327話 高月マコトは、神獣に挑む

「さて……」

 古竜の王アシュタロトの背に乗り、上空を目指す。

 雲と同じくらいの高さにきたが、まだ神獣リヴァイアサンの頭部ははるか上だ。


 もっとも目的は、神獣を倒すことじゃない。

 海底神殿への到達、そしてノア様の解放だ。


 海底神殿は、神獣リヴァイアサンの背に建っている。

 俺たちはそれと、同じくらいの高度まで上がって上昇を止めた。


「ニャル様」

「なんだい? 騎士くん」

 ノエル女王に降臨した月の女神ナイア様に問いかける。


「ノエル様に降臨できるタイムリミットはどれくらいですか?」

 確か三十分が限度だと言っていた。

 すでに十分以上が経過している。


「ん~、あと15分くらいかな」

「わかりました」

 俺はその言葉を聞き、周りを見回す。

 水の大精霊ウンディーネの数は、ざっと二百万人ほど。


 時間をかければ更に集めることができるが、その余裕は無い。


 ノエル女王に降臨した月の女神様。

 カインの神器を装備した古竜の王。

 そして、近隣の星々から来てもらった水の大精霊ウンディーネたち。


 俺が頼れる全ての力を借りて、神獣に挑む。

 そこで、ふと思い出した。


 そう言えば、まだ

 

「ノエル様って『蘇生魔法』が使えましたよね?」

「え、ええ。使えますが、何か?」

「じゃあ、俺にかけてもらっていいですか?」

「は? あの……一体何を」

 ノエル女王が混乱したような顔をするが、説明の時間が惜しい。


 俺は何も言わず――女神様の短剣で、

 勿論、心臓は避けているが血が吹き出し、視界が暗くなる。


「きゃあああああああああああああ!」

 ノエル女王の悲鳴が上がるが、俺は気を失いそうになるのを堪え、心の中でつぶやく。



 ――ノア様へ捧げます。



 生贄術を発動させる。


「太陽魔法・蘇生!」

 悲鳴を上げていたノエル女王が、俺に魔法をかけてくれる。

 すぐに胸の傷はふさがった。


「ありがとうございます、寿命を女神様に捧げるためにこうしなくてはいけなくて」

「……………………」

 ノエル女王は何も言わなかった。


 完全に、キ○ガイを見る目で俺を見ている。


 しまった。

 桜井くんの嫁から変人と思われた。

 あとで言い訳しなくては。

 

「高月マコト……、は何だ?」

 背中を借りている古竜の王が、気味が悪いと言いたげに聞いてきた。

 どうやら、彼には視えているらしい。


 俺は自分の肩辺りにいる、小さな三体の精霊に視線を向けた。

 以前は、一体だけだった。

 ノア様からのサービスだろうか?


「時の精霊だよ。俺の寿命をぎりぎりまで捧げて、三体も呼べた」

「あははははっ、ははははっ!! バカが居る! 大馬鹿者だ、ノアくんの使徒は! 君のようなバカな子は嫌いじゃないよ!」

 大笑いしているのは月の女神様だ。

 楽しんでいただけているようだ。


「さて……行こうか」

 これで準備は整った。

 十分ではないかもしれないが、できる最善は尽くした。

 これ以上の状況は二度と起こせないだろう。


「あの……マコト様」

 いよいよリヴァイアサンに挑もうかと言う時、おずおずとノエル女王が話しかけてきた。


「ノエル様? すいません、さきほどは驚かせてしまい」

「いえ……、驚いたのは確かですが、それは今は忘れます。それより……様は止めていただけませんか?」

「えっと、しかし……」

「今は……今だけは私もパーティーの一員なのですよね?」

 そう言われ、はっとなる。


 大陸最大国家の女王様という意識が強かったが、『今この時』においては、一蓮托生のパーティーメンバーだ。


「わかりました、ノエルさん。貴女も俺に様付けはやめてくださいね」

「呼び捨てでもかまいませんが……、はい、わかりました、マコトさん。私は『勝利の行軍歌』をかけ続けます。どうぞ、思いっきりやってください」

 緊張した顔をしつつも、無理して微笑むその顔にアンナさんの面影が蘇った。

 その懐かしさからか、自然と笑みが浮かぶ。


「アシュタロト、行けるか?」

「待ちわびたぞ」

「ディーア、頼むぞ」

「おまかせを、我が王」

 皆に声をかけ、俺は『最後の』海底神殿の攻略を開始した。




 ◇




「初手は、そうだな。水の大精霊たち……彗星を落としてくれ」

 まずは牽制だ。


 宇宙そらから数キロから十数キロの彗星が無数に降ってくる。


 大気圏に突入し、赤く輝きながら彗星がリヴァイアサンに降り注いだ。


 激突した彗星が爆発を起こし、暴風が巻き起こる。


「ひっ!」

 ノエル女王が小さく悲鳴を上げた。


「大丈夫ですか?」

「へ、平気です! マコトさんは、前を向いてください!」

 震える声で言われる。

 ……これじゃあ、最後まで持たないな。


 ――同調シンクロ・明鏡止水


「あら……?」

「心を落ち着けるスキルの効果を、同調で共有しました。落ち着きました?」

「は、はい。ありがとうございます」

「おい、高月マコト。女とイチャついている場合か? 貴様の彗星落としが全く効いておらんぞ」

 俺がノエル王女と話していると、古竜の王が苦言を呈してきた。

 確かに、彗星の爆発の威力は凄まじいが神獣リヴァイアサンの鱗にはほとんど傷もなさそうだ。

 

「火の国の王都なら、1、2発で吹っ飛ぶ威力なんだけどなぁ」

「彗星なぞ、私でも大した脅威にはならぬ。……とはいえこの数を相手にするのは厄介だろうが」

「神獣リヴァイアサンにとっては、小雨のようなものか」

 予想通りの化け物だった。

 

「次はどうする? 高月マコト」

「彗星落としがここまで効果なしとはなぁ……」

 数百個の彗星をぶつけたところで、神獣リヴァイアサンには痛くも痒くもないらしい。

 相変わらずこちらを大きな眼で、見下ろしている。


 これ以上、海底神殿へ近づくことは許さないとばかりに。

 それにしても随分と警戒されたものだ。

 もうちょい、油断して欲しいんだけど。


 ふと気になって、月の女神様に話しかけた。


「ニャル様。リヴァイアサンに貴女の降臨がバレている可能性はありませんか?」

「ん~、どうだろうね。月の女神のことはバレていないと思うよ。ただ……、月堕としの実行犯が、この中にいると思われてるかもね」

「なるほど……」

 確かにそれなら警戒されるわけだ。


「でも、月を堕とすなんて神様以外でも可能なんですか?」

「聖級の月魔法使いが、生贄の魂を10万人くらい捧げれば可能だよ☆」

「そ、そうですか……」

 頑張れば人族でも可能……、という事実が怖い。

 というか余計な情報を得てしまった気がする。

 すぐに忘れよう。


「私はいつ突っ込めばいい?」

 古竜の王はうずうずしているらしい。


「まだ我慢してくれ」

 俺は次の手を打つ。



 ――精霊の右手



 右腕を精霊化させる。

 ちなみに左腕はノエル王女に掴まれ、『勝利の行軍歌』と同調しているため精霊化できない。


 精霊体となった右腕の感覚が無くなる。

 代わりに魔力操作の要領で腕を振るう。


 

「水魔法・白の世界」

「きゃっ!」 

 ノエル女王が小さく悲鳴を上げた。

 

 一面を猛吹雪が覆う。

 視界が真っ白になるほどの雪。

 当然、神獣リヴァイアサンから俺たちの姿も視えていないはずなのだが……


「視られているぞ」

「視られてるよ」

「マコトさん、神獣様からの威圧感が変わりません……」

 古竜の王、月の女神様、ノエル女王が突っ込まれた。


 神眼を持つ神獣には、こんな目くらましは通用しないらしい。

 まぁ、一応試してみただけなので。

 俺は吹雪を止めた。


「本命はこっちだ」

 精霊の右手に魔力を集める。

 精霊の魔力は無限。

 それを使って、ありったけの魔法を放つ。



 ――大彗星落とし



 先程から降り注いでいる彗星群。

 それらとは一線を画す巨大な彗星。


「おお!」

「凄い……」

 古竜の王と、ノエル女王が感嘆の声を上げる。


 月ほどの大きさ、とはいかないが、地上に激突すれば水の国ローゼスが吹っ飛びそうな(不謹慎)大きさの彗星だ。

 それがリヴァイアサンにぐんぐんと近づき



 ぺし



 という音がしたわけではないが、それくらいの気軽さでリヴァイアサンの巨大なヒレが大彗星を弾き飛ばした。

 


「「「…………」」」

 古竜の王が絶句した様子で、ノエル女王が目を見開いている。

 ……これも駄目らしい。


 となると、いよいよ最後の手段しかない。


「我が王……、貴方様の号令でいつでも我々は行けますよ?」

 これまで静かにしていた水の大精霊ディーアが、俺の耳元で囁く。


 それしか……方法は無いのだろうか?


「ディーア……」

「そんな顔をしないでください。ノア様をお助けするためなのです。姉妹たちはそのために集まってくれたのですよ?」

「わかった……」

 気が進まないが、この機会を逃すことはできない。

 精霊魔法を使ってきて、初めてとなる『お願い』を俺は口にした。




 ――水の大精霊たち……、ノア様を救うため……、




「「「「「「」」」」」」」

 200万人を超える水の大精霊たち。

 彼女たちが次々に、リヴァイアサンへと襲いかかった。


 ちなみに精霊に『死』という概念は無い。

 自然の一部である大精霊たちは、滅んだあともいずれ復活する。

 表現としては『死』と伝えたが、要は『特攻』して欲しいというお願いだった。


 水の大精霊は、意思を持った魔法のような存在だ。

 細かい指示を出さなくても、勝手に動き敵を攻撃してくれる。

 その一人一人が聖級魔法クラスであり、今はノエル女王の『勝利の行軍歌』で力が底上げされている。


 そして、水の大精霊は神獣リヴァイアサンへと突撃し、


 ドドドドドドド!!!!!!

 リヴァイアサンの身体の至るところで、魔力マナが弾け大爆発が起こる。


 先程の彗星のような物理的爆発でなく、魔力マナの爆発。

 それが、神獣リヴァイアサンの身体を抉っていく。


 数十、数百、数千の水の大精霊がリヴァイアサンへぶつかり、自爆していく。




 …………ギ……………………ギ…………ァァ…………ギギ……ァァァァ



 

 金属がこすれるような、不快な音が大気を震わせた。

 

「これは……何だ?」 

「……頭が痛いです……、マコトさん」

 思わず俺とノエル王女は顔をしかめる。

 

 この音を発しているのはリヴァイアサンのようだ。

 しかし、何か目的があってというよりは。


「へぇ……、リヴァイアサンが悲鳴を上げるなんて、1500万年ぶりだね」

 月の女神様がつぶやいた。

 その意味を理解し、俺は次の行動を起こした。


古竜の王アシュタロト!」

「応!」

 海底神殿を目指すなら今しかない。

 そう思い古竜の王へ呼びかける。

 しかし。 




 ――ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!




 

 甲高い声。

 少し遅れて衝撃波のようなものが俺たちを襲う。

 竜巻が数百個同時に発生したような暴風。


「くっ」

「結界で受けた。大丈夫か、高月マコト」

「あぁ、助かったよ。アシュタロト」

 まともにくらったら、死んでた。


 見ると水の大精霊たちも吹き飛ばされたようで、リヴァイアサンと距離を取っている。

 どうやらそれが神獣の狙いだったようだ。


「マコトさん! あれを!」

 ノエル女王がリヴァイアサンの方を指差す。

 神獣の身体から何かがポロポロと剥がれ落ちている。

 

「あれは……?」

「リヴァイアサンの鱗だな」

 水の大精霊の攻撃によって剥がれたのだろうか。

 いや、違う。


 リヴァイアサンから剥がれ落ちた鱗が、形を変えている。


 すらりとした女性の姿となり

 背中からは翼が生え

 手には槍を持っている。


「て、天使様!?」

 ノエル女王が驚きの声を上げる。


「本来、肉体を持たぬ天使を神獣の鱗で身体を代用したか。まさか、神獣が天使を召喚できるとは……」

 古竜の王が呻いた。


 それは女神教会であれば必ず目にする、聖神族の使いである天使だった。

 神獣リヴァイアサンを守るように、槍を構えている。

 

 相対するは、リヴァイアサンを取り囲む二百万人以上の水の大精霊たち。

 鱗から形を変えた天使の数はどんどん膨れ上がっていく。

 


「あ、あの……、聖神族の使いである天使様と戦ってもいいのでしょうか?」

 ノエル王女が戸惑っている。

 太陽の女神様を信仰する巫女としては、当然の反応かもしれない。

 それに答えたのは、ノエル女王の身体に降臨している月の女神様だった。


「ノエルちゃん。これは騎士くんが女神ノアを救うために乗り越えないといけない『神の試練』なんだ。あくまでテストさ。ノエルちゃんが、女神に逆らうわけじゃない。気にしなくても大丈夫だよ」

「そ、そうですか……」

 首をひねりつつ、一応納得したようだ。


「呑気なことを言っている場合ではなさそうだぞ」

 古竜の王の言葉で、リヴァイアサンの周りにいる天使たちに目を向ける。


 天使たちは人形のように整った美しい顔をしているが、氷のように冷たい視線をこちらに向ける。

 その視線の先は……、俺たちのようだった。

 つまり天使たちの狙いは、俺たちの命だ。


「我が王、号令を」

「わかった。水の大精霊たち、天使を排除してリヴァイアサンを攻撃してくれ」

 俺は命じた。


 水の大精霊たちが、再び神獣リヴァイアサンへと突撃する。

 それを迎え撃つ天使たち。

 両者の数を合わせると数百万人にのぼるだろう。


 二つの大軍勢が激突した。


「☓☓☓☓!!!」

 水の大精霊ウンディーネの悲鳴が上がる。

 見ると一人の水の大精霊が、天使の槍で胸を貫かれていた。 


「▲▲▲▲▲▲▲!!!!」

 天使の絶叫が響く。

 別の場所では、天使の羽根が、水の大精霊に引き千切られ落下していった。

 聞き慣れない言葉は、天使たちの言葉だろうか?


「☓☓☓☓☓☓☓☓!!」

「▲▲▲▲▲▲▲!!!!」

 ある場所では、水の大精霊の首が刎ねられ。

 別の場所では、天使の首が折られている。

 水の大精霊の胴が槍で貫かれ、

 天使の腕が引き千切られる。


 可愛らしい少女のような大精霊と、美しい天使たちが殺し合っている。

 至るところで悲惨な光景が広がっていた。


 本来、大精霊や天使は魔法の名手だ。

 が、お互いに高魔力体であるため魔法では決定打を与えられないのだろう。

 結果として、原始的な戦いとなってしまっている。


 天使と大精霊たちの力は、ほぼ互角のようで相打ちに近い形で両者が次々に倒れていく。


 水の大精霊や天使には、死という概念がない。

 負けたあとは、魔力の光となって消えていく。

 血は流れず、死体は残らない。


 それでも水の大精霊と天使の戦いは、目を逸らしそうになるほど暴力的で凄惨だった。

 いや、これは戦いと言うより……


「戦争だな」

 古竜の王がぽつりとつぶやく。


「うっ…………」

 見るとノエル女王が口をおさえて、うずくまっている。


「ノエルちゃんには刺激が強かったみたいだけど、僕にとっては懐かしい光景だ。神界戦争ティタノマキアの頃には、秩序を尊ぶ聖神族の天使たちと、自由を掲げるティターン神族の大精霊たちが、至るところで殺し合っていた。原始的で野蛮で愚かで……実に素敵だ。そう思わないかい? 騎士くん」

 月の女神様はくすくす笑っている。

 

 笑う気にはなれなかった。

 それよりも。


「古竜の王。リヴァイアサンの視界から外れるように、海底神殿へ向かってくれ」

「わかった」

 俺の声に、古竜の王が応じる。


 水の大精霊たちが命がけで作ってくれた機会を無駄にしてはいけない。

 

 ――竜の加護


 古竜の王が呟く。

 身体を見えないクッションが覆っているように感じる。


「振り落とされるなよ」

 そう言うや一気に加速する。


 周りではたくさんの天使と水の大精霊たちの戦いが続いている。

 

空間転移テレポートで飛べないか?」

「無理だな。海底神殿の周囲を覆っているのは神気アニマ。私の空間転移では、近づくことは不可能だ。直接向かうしかない」

「わかった」

 俺はリヴァイアサンの気を少しでも逸らすため、精霊の右手を使い巨大な彗星を幾つも降らせる。


 およそ海底神殿までの距離が半分くらいになった時だろうか。


(……もしかしたら、このままいけるかも)


 そんな希望を持ち始めた時。


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 ――視界が暗転した。


 

 気がつくと俺が先程、古竜の王に「海底神殿へ向かってくれ」と言った場所に戻っていた。

 俺はちらりと肩のあたりにいる時の精霊を確認する。


 そこには時の精霊が居た。


「何が……起きたんですか?」

 ノエル女王が戸惑った声をあげる。


「馬鹿な……、今私たちは…………はずだ」

 古竜の王の声が、少し震えている。


「ああ、そうだ。俺たちが死んだから、時の精霊に『やり直して』もらった。くそっ!」

 我ながら、冷静さを欠いた言葉だった。


「なるほどね、騎士くん。そうやって時の精霊を使うのか。ふふ……、しかし守ることばかり考えてちゃ、海底神殿は攻略できないよ?」

 月の女神様だけは楽しそうだ。

 俺はその言葉に冷静になる。

 そうだ、まずは俺たちがどうやって殺されたのかを確認しないと。


「古竜の王。さっきは、どうやって俺たちは殺された?」

「リヴァイアサンの身体に無数にある鞭のようなひれが死角から我らを襲った。気づいた私は逃れようとしたが、回避した行動に攻撃を合わせられた。……神獣は未来が視えているようだ。私の未来眼よりも先の未来が……。それよりも時の精霊にやり直させた、とはどういうことだ?」


「そのままの意味だよ。俺たちが死んだら十数秒くらい過去に戻るように、時の精霊にお願いしておいた」

「…………私はこんなやつに戦いを挑んでいたのか」

 古竜の王がぼやくが、答える暇はなかった。

 俺は運命魔法『加速思考マインドアクセル』で考え続ける。


 今のは最善手だった。

 できる手段は全て使った。

 しかし、届かなかった。

 

 周りでは天使と水の大精霊たちの戦いが、より激化している。

 絶えず断末魔が聞こえる地獄のような光景だ。


 水の大精霊は無限に集まっているが、天使の数も全く減っている様子は無い。 

 リヴァイアサンの鱗から、次々と新しい天使が現れている。

 待っていても、事態は好転しない。

 

(……何ができる?)

 じわりと、不安が胸を染める。 


 加速思考マインドアクセルで、一秒を引き伸ばし考え続けるが良い考えは浮かばない。

 代わりに、月の女神様が俺に声をかけてきた。


「さてさて騎士くん。ここで残念なお知らせだ。僕がノエルちゃんに降臨できる時間がそろそろ尽きる。

そうなると月の落下はこれ以上できない。月を元に戻せば、リヴァイアサンが海底に戻ってしまうね」

 それは最後通告だった。


「あと……、どれくらいですか?」

 絶望的な心地で質問した。 


「残り1かな。それを過ぎれば騎士くんの挑戦は失敗。晴れて僕の下僕入りだ」

 月の女神様は、愉悦に満ちた顔で俺へ告げた。

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