341話 高月マコトは、辺境村へ向かう(後編)
――チュン、チュン
鳥のさえずりで目を覚ました。
「……すー、すー」
隣から小さな寝息が聞こえる。
薄い毛布にくるまったルーシーだった。
ルーシーが
「………………っ」
昨日の記憶が蘇る。
(昨日はルーシーとさーさんと……)
思い出して赤面する。
「あっ! 高月くん、起きたんだ。おはよー」
思考の途中でさーさんから声をかけられた。
「お、おはよう、さーさん。早起……」
早起きだね、と言おうとして言葉に詰まる。
「どうしたの? 高月くん?」
ニコニコしたさーさんはいつものエプロン姿。
が、何かがいつもと違う。
まるで、エプロン以外
俺の視線に気づいたのだろう。
さーさんがニコニコした笑顔から、ニヤ~と意地悪な笑みに変わる。
「どうしたのかな~、昨晩はあんなに
「え……?」
「高月くんってベッドだと狼さんなんだねー」
「そ、そんなにだった?」
正直、冷静ではなかったのでよく覚えていない。
俺の問いには「ふふふー」と笑って答えないさーさん。
「ふわぁ……」
俺たちの声にルーシーが目を覚ます。
「……おはよー、マコト……アヤ……」
ルーシーは寝不足なのか、まだぼんやりとしている。
「んー」と伸びをするルーシーは当然裸だ。
慌てて目をそらした。
「るーちゃんってば、相変わらず朝弱いんだからー。ほらー、シャワー浴びてきて!」
さーさんがルーシーをシャワールームに押し込む。
ほどなくして、ジャーという水音が響いてきた。
「……アヤー、一緒にはいろー。身体洗ってー」
「ちょっとぉ! るーちゃん、私もう入ったあとなんだけどー!」
「もう一回入ればいいでしょ。ほら脱いで脱いで」
「ちょっとー! 脱がさないでー。変な所触るなー」
さーさんとルーシーの賑やかな声が聞こえる。
キャーキャー騒ぐ声をBGMに、俺はさーさんが途中まで準備していた朝食をテーブルに並べた。
俺も身体と服を洗っておくか。
――水魔法・洗浄
霧状の水を発生させ、身体や衣類の汚れを落とす。
風呂に入る時間を節約し、修行に没頭できる良い魔法なのだが女の子からは人気がない。
ルーシー、さーさん、千年前だとアンナさん、モモにも評判はいまいちだった。
ジョニィさんは「便利な魔法だな」と褒めてくれたのだけど。
「ふー、おまたせ。マコト」
「高月くん、準備してくれたんだ!? ありがとう!」
ほかほかと湯気を身体から立ち上らせるルーシーとさーさんが、シャワー室から戻ってきた。
「いただきますー」
「高月くんも食べてね」
ルーシーとさーさんが俺を挟むように、座る。
そして、二人は朝ごはんを食べはじめる。
が、俺は動けない。
「……あの……、ルーシー、さーさん?」
「どうしたの? マコト」
「高月くん、食欲ない?」
二人から心配そうな視線を向けられるが、そうじゃない。
「
ルーシーとさーさんは、シャワーから出て身体にバスタオルを巻いただけの格好だった。
「「?」」
固まる俺を不思議そうに見つめる二人。
いや、何でそんな無防備な格好で平気なんだ!
(いや、マコくんこそ何で平気じゃないの? もう童貞じゃないんだから)
呆れたような声が脳内に響く。
この声は……。
(
(昨晩は
とんでもないことを言われた。
(み、視てたんですか!?)
(好きで視てたんじゃないわよー。アルテナ姉様の指示で仕方なくだもの。あー、眠い)
(視ないでくださいよ!)
プライバシーの侵害過ぎる!
(あははー。それより一晩で二人も女の子を抱いておいて、未だに
(別にいいでしょう! それより覗き見はやめてくださいよ!)
エイル様に苦言を呈す。
(あー、これからまだ仕事なの。忙しいわー。誰か手伝ってくれないかしらー)
そんな言葉を最後にエイル様からの念話は切れた。
えぇ……、昨日の視られたのかぁ。
「マコト、ねぇ~、聞いてる?」
「高月くん、誰と話してるの?」
エイル様との会話を、二人に感づかれた。
別に悪いことはしてないのだが。
「いや、なんでもないよ。ご飯食べよう」
さーさんが作ってくれたサラダとハムエッグ、魔法の調理器具で焼かれたトーストを頬張る。
どれも絶品だった。
あっという間に食べ終え、よく冷えたミルクで喉を潤す。
ふぅ、と一息ついた。
「さて、じゃあ今日は……あの、ルーシー? さーさん?」
気がつくと二人が俺の腕を、ぎゅっと掴んで離さない。
「ねえ、マコト? 仕事は今日の夜でしょ?」
「まだ時間あるよね? 高月くん」
「えっと……時間があると……どうするの?」
返事はなかった。
俺は、キラリと目を光らせたルーシーとさーさんに再び押し倒された。
そのまま二人に唇を奪われる。
昨夜の続きとなった。
(またエイル様に視られてるかも……)
と不安になったが、すぐにどうでもよくなった。
さーさんとルーシーが可愛い過ぎた。
……こんな爛れた生活で良いのだろうか。
◇その日の夕方◇
……ドン! ドン! ドン!
……~♪ ~♪ ~♪
……ガヤガヤ
遠くから村の祭りの音が聞こえる。
盛り上がっており、楽しそうだ。
俺はシメイ湖の小島から、村の様子を『千里眼』スキルで眺めていた。
「マコト、参加したいの?」
ルーシーが尋ねてくる。
「参加しないって。これから仕事だろ」
俺は苦笑しながら、返事をした。
お祭りに興味はあるが、部外者の俺たちが参加しても浮いてしまうだけだろう。
なにより昨夜から続けて昼間にもルーシーとさーさんの
神族になっても睡眠は必要なんだなぁ。
「でも、お祭りって数日続くんだよね? 生贄が出されるとしたら最終日かな?」
「ま、普通はそうよね。でも、今回は私たちが監視に来ているから大ぴらにはしないと思うわ」
「じゃあ、見張りをしないとねー」
さーさんとルーシーが慣れた様子の会話をしている。
現代における歴戦の冒険家としての二人の豊富な経験値は心強い。
千年前の冒険もなかなかハードだったが、あれは冒険というより魔王からの
俺たちは交代で見張りをしつつ、テントから村の様子を眺めた。
しばらくは何事もなく、夜が更けていった。
そろそろ日も変わろうかという時刻。
「動きがあったわ!」
ルーシーが鋭い声を放つ。
村の祭りはだいぶ静かになっている。
ちょうど、少し気の抜けていたタイミングだった。
「……村から小さいボートが、シメイ湖の奥に向かってるね。ボートに乗ってるのは大人3人と子供一人。多分、子供が生贄なんじゃないかな」
夜目の利くさーさんが、教えてくれた。
「どうする? 止めるか?」
「うーん、多分ごまかされるだけだと思うよ」
「だったら現場を押さえるか」
「そうね!」
「じゃあ、いこう!」
俺たち三人は頷き、移動を開始する。
――『隠密』スキル
神級となった隠密スキルを用いて、俺とルーシーとさーさんは
水魔法によって、水面を歩くことなど容易い。
ボートがたどりついたのは、シメイ湖に点在する小島の中でも大きめのものだった。
島の中央に小さな森がある。
ボートから降りた彼らは、森の中に消えていった。
視界が遮られ、様子がわからなくなる。
(どうする? あの森に水神様って呼ばれる魔物がいたら)
(大丈夫よ、マコト。あの小島に魔物の気配はしないわ)
(でも、子供が心配だね。ゆっくり近づこう)
さーさんの言葉に、俺とルーシーが頷く。
俺たちが、彼らの使っていたボートから大回りするように小島に近づいていると。
(あっ! 見て! 出てきたわ)
(一緒に居た子供が居ないよ!)
(生贄として置いてきたのか……)
残念ながら、噂は本当だったようだ。
水の国において、生贄は違法行為だ。
が、俺たちは警察ではないので村人を逮捕はできない。
それは神殿騎士たちの役目になる。
ボートに乗った大人三人は、ゆっくりと小島から離れていった。
それと同時に隠密スキルを解かないまま、小島に上陸する。
直径100メートルほどの小島の中央は、木々が生い茂っている。
そこをかき分けながら奥へ進む。
森の中央に、小さな神殿があった。
そこでは一本の松明が、石灯篭におかれており、その隣にロープで縛られた子供が転がっていた。
どうやら気を失っているようだ。
「大変!」
「助けるわよ!」
駆け出す俺よりはやく、ルーシーとさーさんが飛び出す。
シャッ! とさーさんが手刀でロープを切る。
ルーシーは回復薬を、子供に飲ませている。
「…………ん」
子供が目を覚ました。
「ひっ!!!」
俺たちを見て、おびえたように悲鳴をあげる。
「大丈夫よ! 私たちは味方だから」
「ソフィア王女の依頼で助けに来たの」
「ソフィア様の……?」
最初は怯えた様子だった子供だったが、ルーシーとさーさんの顔を見比べ不思議そうな顔になる。
そして、最後に俺の方を見つめてきた。
「俺たちはこの村で『生贄の風習』があると聞いてやってきたんだ。君の安全は保証する。だから教えてくれないか?」
「……………………はい」
俺が尋ねると、子供は暗い顔でぽつぽつと語り始めた。
◇
子供の話はこうだ。
・自分は生贄で間違いない
・両親は流行病で亡くなり、村の有力者の家で住み込みをしていた
・村では数年に一度、自分のように身寄りの無い子供を水神様に生贄に出すらしい
・村で『水神信仰』があるのは確かだが、それ以上に『口減らし』の意味合いが強いとか
「そうか……。辛い話を言ってくれてありがとう」
俺は子供にお礼を言い、それ以上語ってもらうのを止めた。
残念ながら、あの村では生贄の風習が残っていた。
さらに水神様として讃えられている魔物は存在し、そして確かに村を守っているらしい。
過去に他の魔物によって村が襲われた時に、水神様が魔物を倒したこともあるそうだ。
そして、水神様と呼ばれる魔物の正体は――どうやら
美しい水色の鱗を持つ古竜。
それが水神様と呼ばれているそうだ。
「古竜か……」
西の大陸においては、最強の魔物の一種。
辺境の村では手も足も出ないだろう。
「マコト、これからどうするの?」
「この子を先に安全な場所に避難させたほうが」
「いけません! 私が居なくなると、水神様が現れません! そして、次の生贄候補者が送られてしまうんです……。私は助かってもその子は……」
優しい子だ。
自分が生贄に選ばれてしまったのに、他の子の心配をしている。
「わかった。じゃあ、ここで水神様を待とう」
俺がそう言った時だった。
突然、周りが暗くなった。
それは巨大な生き物が、俺たちのすぐそばに居て夜空の星々の光を遮ったのだと気づく。
「マコト!」
「高月くん!」
――運命魔法・
ルーシーとさーさんの焦った声に合わせ、魔法を発動させる。
視線を上に向けると、美しい水色の鱗を持つ古竜がいつのまにかこちらを見下ろしていた。
俺やルーシー、さーさんに気づかれずにここまで接近するには高度な魔法を用いたのだろう。
また、先程の子供の話から村を助ける代わりに生贄を要求するなど、知性的な面があると思われる。
村人を脅して生贄を要求したわけではないのだ、この古竜は。
村を守るという対価を見せて、生贄の風習を生み出した。
なかなかの狡猾さだと思う。
ここまでの思考で、約0.1秒。
ここから水の大精霊を呼び出し、水の大魔法を先制攻撃で放つことは可能だろう。
が、それを実行するのを迷った。
先程からこの古竜から『危険感知』スキルが反応しない。
つまり、殺気がないのだ。
(会話してみるか?)
一応、生贄と交換とはいえ村を守ってきた守り神だ。
問答無用で討伐するのは、少し憚られる。
俺は運命魔法・精神加速を解いた。
予想通り、古竜は襲ってこない。
「ルーシー、さーさん。待って」
俺は古竜に攻撃をしかけようとする二人を止める。
「……え?」
「……でも」
戸惑う二人を手で制し、古竜のほうへ一歩近づく。
さて、何と話しかけたら……と思っていたら。
「あれ? マコトさんじゃないっすかー!! お久しぶりっすー!!」
その壮麗な古竜の見た目からは想像できないほど、軽い声が飛び出した。
◇
「……で、この古竜はマコトの知り合いなの?」
「高月くんー、紹介してー」
「オレっちは、古竜族の若手のルキーチって言うもんです。千年くらい前に、大迷宮でマコトさんに氷漬けにされて以来マコトさんには逆らえねーっす」
「「…………」」
あまりの軽い口調に、歴戦の冒険者であるルーシーとさーさんが戸惑っている。
ちなみに、生贄の子供は古竜を見て気を失ってしまった。
さーさんが、身体を受け止め介抱している。
俺は千年前の時の記憶をひっぱりだした。
確か彼は……。
「思い出したよ。確かアンナさんとモモと一緒に初めて大迷宮の最深層に行った時にいた古竜だな」
「そうっす!! 思い出してくれましたか! あの時はみんなの陰に隠れてたんすけど、マコトさんのところの
ハハハー、と懐かしそうに笑う古竜ルキーチくん。
懐かしく思ったが、馴れ合ってばかりもいられない。
大事な話があるからだ。
「ルキーチくん。俺は
俺は真剣な声で質問した。
「「…………」」
ルーシーとさーさんも、それを黙って聞いている。
さて、一体何と返事をするのか?
千年前からの懐かしき知り合いではあるが、水の国の民を生贄として喰っていたというなら笑って済ませることはできない……。
「そうなんすよー!! マコトさん、本当に
俺の真剣な声に気づかずか、古竜の口調は変わらない。
「困ってる?」
「この辺の村から定期的に生贄をオレっちに寄越してくるんですけど、そんなのもらってもどうしようも無いじゃないですか? だから村に返そうとするんですけど、生贄になった子供はもう村に居場所がないから帰りたくないっていうんですよー。仕方ないから、オレっちが子供の世話をして大きくなったら自立してもらうようにしてるんですけど、結構大変で……、まあ世話した子が立派になって挨拶に顔を見せることもあって、それはそれで楽しい面もあるんですけど。これってどうすればいいっすかね?」
「「「…………え?」」」
古竜の言葉に、俺だけでなくルーシーとさーさんも驚いが声をあげる。
「生贄になった子供を……世話してるのか?」
何で?
「当たり前っすよ。千年前に大母竜様とマコトさんが言ったじゃないですかー。これからは西の大陸だと古竜族と人族は仲良くしてくれって」
「あ、あぁ……確かに言ったな」
大母竜様、というのは白竜さんのことだ。
当時は、大迷宮の主をしていた。
「古竜族は約束を守ることに関して誇りを持ってますからね! 運命の女神様に誓って、オレっちはこの千年間、一度も人族を襲ったことはないっすよ!」
ふふん、と胸を張るルキーチくん。
俺とさーさんとルーシーが顔を見合わせる。
(マコト。この古竜が言ってることは本当?)
(千年前に約束をしたのは本当だな。ただ証拠が……)
(じゃあ、世話をしているって子に会わせてもらえばいいんじゃないかな?)
(そうだね、さーさん。そうしよう)
「ルキーチくん。君の住処で世話をしている人族と会わせてもらえないか?」
「いいっすよー。背中、乗ります?」
古竜の言葉に甘え、俺たちは乗せてもらうことにした。
◇
「着きましたよー。ここっす」
古竜のルキーチくんが、住処まで案内してくれた。
そこは、シメイ湖のほぼ中央。
大きな島が、結界魔法で隠されていた。
その島に大きな屋敷が建っている。
ルキーチくんが、俺たちを降ろしてから人の姿になった。
モデルのようなスラリとした好青年だ。
身長は二メートル以上ある。
白竜さんもだが、古竜族が人の姿になると高身長となるようだ。
「水神様だー」
「おかえりなさいー」
屋敷からぱたぱたと人が出てくる。
見たところ幼い子供から十代の若い集団だった。
「そちらの人たちは?」
「新しい生贄の人ですか?」
「生贄なのに服装が立派ですねー」
「今日からあなたたちも水神様の家族ですね!」
「「「……」」」
彼らの言葉に、俺たちは押し黙る。
うん、聞くまでもない。
古竜のルキーチくんは、水の国の生贄の子供たちを保護してくれてたのだ。
にしても人数多いな!!
どうやら俺たちが行った村だけでなく、他の村からの生贄も受け入れているらしい。
水の国の闇が浮き彫りに……。
「ルキーチくん、ありがとう。俺との約束を……いや、それ以上のことをしてくれて」
「何いってんすかー! マコトさんは大魔王を倒した英雄ですよ! オレっちのやってることなんて大したことないですよ」
ハハハ! と笑う古竜ルキーチくん。
ちなみに、彼が言っている大魔王は千年前のほうを指したらしい。
現代のほうについては、あんまり把握してなかったようだ。
「どうしよっか? マコト」
「一回、ソフィーちゃんに相談したほうがいいよね?」
「あぁ、そうだな」
古竜と子供たちを見回す。
ルキーチくんは、子供たちに慕われている。
そして、彼らは自分たちを生贄に出した村には帰りたくないだろう。
(調査は終わったけど、解決までは時間がかかりそうだな……)
この後のソフィア王女の苦労が、申し訳なく思った。
◇
「マコト。私とアヤは、一度水の国の王都へ戻るわ。そこでソフィアに状況を説明して、次の方針を確認しようと思うの」
「証人としてこの子が付いてきてくれるんだって」
「よ、よろしくお願いします!」
さーさんと手を繋いでいるのは、古竜の屋敷で最年長の女の子だった。
彼女もかつては生贄に出され、そしてここで生活をしてきたらしい。
「で、私はあんまり大人数は
「別に私も留守番してもいいよー、るーちゃん」
「そしたらアヤがマコトに手を出すから駄目」
「ケチー。別にいいじゃんー」
「抜け駆けはゆるさないわよ。じゃ、行くわよー!」
「え、もう!? 高月くんー、いってきま……」
ここで三人の姿が「シュイン」と消える。
空間転移したようだ。
俺はぽつんと残される。
一人になると、ふいに眠気が襲ってきた。
「どこかで休んでもいいかな?」
屋敷の主である古竜ルキーチくんに尋ねる。
「勿論っすよ! 屋敷の中で名札がついてない部屋は、空き部屋なので勝手に使ってくださいっす」
「ありがとう」
俺はお礼を言って、屋敷内に入った。
2階に上がり奥へ進むといくつか空き部屋があった。
部屋には簡素なベッドがあり、俺はそこに寝っ転がった。
まぶたを閉じると、一瞬で睡魔に襲われた。
◇
次の瞬間、夢の世界にやってきていた。
(寝るの早っ!!)
と自分の寝るスピードに驚いたが、よく考えると昨晩からほとんど寝ていない。
主にルーシーとさーさんが寝かしてくれなかったからだ
そして、改めて夢の世界の景色を観察する。
ただの夢ではなさそうだ。
周りを見回すと、ピンクの絨毯に沢山の人形たちが忙しなく働くメルヘンな空間。
しかし、実際は24時間稼働しているブラックな職場。
見覚えはあり過ぎるほどある。
――
「あら? 高月マコト?」
カリカリと、ペンを走らせて執務デスクの前に座るイラ様がこちらを見ていた。
「イラ様、何か御用ですか?」
「何かって……あんた」
俺の問いに、呆れ返ったように大きくため息を吐かれた。
あれ?
何かイラ様と約束をしてたっけ?
「違うわよ。私じゃなくて、あんたの
「ノア様がどうしたんですか?」
つい一週間ほど前にも挨拶に参上したばかりだ。
封印が解けて、普段は水の女神様と一緒にふらふらしていると聞いた。
俺が首をかしげていると、イラ様が言葉を続けた。
「なんか
「え?」
ノア様は気分屋ではあるが、不機嫌を前面に押し出していることは意外に少ない。
信者の前で良い顔をしていたのかもしれないが。
「いいから、とっととノアの前に顔出してきなさいよ。これ神託ね」
「えー、でも今は留守番中で……」
「さっさと行く! あんたは神族で一番の下っ端なの!」
「横暴!!」
言ってみたが無駄だった。
神族の序列的にイラ様には逆らえない。
露骨に俺にパワハラしてくるのは、イラ様だけだが。
というわけで、次の神託は『機嫌が悪いらしいノア様に会いに行く』こととなった。
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