十二章 『あふたーすとーりー』編

340話 高月マコトは、辺境村へ向かう(前編)

「辺境村の古い風習の調査?」

 俺は、たった今依頼された冒険クエストの内容を復唱した。


 場所は、水の国ローゼスの王城の一室。

 ソフィア王女の部屋である。


 その場にいるのは、俺とルーシーとさーさん。

 そして部屋の主であるソフィア王女だ。


「えぇ、その通りです。勇者マコト」

 ソフィア王女が俺の隣に腰掛け、ぎゅっと俺の手を握る。

 

「古い風習って具体的には何なの? ソフィーちゃん」

 さーさんがクッキーをぽりぽりとかじっている。


 ソフィア王女は、さーさんのほうに顔を向け答えた。


「アヤさん。その村には『風習』が残っているという噂なのです」

「生贄ぇ~? うわー、野蛮ねー」

 ソファーにこてんと寝転がって、答えるのはルーシーだ。

 

 君たち、王女の前でくつろぎ過ぎじゃないか?


 と思ったのだが、どうやらさーさんとルーシーは、俺が千年前に行っている間、ソフィア王女の部屋に入り浸っていたらしい。


 勿論、水の国で最強の冒険者コンビ『紅蓮の牙』としてだ。


 ルーシーとさーさんは、水の国で数え切れないほどの功績、主に魔物討伐を行っており王女への無礼講が許されているとか。


(……まぁ、実際はただの友人関係ってことだけど)


 というわけで、さーさんとルーシーはソフィア王女の私室で自宅のようにまったりしている。


 俺だけが『王家からの冒険依頼ロイヤルクエスト』ということで、少し緊張しているようだ。

 

「勇者マコト? どうしたのです、おかしな顔をして」

 そしてさっきからぐいぐいと密着してくるソフィア王女。


「いえ、何でもありません。ソフィア王女直々の依頼ですから、がんばりますね」

 俺がそう言うと、ソフィア王女はなぜか申し訳無さそうな顔をした。


「勇者マコト……、本来なら我が国の英雄たる貴方に頼むようなことではないのですが……」

「別にいいってー、ソフィア。マコトってば暇してるんだから」

「そうそう、何か依頼でもしておかないとどこかに行っちゃうよ、ソフィーちゃん」


 ソフィア王女は、俺に依頼をすることを心苦しく思っているらしい。

 もっともルーシーやさーさんの言う通り、別に遠慮しなくてもいいんだけどね。

 暇してたのだから。


「二人の言う通り予定もなかったからいいですよ。じゃあ、その生贄の風習を止めてくればいいんですね? ソフィア」


「いえ、それは我々ローゼス王家から命じますので大丈夫です。今回の依頼はあくまで調査のみです。ただし、皆さんへ依頼をする理由として、その生贄を捧げている相手が問題でして……」

「えっと、確かシメイ湖の『水神様』だっけ? ソフィーちゃん」

 さーさんが尋ねる。


 ちなみにシメイ湖とは水の国ローゼスの中央にある巨大な湖だ。

 その広さは、水の国の5分の1以上だと言われている。


「水神様の話なら、私も知ってるわ。木の国の民でも知ってる有名な話よ。と言われている昔からいる魔物よね?」

「はい、何百年も前から周辺の村を襲って生贄を要求してきたという逸話が各地に残っています」


「それは本当に居るの?」

「どうでしょう……、ただ実際に魔物が現れたら各自治体にいる神殿騎士に通報をするのが現行の法律です。生贄を捧げることは違法行為になります」


「なるほど」

「ただ、仮にも『水神様』とか言われてる強い魔物だから水の国の神殿騎士さんだとやられちゃうかもってことだね、ソフィーちゃん」

 おい、さーさん。

 多分その通りだと思うんだけど、もう少しオブラートに包もう。


「アヤさん~? その通りなんですが、言い方があるでしょう!」

「わー、ゴメンゴメン。ソフィーちゃん、怒らないでー!」

 さーさんがソフィア王女に睨まれている。


「任せておいて! ね、マコト!」

「そうだな。ルーシー」

 依頼内容は理解した。


「では、お願いしますね!」

 微笑むソフィア王女が、さらに俺にぐいぐいと身体を密着させる。

 なんか今日は、いつにも増して距離が近い。

 

 えっと、あれかな。

 最近、顔を見せてなかったことに対する無言のプレッシャーだろうか。

 何か、ハグ的なことをしたほうがいいのかもしれない。

 

「じゃあ、行ってきます」

 俺はソフィア王女の身体に手を回し、軽く抱きしめた。

 

「……もう行くんですか?」

 がしっと、倍くらいの力で抱きしめ返された。

 

「えぇ、そうですね」

「私が依頼したのですから、仕方ないですけど……」

 と言いながらソフィア王女が目を閉じて、こちらに顔を近づける。


(……え? いま?)

 戸惑っていると、ソフィア王女からキスされた。

 判断が早い!

 

 びっくりして両手を離してしまったが、何もしないのも変なので改めてソフィア王女を抱きしめる。

 そして、キスを続ける。


 しばらく待ってみたが、ソフィア王女が全く離れない。


「ん……マコト……」

(な、長い……)


 ソフィア王女が唇を離す様子がない。


 それが愛されているという意思表示なら、光栄なことなのだろう。


 俺としてもソフィア王女は好きだし、その気持には応えたい。



「……………………」

「……………………」 

 


 が、半眼でこっちを見ていなければ。 

 

 ただ、見ているだけで特に何も言ってこない。


(何で二人とも無言なの!?)


 ジー、と猫のようにこちらを見つめているルーシーとさーさん。


 あの……、怖いんですけど。


 結局、三分以上ソフィア王女からキスは続いた。


 そして、俺と離れた後に少し乱れた服を直された。


「では、いってらっしゃい。勇者マコト」

「は、はい……」

 ソフィア王女の長い接吻キスで、少し頭がくらくらする。


 俺はソファーを立ち上がり、部屋の出口へ向かった。


「ルーシー、さーさん。行こうか」

「……はーい」

「……やっとだねー」

 二人の声がやや低い。


 そそくさと部屋を出ようとした時。 



「ルーシーさん、アヤさん。勇者マコトをしますね」


 ソフィア王女がそんな言葉を発した。


 え? ここで声かけるの? と思ったがルーシーとさーさんの反応は普通のものだった。


「わかってるわよ。マコトのことはおいて。ソフィア」

「高月くんは、私たちがからね。ソフィーちゃん」

「はい、お二人なら安心です」

 

「…………?」

 特に変なことを言っているわけではないのだけど。

 

 背中にぞわり、とする奇妙な予感があった。


 未来予知でもできればよいのだが、今日は『時の精霊』の姿が見えない。


(別に悪い予感ってわけじゃないけど……)


 少し気になる。


 が、まぁ考えても仕方ない。


 久しぶりの冒険だ。


 気を引き締めよう。




 ◇




 ――水の国ローゼスの端にある辺境村へ到着。


 人口は千人ほど。


 農業と漁業で成り立っている、小さな村だった。


 移動はルーシーの空間転移テレポートを使った。


 俺も早く空間転移をマスターしたい。

 5回に1回くらいしか、成功しないんだよなー。



 そして、俺とルーシーとさーさんが最初にやってきたのは、村長の家だ。

 村に入ると外部の人間である俺たちはすぐに村人に発見され、まずは村長に挨拶をするよう促された。


 もともとその予定だったので、これは問題ない。

 辺境村の家はどれもこじんまりとしていたが、その中では比較的立派な建物が村長の家だった。


 家に入ると、村長の奥さんから客間へ案内された。



「これは……確かにローゼス王家の捺印。では、あなた方は王家の特使ということですか」

 村長は70歳過ぎの小柄な老人だった。


 こちらを見る目には、戸惑いの感情が透けて見える。

 若い冒険者が王家の使いを名乗っているので疑っているのかもしれない。


 ちなみに、手紙には本物のローゼス王家のものであることを証明する魔法がかかっている。

 なので、俺たちの立場はすぐに証明できる。


「ふむ……この村で生贄の風習が残っていると……。ソフィア王女様からの直筆の書面でございますか……」

 村長が顎髭を撫でながらつぶやく。

 その表情からは、何を考えているのかは読み取れない。


「で、実際のところどうなんでしょう?」

 俺はストレートに尋ねた。


「勿論、生贄などという野蛮な風習はございませんよ。ソフィア王女様へそのようにお伝えください」

 にっこりと張り付いたような笑顔で、村長は答えた。


(んー、これはどっちだ……?)

 直感的には、何となくウソっぽい。


 ノア様によって神族となった俺だが、未だ読心の能力は持っていない。 

 ふじやんに手伝ってもらえばよかったかな。


「じゃ、しばらくは滞在させてもらうわ」

「そうだねー。水神様を祝うお祭りが明日からあるんでしょ? 村長さん」

 ルーシーとさーさんが、俺と村長の会話に割り込んだ。


「む……、しかし村の豊穣を願う神聖な祭りですので部外者のかたには……。それにこの村には他所からのお客様をもてなすような宿はありませんし……」

 村長の口調が露骨に嫌そうなものになる。


 どうやら俺たちに滞在してほしくないらしい。


「村にご迷惑はかけません。シメイ湖のほとりでキャンプをしますね」

「し、しかし……。シメイ湖には夜には魔物がでることもあります。見たところ、あなた方はお若い冒険者。隣街の安全な宿屋に泊まられたほうが……」

「大丈夫ですよー。私たちって『神鉄オリハルコン級』の冒険者だから」

 難色を示す村長に、さーさんが黄金色の光彩を放つネックレスを見せた。


 そのネックレスには、聖なる竜を象った紋章が彫ってある。

 神鉄オリハルコン級の冒険者である証だ。


 ……あの、聖なる竜って白竜メルさんだよな?

 勝手に紋章にされてるけど、本人知ってるのかな?


「そ、それはっ!? 水の国におけるオリハルコン級の冒険者ということは……貴方がたが、紅蓮の牙様!?」

「そうよ」

 ルーシーが胸を張る。


 村長の目が驚愕に見開く。

 さーさんとルーシーを交互に見比べ、村長はごくりとツバを飲み込んだ。


「わ、わかりました。何も無い村ですが、どうぞゆっくりとなさってください」

 最後に諦めたように、がっくりと滞在の許可をもらえた。


(これはソフィア王女の懸念は当たりかな……)

 

 村長の態度から察するに、どうやら隠したいことがあるのだろう。


 俺たちは、それを探るためにしばらく滞在することとなった。

  




 ◇




「この辺かしら」

「そうだねー」

 ルーシーとさーさんが、慣れた様子で今日のキャンプ場を決定した。


 ちなみに、村の近くではなくシメイ湖の中にある小島の一つである。


「なんでこんな所に?」

 俺が質問すると。


「マコト、村の近くでキャンプして、テントに火でも投げ入れられたらどうするの?」

「ねー、たまにあるよね、るーちゃん」

「…………え?」

 俺がドン引きしてしまったが、排他的な村ならあり得ることらしい。


 全く想定していなかった。

 知らない間に二人の冒険者経験値が、凄いことになってる。

 

 おそらく『水神様』と呼ばれる魔物に生贄を捧げるとしたら、シメイ湖の近くで行うだろうということで、監視の意味でもちょうどよい場所だった。


 木々で隠れた場所にテントを設置する。

 しかも、魔力を籠めれば『隠蔽』魔法が発動するらしい。


 ルーシーが魔力を注ぐと、テントは空気のように透明になってしまった。

 よっぽど近づかないと、何も無いように見える。


 これなら魔物に襲われる心配もないだろう。

 俺たちは、魔法のテントの中に入った。


 そして、驚いた。


「広っ! これが最新の魔法のテント?」

「ちょっと違うわね」

「正確には魔法の小家屋コテージだよ。今回の冒険用に新しく買ったんだー」

「え? じゃあ、高かったんじゃ」

 今回の冒険は、そこまで報酬が高いものじゃない。

 むしろソフィア王女からの個人的なお願いなので、ボランティアに近い。

 

「別にお金なら余ってたし。というか英雄用に確保してある予算を、マコトが全然使わないってソフィアが嘆いてたわよ」

「そうそう、今まではるーちゃんとは二人用のテントを使ってたんだけど、あっちは古くなってたし」

「マコトが一緒なら広いほうがいいもの。だから新調したの」


「そっか。ありがとう。ルーシー、さーさん」

「いいのいいの。ほら、荷物はその辺に置いて」 

「私はご飯の準備するねー」


 ルーシーが手際よく、荷物を片付ける。

 さーさんは、魔法のコテージに備えてあるキッチンで料理をする。


 俺は手持ち無沙汰になった。


(今回の目的の調査でもするか)


 水の精霊にお願いして、シメイ湖に異常がないかを調べてもらった。


 が、特に気になることは見つからなかった。


 村の豊穣祭りは明日からだというし、調査をするなら明日からだろう。


 そんなことをしている間に、さーさんの料理が完成した。


 材料は水の国の王都で、買い物していたらしい。


「はい、どうぞー☆」 

 ローストした分厚い肉や、魚のフライ。

 香ばしいバゲットに、たっぷりのバターやチーズが塗ってある。

 沢山の野菜やきのこが入ったスープ。

 他にも美味しそうな料理が並ぶ。


「美味っ!」

「アヤの料理の腕ならお店が、開けるんじゃない? 本当に美味しいわね」  

「えへへー、おかわりもあるからね」

 夕食は大いに盛り上がった。


 酔っ払いすぎない程度に宴会になり。


 そうこうするうちに、辺りが暗くなった。

 

 今日のところは、もう寝ようということになった。


「じゃ、私はシャワー浴びてくるわね」

 ルーシーがシャワー室に消えていった。


 そう、魔法のコテージにはシャワー室まであるのだ。

 お湯は魔法で生成しているらしい。

 

 ザー、と水の流れる音が聞こえる。

 ぴちゃん、という水の跳ねる音が聞こえる。


 広いとはいえ、コテージ内はあくまで一部屋だ。

 ルーシーのシャワーの音に、何となく落ち着かない。


 水魔法の修行でもするか……、と思っていたら、ぽすっと身体に重みがかかった。


 さーさんが俺にもたれ掛かっていた。


「ねぇねぇ、高月くん」

「どうしたの? さーさん」

「こうしてると中学の時を思い出すね」

「そ、そう?」


 さっきからさーさんは、俺の膝の上に頭載せて寝転がったり、だらーんと背中から身体を預けて来たりと絶えずくっついている。


 なんというか猫のようだ。


 確かに中学の時も、俺の部屋でだらだらしている時さーさんが俺のベッドに寝転がることはあった。


 けど、こんなにくっついてきたことは勿論無い。


「ふふふー♪」

 さーさんの機嫌がよい。

 

 今日は料理をいっぱい作ってくれたし、俺はさーさんにくっつかれたまま、少しそわそわしながら水魔法の修行をした。


 しばらくして。



 ガチャ、とドアが開く音がする。




「アヤー、シャワー空いたわよ」

 ルーシーが戻ってきた。


 さーさんがくっついてきている今の状況を見たら、何か言ってくるかなと予想して振り向いたら……息を呑んだ。

 

「…………」

「どうしたの、マコト。変な顔して」

「えっと、……。ルーシー、その格好」

「可愛いでしょ? 王都で買ってきたの」

 くるん、とルーシーがその場で回転する。


 ルーシーは普段の魔法使いの服装ではなくなっていた。


 お腹が見える丈の短いタンクトップと赤いミニの短パンという超ラフな部屋着に着替えていた。


 普段にもまして露出が多い。

 

 別にいやらしい格好ってわけじゃないのに、ドキドキする。



「じゃあ、次は私がシャワー行ってくるね」

 さーさんが軽い足取りで、シャワー室へ消えていった。


 すぐに「ザー」と水の流れる音が聞こえてくる。 

「~♪」

 水の流れる音とともに、さーさんの鼻歌が聞こえる。


 落ち着かない。


 明鏡止水、明鏡止水……。 


 心を鎮めようとしていたら。


「ねぇ、マコト」

 後ろからルーシーに抱きつかれた。


 シャワーを浴びたからなのか、もともとの体温かとても熱い。


 そして、柔らかい感触が背中にあたる。


「ど、どうかした? ルーシー」

 喉が渇いた俺は、近くにあったグラスの水を飲んだ。


「私ね、最近よくアヤと話してるの」

「何を?」

 耳元でルーシーが囁く。


「マコトの子供が欲しいなーって」

「っ!?」

 口に含んだ水を吹き出しそうになった。


「る、ルーシー!?」

「どうしたの?」

 振り返ると、普段通りにニコニコしたルーシーだった。


「…………」

「ん? なに? マコト」

 さっきのは冗談? とは聞けなかった。


 心を読めなくてもわかる。

 本気だ。


 しかし、その後はその話題を続けず普通の会話だった。


 が、それがむしろ心を落ち着けなかった。



「あがったよー」

「おかえり、アヤ」

 さーさんが、シャワーから上がった。


 ぴちっとした黄色いTシャツに、黒いスパッツ。

 ルーシーと同じく普段見慣れない、ラフな服装だ。

 

 初めて見る格好だけど、とても可愛い。

 が、ルーシーと同じくらい露出が多い。

 

 別にいやらしくはない。


 ただ、外に出かける格好ではなく完全な部屋着だった。


 どうして、今日はそんな服装に……?


 聞くかどうか迷っていると。 



「じゃ、寝よっか」

「そうだね、るーちゃん」

「え?」

 

 パチンと、ルーシーが指を鳴らす。


 すると、ふっと魔法のコテージ内の明かりが消えた。

 

 一瞬、暗さに目が混乱するが、完全な暗闇ではなくうっすらと明かりが灯っている。


 淡い紫のような光が、コテージ内を照らしていた。


 徐々に目が慣れる。


 その時、誰かに抱きつかれた。 


「……マコト」

 ルーシーだ。


 名前を呼ばれて返事をする前に、


 そのままぎゅっと抱きしめられる。

 動けない……。


「あー、るーちゃんに先越されちゃった」

 さーさんの声が聞こえる。


「ぷは」

 たっぷりと10秒以上、ルーシーとキスをしてあとすぐに。


「……高月くん」

 一秒と間を空けずに、今度はさーさんに


 ルーシーよりも強い力で、強く抱きしめられる。


「アヤー、終わったらね」


(え……?)

 何を言ってるんだ、ルーシーさん?


 しかし、その言葉は本当だった。


 さーさんの唇が離れた瞬間、ルーシーが再びキスをしてくる。


 そして、次にさーさん。


 交代で何度も何度も……。


 こ、これはまずいのでは?


 ソフィア王女からの依頼中にこんなことをして……



(大丈夫よー、マコくん)

水の女神エイル様!?)


 頭の中に響くのは、水の女神様の声だった。

 

(ルーシーちゃんとアヤちゃんがマコくんとこうなることは、ソフィアちゃんは了承してるから。出発前に『勇者マコトをお願いしますね』って言ってたでしょ?)


(………………え?)


 いや、確かに言ってたけども!!

 でも、なんで!?


(そりゃそうでしょ。ローゼスの王女に婿入りするのに『童貞』のままのつもりだったの? マコくん)

 呆れた、とエイル様のため息が聞こえた。


 え? 

 童貞は駄目なの?

 そんな決まりがあるの?


(決まりはないけど……、王族や貴族の女性を妻に迎えるのに、夫になる男が女性経験が無いなんて聞いたことないわよ)

(…………)

 水の女神様の「聞いたことない」は実質「存在しない」だ。

 そ、そうだったのか……。


(というわけで、大人の階段を登ってねー☆ マコくん)

 いつもの明るい水の女神エイル様の声は、ぷつんと、そこで途切れた。



 そして、目の前にはルーシーとさーさんが熱い目をしてこちらを見つめている。


「マコト……」

「高月くん……」


 俺は二人に押し倒されていることに気づかなかった。



 それに抵抗する理由は…………何もない。 



 ――その日の夜は、長かった。

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