター、いつもの」

 すぐに三杯目を注文する。


「ペース早くないですか?」

「いいのよー、久しぶりにマコトくんと一緒に飲めるんだから。ていうか、全然会いに来てくれないじゃない」


「水の街にもちょくちょく顔だしますよ。ふじやんやマリーさんやルーカスさんが居ますし」

「もうじきソフィア王女との結婚式でしょー、そしたら気軽に出かけるなんて、できないんじゃないの~。『ゴブリンの掃除屋クリーナー』が偉くなっちゃってー」

 マリーさんに頭を腕で抱き寄せヘッドロックされた。


「まだそのあだ名を覚えてるんですか……」

 マリーさんの柔らかな胸に顔面が埋もれる。


「あー! なんか冷静になってるー! 昔は赤くなって可愛かったのにー!」

「そんなことはないんですけどね」

 正直、ドキドキはしている。


 多分、冷静に見えるのは『明鏡止水』スキルと『神化』のせいだ。


 くい、っとマリーさんがグラスを空にする。


「マスター! おかわりー!」

「あの……飲み過ぎでは?」

「まだまだ……へーきだからぁ……」

 マリーさんの呂律が怪しい。


 


 ――一時間後




「…………zzzzzz」

 マリーさんは、俺に寄りかかったまま眠っている。


「どうしよう……」

 俺は途方に暮れた。


 ここに放置するわけにはいかないし。

 かと言ってお店の中でずっと寝かしておくわけにも……。


「送ってやんなよ。マリーちゃんの家は前から変わってないから」

 渋いマスターが、シェイカーを振りながら俺に話しかけてきた。


「あれ? 引っ越してないんですか?」

 であれば住所は知っている。

 ギルド長になったというから、てっきりもっと大きな家に引っ越したかと思っていたが。


「じゃあ、支払いは……」

 俺が財布と取り出すと。


「請求書はローゼス王家に回すから大丈夫だよ」

「そういえばそうでした」

 俺は財布をしまった。


 その時ふと気づく。

 ここの支払いの領収書は、ローゼス王家――つまりソフィア王女にいくわけで。

 マリーさんと昼間っから飲みに行ってる件がソフィア王女の耳に入るのだろうか?


(いや、まさか。いちいち王女様がチェックしているはずがない)


 そういうのは会計の担当者がやっているだろう。

 俺はマスターにお礼を言って、マリーさんをおんぶしてお店を出た。


 冒険者の頃の身体能力ステータスなら苦労したであろうマリーさんを運ぶのは、神族になって簡単に運ぶことができた。




 ◇




 マリーさんの家は、水の街の繁華街を少し奥に入ったおしゃれなレンガ造りの集合住宅アパートだ。

 確かこの建物の二階の部屋だったはず。


 ここで気づく。

 鍵がないので入れない。


 鍵開けの魔法もあるらしいが、俺は使えない。

 というか犯罪に利用されるので、神殿騎士けいさつくらいしか使うことを許可されていない魔法だ。


「あれ~、気がついたら家に着いてる~」

 幸いマリーさんが目を覚ましてくれた。


「到着しましたよ。じゃあ、俺はここで……」

「何言ってるのよー、マコトくんも来るの~」

「え、えぇ~」

 俺は為す術もなく、マリーさんに部屋に連れ込まれた。




「ただいまー☆」

「おじゃまします」

 酔っ払ったマリーさんが、パタンとソファーに寝転んだ。


 俺は上着を玄関にあるハンガーにかける。


「水魔法・水生成」

 俺はコップに水を入れる。


「飲んでください、マリーさん」

「ありがとー」

 コクコクとマリーさんが水を飲み干す。



「よし! じゃあ、飲み直すわよ!」

 マリーさんが、ワインを取り出した。


「もう、寝たほうがいいのでは?」

「一緒に寝る?」

「……御冗談を」

「ふふふ」

 どこまで冗談かわからない顔で、マリーさんが怪しく微笑む。


 結局、マリーさんの家で二次会となった。




「はぁ~、水の街の冒険者ギルドって本当に暇になっちゃって。昔が懐かしいわー」

 マリーさんが何度目かわからない愚痴を言う。


「ゴブリンも居なくなっちゃんたんですね」

 かつて俺が頑張ったゴブリン狩りも、もはやできないらしい。

 魔の森が無くなって魔物たちは、散り散りにどこかへ去ってしまった。


 木の大森林の奥地。

 大迷宮の何処か。

 北の大陸へ大移動した魔物も多いとか。


 まぁ、魔物たちと人族で棲み分けができたのなら、それはいいことなのだろう。


「冒険者ギルドは商売上がったりよー。水の街は、ルーカスさんたちみたいな面倒見のいいベテラン冒険者がいるからいいけど、他の街は苦労してるでしょうね……」

「そうなんですね」

 俺の知らない所で、冒険者ギルドも色々大変なようだ。


 俺が心配げな顔をすると、ニカっとマリーさんが笑った。


「ま、平和なのが一番だから! こうやってマコトくんと飲めるわけだし。あれー? お酒が減ってないわよー? ほら飲んで飲んで」

「い、いま飲みますから! マリーさんこそ減ってませんよ」


「お、生意気ね。勝負するってことね」

「以前の俺と同じと思ったら、間違いですよ」


 なんせ神族になったのだ。

 もはやマリーさんとの飲み勝負で負けるはずがない。


 俺とマリーさんは、葡萄酒ワインの瓶を空にした。



「はい、じゃあ次のお酒ねー☆」

 マリーさんが新しい瓶を開ける。


 あれは……火酒ブランデー


「はーい、飲んで飲んで―☆ かんぱーい」

「かんぱい」

 グラスになみなみと注がれた火酒を飲む。


 喉、熱っ!!!


「あれー? マコトくん、ゆっくりだなぁー?」

「ま、マリーさん!? ペースが早っ」

「はーい、おねーさんが飲ませてあげるー☆」

「ひえぇ」



 結論から言おう。



 飲み勝負は完全敗北だった。




 ◇




 ……チチチチ


 窓の外から鳥のさえずりが聞こえる。


 眩しい日差しが、カーテンの隙間から差し込んでくる。


 気がつくと、眠ってしまっていたらしい。


 マリーさんはすぐとなりで「すーすー」寝息を立てて眠っている。


 神族になってお酒に強くなったと思ってたけど、普通にマリーさんに潰されたな。


 冒険者ギルドで鍛えられたマリーさんにはまだ敵わないらしい。


(あれ? ……でも酒場だとすぐに寝ちゃったのに)


 もしかして酔ったフリだったのだろうか。


 そういえば家についた途端に起きたし。


 俺は昨晩の記憶を思い出そうとして、二日酔いで頭がいたくなった。


 ……まぁ、いいか。


 とりあえず、マリーさんにとっては俺はヒヨッコだということがよくわかった。


「マリーさん、お邪魔しました」

 起こしては悪いと思い、俺は書き置きをして、おおよそのお酒や食べ物の代金をテーブルに置いた。


 がちゃりと、ドアを開けたところで



「……あれ? マコトくん、帰っちゃうの?」

 マリーさんを起こしてしまった。


「今日は用事があって」

「そっかー」

 マリーさんが少し寂しそうな顔をする。


「また来ますよ」

「そういう男は、大抵約束を守らないからなー」

 マリーさんが、寝起きでふらつきながらこっちへ来る。


「あっ」

 転びそうになったのを慌てて俺が受け止めた。


「だいじょ…………!?」

 声をかけようとした時、マリーさんに唇を彼女の口で塞がれた。


(あ、あれ……?)


 キスをされている、と気づくのにしばらく時間がかかった。


 背中に手を回される。


 キスは続いている。


 ドアは開きっぱなしだ。


 まだ朝早いので、通りに人影は見えないが……。


 マリーさんのキスは長い。


 俺は彼女の肩を抱いて、こちらへ抱き寄せたその時。



 ――ぞわりと、悪寒が走った。



(殺気!?)


 こんな街のど真ん中で!?

 ハグレ竜でも出たのか!? と思ったが、一秒後に理由は判明した。


「…………ねぇ、マコト?」

「たーかーつーきーくーん?」


 後ろから、聞き慣れた声が聞こえた。


 慌てて振り返る。


 般若の形相、というには可愛いが、それでも怒り心頭のルーシーとさーさんが近くに立っていた。


「や、やあ、ルーシーとさーさん。おはよう」

 声が裏返った。


 今日、水の街に迎えに来てもらう約束をしてたんだった。


「あらあら、今日は大賢者様を水の街を案内するんじゃなかったっけ?」

「ふぅーん、こっそりマリーさんと朝まで一緒なんだー?」

 二人に詰め寄られた。


「約束ってルーシーとアヤちゃんだったのね。ごめんね☆ マコトくんをお借りしちゃって」

「マリーさん!?」

 ここで口を挟むんですか!


「もう! マリーってば! マコトに手を出すなら一言言ってほしいわ!」

「そうですよ! 無断は駄目ですよ! マリーさん!」

 ルーシーとさーさんが、ぷんぷんと言う感じでマリーさんにも怒る。


 って、随分と軽い。


「一言言えばいいの?」

 マリーさんが首をかしげた。


「まぁ、マリーだし……」

「こっちの世界だとマリーさんのほうが先に高月くんと知り合ってるから……」

 どうやらルーシーとさーさんも、マリーさん相手は強く出れないらしい。


「ま、まぁ一緒に部屋で飲んでただけで、何も……さっきのキス以外は何もしてないから」

 我ながら嘘くさい言葉を口にした。


「うそつき」

「嘘はダメだよ、高月くん」

 案の定信じてもらえなかった。


「まぁ、言い訳はあとで聞くから。それより今日は月の国ラフィロイグに行く約束でしょ」

「ふーちゃんは時間に厳しいから、遅れちゃ駄目だよー!」

「ああ、そろそろ時間だね」


「じゃあね、マリー! 今度はジャンやエミリーと一緒に顔だすから」

「マリーさん! ばいばいー」

「行ってきますね、マリーさん」


「慌ただしいわね」

 マリーさんが苦笑した。


 俺たちは手を振るマリーさんに見送られ、ルーシーの空間転移で月の国へと移動した。





 ◇マリーの視点◇




(あーあ、行っちゃった)



 空間転移テレポートででかけていったマコトくんたちを見送って、私は大きく伸びをした。


 なんだか昔に戻ったみたいで楽しかったな。


 水の国の英雄なんて呼ばれてるくらいだから、もう少しくらい偉そうになってるのかしら? なんて思っていたらなんにも変わってないし。


(私もそろそろ誰かいい人でも見つけて結婚しようかなぁ~)


 あいにくと、良い相手がまだ見当たらないわけだけど。


「さて、仕事を頑張りますか!」


 今日もきっと代わり映えしない、平和で退屈な職場だろう。


 けど、マコトくんと話せてちょっとだけ気分が良い。


 私は鼻歌を歌いながら、シャワーを浴びて、新しい仕事着に着替えた。


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